・はかなごとわれは思へり今までに食ひたきものは大方(おほかた)くひぬ・
「食」は人間の生活の基本だ。
ロビンソンクルーソーでも主人公はまず、島のなかで飲料水になる湧水を探し、そののちに食料の調達法を工夫する。衣食住というが、まずは「食」とも言える。
今度の震災でわかったことの一つは、首都圏が食糧をいかに東北地方に依存していたかということだ。
学校の地理の教科書や参考書の出てくる東北地方の農業は至極簡単に扱われている。押えるところは4つ。
1・山形県の桜桃(サクランボ)は国内生産の8割を占める。
2・山形県は葡萄・福島県は桃の生産高がともに山梨県に次いで第2位(全国の総生産高に占める割合は2割ほど)。
3・東北6県の米の生産量は合計で全国生産量の3割ほど。
4・青森のリンゴ生産は全国の生産高の6割で、長野県がこれに次ぐ。
こう箇条書きにすると何とも味気ないが、ホウレンソウ・シュンギク・カキナ・ミズナ・シイタケなど食卓に欠かせないものがたくさん生産されている。これに北関東3県を含めると、ハクサイ・キャベツなども首都圏に送られている。
畜産では和牛のブランド肉・牛乳なども多い。水産物を含めると、まさに首都圏の食糧生産を一身に背負っている感さえある。こういうものが原発の事故によって、身近にかんじられた。「東北地方・北関東は東京湾岸のメガロポリスの食糧庫」。さらに付け加えれば、青森のヒバ、秋田のスギなどと、それを原料としたベニヤ板。住宅資材も東北に依存していた。
都市は食糧生産にたずさわらない巨大人口を抱えている。まして「日本は工業国」という印象が強すぎて、東北の授業はさらっと終わらされることが多い。
教科書はどの教科書会社も全国一律編集だからこうなるのだろうが、首都圏に住む人間には、北関東と東北の食糧生産は都市の基盤とも言える。それをもっと実感を伴って授業にかけるには、首都圏用、中部圏用、近畿圏用などと多様な教科書を作れるようにし、東北の生徒は自分たちの県や地方で生産されたものが誰に消費されるのか。首都圏の都市に住む生徒には自分たちの食べるものがどこでどう生産されているのかを具体的に記述すれば、地理に興味を持つきっかけにもなろうというものだ。
東北・北関東の第1次産業が、東京などの食糧を支えている。このことを思い知った震災の一断面だった。出荷制限されているものは市場に出ていないということだから、制限されていない野菜は福島県や北関東のものを選んで買うようにしている。風評を流すのも、それを防ぐのも人間の冷静な判断だと思う。放射能といかに「つきあう」かは、また別の記事にしたいと思う。