・空のはて長き余光をたもちつつ今日よりは日がアフリカに落つ・
「つゆじも」所収。1921年(大正10年)作。
「12月1日。アデン湾。3日。紅海。」という詞書がある。長崎から東京に戻った茂吉は休む暇なく横浜より船に乗り、スエズ運河経由でヨーロッパに向かった。
上の句で雄大なアフリカ大陸の景が浮かび、「今日よりは」の表現によって「いよいよアフリカにやってきた」という感慨が感じられる。佐藤佐太郎「茂吉秀歌」・長沢一作「斎藤茂吉の秀歌」・塚本邦雄「茂吉秀歌・全5巻」のいずれもこれをとりあげていないが、「アフリカに日が沈む」という雄大な景をとりこんでいるところに僕は魅かれる。
「長き余光をたもちつつ」もこのときの作者の位置ならではの見え方だろう。1921年(大正10年)の作だが、この時代、アフリカを詠み込んだのは、おそらく茂吉が初めてではなかったか。それに加えてこの臨場感である。もっと評価されてもいい作品だと思う。
5句31音と極めて短い詩形だが、それでこれだけの内容があらわすことができるのは短歌ならではの特徴だろう。
俳句・短歌・自由詩・散文。それぞれ表現できる抒情の質と内容が異なっている。当然、自由詩や散文のモノサシで短歌を批評するのは齟齬をきたすおそれがある。
各ジャンルそれぞれの特長というものがあるのだから。