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書評:「鑑賞 斎藤茂吉の秀歌」 長澤一作 著 短歌新聞社刊

2014年06月13日 23時59分59秒 | 書評(文学)
「鑑賞 斉藤茂吉の秀歌」長澤一作 著 短歌新聞社刊


 斎藤茂吉の作品の紹介本としては、佐藤佐太郎の『茂吉秀歌』(上下)、塚本邦雄の『茂吉秀歌』(全五巻)が知られている。だが一冊にまとまったものではない。斎藤茂吉の短歌作品が、膨大な量になるのがその原因だろう。

 しかし読者としてはコンパクトにまとまったものが読み易い。それを満たしてくれるのが本書である。

 一冊にまとまっているので、収録歌は多いとは言えない。だが代表歌は収録されている。本文中に引用されている作品を含めると、十分な数だ。

 本書の特色としてもうひとつあげられるのは、巻頭に「斎藤茂吉私記」、巻末に「年譜」があることだ。いわば歌人斎藤茂吉の全体像を俯瞰するのに好都合だ。

 この本には一つのエピソードがある。著者の長澤一作は、当時、佐藤佐太郎率いる「歩道短歌会」に所属していた。長澤は佐藤佐太郎の初期の弟子であり、その意味で当時、佐藤佐太郎と近しい関係にあった。
 
 長澤が佐藤佐太郎に、『鑑賞 斎藤茂吉の秀歌』を見せたところ、「なかなかいい」と佐藤佐太郎から褒められたと言う。(これは長沢一作から直接聞いた)

 数年後、佐藤佐太郎の『茂吉秀歌』(上下)が刊行された。その意味で、佐藤佐太郎の『茂吉秀歌』に先行する好著と言えよう。

 巻頭の「斎藤茂吉私記」から、幾つかの文章を引用しよう。

「おのれの生をいとおしみ、それゆえに強烈な詠嘆がほとばしる。それはかつての根岸派とはちがう抒情詩であり、自身の感覚できりひらいたものであった。日本の文学にかつてない新鮮な生命燃焼の抒情といってよい。」

「ただここでいっておきたいことは、・・・『写生』は、いわゆる近代西欧の写実主義とは趣きを異にしているということである。『写生』は、もちろん現実に立脚する。ほしいままな空想を排し、浪漫主義的な傾向と対立する。その意味では写実と軌を一つにするが、さればといって散文的リアリズムではない。」

 斎藤茂吉の短歌とその特長を、捉えられる好著である。「短歌新聞社」は解散した。本書も絶版である。アマゾンの古本に出ていたら、躊躇せず買い求めるのをお勧めしたい。

時折、「斎藤茂吉は近代短歌での『前衛短歌』だった」と言われる。品田悦一著『異形の短歌斎藤茂吉』にも書かれているが、斎藤茂吉のそういった一面を知ることができるのも本書の魅力の一つと言えよう。




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