日本近代文学館「夏の文学教室」 2019年7月29日~8月3日
於)有楽町よみうりホール
ほぼ毎年受講している「夏の文学教室」。今年のテーマは「文学の現在ー越境・往還する言葉」。越境・往還とは時代・ジャンルに囚われない、ということ。
越境文学というジャンルがあるように、外国籍の作家が日本語で執筆したものがあるが、これで意味が分かるだろう。この文学は「国境を越える」ということだが、作家自身が作風を変える、心境が変化する、切り込む角度を変える。様々な「越境」が語られた。
講師とテーマ。
楊逸(ヤンイー)「もう一つの越境~ヘミングウェイとこの百年」
野谷文昭「中上健次を南米文学として読む」、中島京子「帝国図書館と作家たち」
島田雅彦「祈りと無為無策の時代」、川本三郎「小説が映画になるとき」
赤坂真理「トランス天皇論」、町田康「古典のおもろみ」
鹿島茂「三島由紀夫とフランス文学、柴咲友香「言葉と言葉のあいだで」
京極夏彦「物語の在り処~遠野物語を巡って」、古川日出男「二人の宮沢賢治」
辻原登「渡りをへたる夢の浮橋」、柴田元幸「翻訳と日本語」
伊藤比呂美「芥川が見たかったもの」、藤沢周「今こそ 安吾」
真藤順丈「叙事詩としての沖縄」、柳美里「現在地から」
高橋純一郎「日本文学盛衰史 未来篇」。
内容をアトランダムに書く。
楊逸:ヘミングウェイの作風の変化を時代とともに追った。
野谷文昭:中上健次が南米文学の影響を受けていることを話しつつ、中上健次の作品を紹介。中上健次は毎年のように取り上げられるが、この講義で初めて中上の作家像が浮かんだ。
島田雅彦:平成の社会の停滞を批判的に論評した。
赤坂真理:独自の切り口で天皇制を論じ、平成から令和への改元騒ぎに疑問を呈した。
京極夏彦:柳田の「遠野物語」の読み解き。川本三郎:松本清張の「張込み」が映画化されるときの変化を追う。
藤沢周:坂口安吾の逆説的社会批判の紹介。
真藤順丈:沖縄の歴史を踏まえて、作品「宝島」を、フィクション、ヒストリー、エモーション、ナレーションと四つの角度から作家自身が創作の過程で乗り越えて来た境、課題を語った。
高橋源一郎:ヒロヒト天皇の戦争責任、戦争の記憶の風化、朝鮮人虐殺などのついて語り、掘りさげる必要性を述べながら、「文学はこのためにある」と語った。
また多くの講師から「翻訳は創作だ」という話があった。外国語から日本語への翻訳、古典の現代語訳。
文学の在り方、作家の姿勢、着眼点、文学の社会性、時代性。など多くのことを考えさせられた。