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「パレスチナ紛争史」集英社新書:横田勇人著:書評

2013年10月12日 23時59分59秒 | 書評(政治経済、歴史、自然科学)
「パレスチナ紛争史」集英社刊 横田勇人著

 パレスチナは紛争が絶えない地域である。紛争の構図も複雑だ。構図の一つは「ユダヤ教」と「イスラム教」。それから「ユダヤ人」と「アラブ人」。また、アメリカ、旧ソ連などの「大国」の思惑もある。

 中東問題を考える上で、この様な複雑な、紛争の構図を整理しなければならない。それには、紛争の原因、過去の紛争の歴史、現在の状況、そして未来へ向けた解決の展望などを考える必要がある。

 本書は、そういった「厄介なこと」を整理できるという特色がある。

 内容を一部紹介しよう。


・紛争の原因:

 第一次大戦のときに、イギリスは当時パレスチナを支配していた、オスマントルコ帝国と戦った。それに勝利するには、パレスチナに住んでいた、アラブ人、ユダヤ人の協力が欠かせなかった。
 
 そこでイギリスは、アラブ人に戦闘に勝利したのちはアラブ人の独立を約束した。(フサイン・マクマホン協定)。その一方で、ユダヤ人にも独立を約束した(バルフォア宣言)。その裏では、フランスと戦後の中東地域の分割を密約した(サイクス・ピコ密約)。本書ではこれを「二枚舌外交」とする。


・紛争の歴史:

 第一次より第四次までの中東戦争を素描する。それぞれの戦争にそれぞれの原因があるのだが、アラブに支配権を及ぼそうとする大国の側に、イスラエルは立った。特に第二次世界大戦のあとは、アメリカとイスラエルの関係が深い。


・現状:

 エジプトとイスラエルの単独和平、オスロ合意(パレスチナとイスラエルの和解・パレスチナ暫定政府の誕生)、イスラエルの入植(アラブ人の土地を奪う)の継続、それに対するパレスチナ人の抵抗(インチィファーダ)、湾岸戦争、9・11同時多発テロ、アメリカによるアフガン戦争、ブッシュアメリカ大統領による「イラクでの戦闘終了宣言」。

 オスロ合意で、中東和平の展望が見えたようだったが、混迷は深まっている。国連決議を度々無視するイスラエルにその原因があるように思うが、著者は「イスラエルの論理」という一章を設けて、「イスラエルの主張」も紹介している。


・展望:

 著者は、アラブ人の若者にイスラエルへの憎しみがつのっているのを憂慮しつつ、「イスラエル、パレスチナ双方の政治的妥協が必要」と結んでいる。「それには過去のことに一切触れないことが必要」とも言う。ここが難しいところだが、紛争が「憎しみの連鎖」となっていることを考えると、必要な決断かも知れない。

 なお、この問題については、芝生瑞和著「パレスチナ」、広河隆一著「パレスチナ」も参考となる。(だがこの2書は、9・11以降の現代に比重を置いているので、全体像を先ずつかむには、本書が適当なようである。)




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