天童大人プロデュース「詩人の聲」 2015年7月
1、飛火野椿 於)東京自由大学 7月6日
飛火野は3回目の公演。言葉の響きが強くなってきた。落ち着いて噛みしめるように読んでいるが、まだ聲の力が弱い。一篇ずつ区切って読むのだが、その一篇をまた区切って読むから聞き取りにくい。
作品からは甘い少女趣味的なものが減ってきた。人間の葛藤、人間への讃歌が感じられるものが出始めた。
だがまだ理窟に傾くものがある。外見の過剰な装いも目立つ。マイクパホーマンスには必要でも、肉声で読むときは、パフォーマンスは必要ない。
2、竹内美智代 於)ギャルリー東京ユニマテ 7月7日
竹内は35回目の公演。鹿児島弁が活きている。聲も完成の域に達している。作品は、幼児期の体験、家族、故郷への愛惜、人間の生き方。川内原発など社会への鋭い視線もある。
鹿児島弁なので、一語一語は拾えないが、作品の完成度と作品の主題が鮮明なので、抒情は伝わってくる。
3、高橋睦郎 於)東京平和教会 7月8日
高橋は14回目の公演。このプロジェクトの参加回数は少ないが聲は完成している。本人は自分の聲が、気に入らないそうだが、初対面の人から「いい声だ」と言われるそうだ。なるほど聲が済んでいて、聞いていると心地よい。声量もある。
作品は「アニミズム」の世界だ。死者と対話しているような作品が多い。大学国文学会の講演で聞いたのだが、幼児期に不思議な体験をしたそうだ。それが彼の世界観を作ったらしい。その世界観が正直に作品に反映している。
一緒に酒を飲んだ、話しにユーモアがあり、人を惹きつける魅力がある。
4、天童大人 於)東京自由大学 7月13日
天童は55回目の公演。重量感のある聲、安定したリズム。聴いていて抒情の方から心に飛び込んでくるようだ。先日刊行した『ピコ・デ・ヨーロッパの雪』の全編が読まれた。
天童自身はこの日の聲が万全ではないそうで、万全な聲で読んでから次へ進むだろう。
5、文屋順 於)キャシュキャシュダール 7月18日
文屋は8回目の公演。心に響くよい聲になってきた。聴いていて心地よい。だが作品は初期のもので、完成度はあまり高くない。理窟に傾くものがある。
これを吐き出したときに新境地が開かれるだろう。
6、禿慶子 於)キャシュキャシュダール 7月22日
禿は31回目の公演。82歳の高齢だが、それを感じさせない聲の若さと力がある。作品には重さがあり、内容が恐ろしく深い。自分の心の中を掘り下げるもの、母なる海、生命への讃歌。ここがしっかりしていて作品の完成度も高い。
だから長編詩を聴いていても飽きない。
7、飛火野椿 於)ギャルリー東京ユニマテ 7月24日
7月2回目。通算4回目の公演。作品の主題がハッキリしてきた。まだ内容が浅いもの、中途半端なものはあるが。
一篇の作品を何枚かの紙に書き分けていて、不規則に区切りを入れる。だから作品の全体像がぼやけてしまう。
聲も40分過ぎから急に力を失い、一時間聲をだすだけのものがまだ育っていない。
8、筏丸けいこ 於)キャシュキャシュダール 7月28日
34回目の公演だ。新詩集のゲラが読まれたが、「筏丸節の炸裂」だった。勢いと力があり、気風がよい。都々逸のような定形のリフレインを活かした作品もある。
作品全体は暗喩表現のものが多いので、「イラク戦争」を批判的に作品化したものは全体の中に調和していなかった。
9、渡ひろこ 於)キャシュキャシュダール 7月31日
6回目の公演。聲と言葉に力と鋭さが感じられるようになった。だが作品に甘さがあり、ポーズの付け過ぎが随所に見られた。
「母の戦争体験」を主題とした作品群。これは良かった。これはリアリズムに近いが、モダニズム的な作品もあって、自分の作風、独自性をどこに求めるか。これが課題だろう。