「夜の林檎」所収。
病気療養に入る前、仕事場の左右両隣で建物の解体・新築工事があった。電動ノコ・木槌・ハンマー・などの工事音が日暮れまで響いた。
その工事というのは、かたや寺院建築であり、かたや「ツーバイフォーらしき」住宅だった。寺院の方は「宮大工」らしき職人。住宅にほうは一般の工務店。その作業の有様の違い工法の違いも面白かったが、朝と夕方では工事の音の聞こえ方が違っていたことだった。
「工事人ら」は夕暮れが近づいたからと言って、急に突貫工事にはいる訳ではない。普通どおりに作業をしているはずだが、聞いていると2倍近い速さに思えるから不思議だ。
夕暮が近づくと作業のテンポがはやまる場合はあるだろうが、2倍近くになるということは、いくら何でもありえない。そう感じるのはひとえに主観のなせる技だが、何もストップウォッチで計るわけでなし、これもひとつの詩的把握。
夕焼け空をバックにして屋根の上の人影が、せわしく動いていたのを、今でも思い出す。こういう情景に出くわせば、今ならもっと違う表現をし、しかも何首も詠えるだろうから、作としては未熟だと言えるが、何やら捨て難いのである。これも歌境の進展の結果だろう。
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