「夜の林檎」所収。
桜を詠むのは難しい。「風」「花びら」「散る」「舞う」など決まり文句があるからだ。それでも何とか詠んでみたい。そう思って詠んだ作品だ。
そこで「桜の花そのもの」ではなく「花の輪郭」を素材にした。そして街灯に照らされる「夜の桜」。
僕の家の近所に桜並木がある。幹線道路なので街灯も多く明るい。それにしては人通りが少ない。「夜桜」だが花見の雰囲気はない。静寂のなかで水銀灯が桜の花を照らし出す。桜色ではない。モノクロの世界だ。
それと下の句の音韻。「・・・の・・・の・・・の」とリズムを整えた。個人的には、この反復は心地よい。佐佐木信綱の代表作にもあった。春日井健も好んだ。だからという訳ではないが、僕のまわりには使う人が少ないので、あえて使った。
モノクロの世界の「夜の桜」の印象を読者が感じてくれればいいと思った。
「運河」誌上での批評では、「気の効いた一首」といわれた。素直に褒め言葉と僕は受け取っている。