「塚本邦雄研究の會」於)東京 日本出版クラブ会館
前衛短歌。1950年代から1970年初めまで、現代短歌に大きな影響を与えた短歌運動。作家としては、岡井隆、寺山修司、塚本邦雄が知られている。
その塚本の研究会が東京で開かれた。例年は京都で開かれるが、今年は没後10年を記念して東京で開催された。歌人が100人近く参加した。僕は「寺山修司論」を書きあげて、「岡井隆論」「塚本邦雄論」をまとめようと考えているので、ヒントになるものが得られるのではあるまいかと考えて参加した。
先ず3人の歌人による基調講演と鼎談。小島ゆかり、花山多佳子、尾崎まゆみ。テーマは「女性歌人から見た塚本邦雄」。
小島ゆかりは、前衛短歌は短歌史の問題になっているとし、主として塚本短歌のレトリックについて述べた。花山多佳子は「塚本邦雄と戦争」と題し、塚本が晩年に至るまで、戦争をテーマにした作品を残しているのに焦点を当てた。尾崎まゆみは「言葉と肉」と題して塚本短歌と時代とのかかわりに焦点をあてた。
鼎談では主に、塚本短歌の時代性とレトリックについて語られた。その後会場から「角川短歌賞」「短歌研究賞」の受賞者が次々と発言した。傾向としてベテランの歌人は「塚本短歌の時代性、思想性」について述べた。若い歌人は「レトリック」について述べた。
「前衛短歌は政治的前衛ではなかった」と言われ、塚本邦雄の思想性、政治性が語られることは滅多になかったが、思想性、政治性にもっと注目してもいいと思った。「塚本邦雄論」を書くヒントをたくさん得られた。
思想性については次の様な発言がなされた。
「塚本邦雄の原点は、呉で広島の町が燃え上がるのを見たことだ。塚本短歌の技術だけでなく、思想を見直す必要があるのではないか。」
「(戦争法案が審議される)今の政治情勢で、塚本邦雄が、どんな作品を残すだろうかと思う。」
「塚本の短歌の特徴に、日本という国家、戦争に対する、明確な思想がある。」
また、ある歌人から次のように言われた。
「最近、君のブログを毎日、注目して読んでいる。私も戦争についての意思表示をしようと思う。」
それぞれの言い方で、現代の政治についての異議申し立てとなった。これから歌人が社会的発言が、増えていくような予感がする。
短歌の創作活動については、「玲瓏」の歌人と話しこんだ。「塚本邦雄を論ずるには日本論を念頭に入れなければだめだ。」「塚本邦雄が斎藤茂吉を研究した重要性を考えよう。」「尾崎左永子著『佐藤佐太郎秀歌私見』と、
僕の著書『斎藤茂吉と佐藤佐太郎』を相互に補完しながら、佐藤佐太郎を考えている。」と言う歌人もいた。
このブログの書評で紹介した『耳ふたひら』の著者と直接話すことも出来た。
このように、話題は尽きなかった。だが塚本邦雄について考えていた、社会性、思想性について、方向性としては間違いなかったという感触を得た。