岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「ブナの木通信」(「星座」71号より)

2014年09月30日 23時59分59秒 | 作品批評:茂吉と佐太郎の歌論に学んで
「ブナの木通信」(「星座」71号) 斎藤茂吉と佐藤佐太郎の歌論を踏まえて。

 (レストランに争う声を聞く歌)

 レストランの一場面です。おそらく激しい争論の声が聞こえたのでしょう。食事をしながらそれを聞く作者の衝撃が「クーラーの風が痛い」という言葉で見事に表現されました。


 (川の流れに源流を連想する歌)

 この一首は誌上に書けなかったので、ここで批評します。この作品は読者の連想力を引き出す作品です。それは固有名詞が詠みこまれていないからです。固有名詞が活きる場合とそうでない場合があります。

 (鹿の声を飛火野で聞く歌)

 飛火野は春日野の別名で、若菜や鹿の名所です。そこを歩みながら鹿の声を聞いたのでは、という錯覚をした。感性の鋭い作品です。


 (幸せは与えられるものではないと気づく歌)

 人の生き方を暗示した作品です。幸福は自分から求めてゆくもの。それに気づいたということに作者の覚悟がうかがえます。




 (亡き人のパスポートの歌)


 挽歌でしょう。上の句の具体を下の句の表現のように受けとった作者。心情をあらわして余りあるものがあります。


 (亡き父の椅子に花びらが積もる歌)

 亡き父への挽歌です。椅子、散り積もる花を払う人がいない、といった具体を詠みこんだのが成功しました。


 (雑踏にキャスターの着いたカバンを持ち歩く歌)


 おそらく大きな鞄でしょう。その底に付いている車輪の音が、人間にかかった枷を連想させる。様々なしがらみにとらわれている現代人の心情を捉えられました。


 (花活けの花が水を押し上げる歌)

 (メールを送信する歌)

 この二首は誌上で批評出来なかったので、ここで批評します。

 一首目。活けられた花ですが、生命力をもち続けている。それを説明せずに、「花活けの水を押し上げる」ことの着目したのが、成功し、作者の独自の視点が感じられます。

 二首目。送信のボタンを押すという、作者の行為を、自分に引き付けた下の句の表現によって、われを凝視する切実な作品となりました。

【補足】僕が作品批評で取り上げる作品は、主題が鮮明なもの、作者の生き様が感じられ、叙情の質が明確なものである。気分先行のもの、それらしく装ったものは除外している。


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