岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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自然への畏れ:震災を機に考える

2011年04月07日 23時59分59秒 | 政治経済論・メモ
「実相に観入して自然・自己一元の生を写す。これが短歌上の写生である。」(「短歌に於ける写生の説」)

「観入はつまりは実相、総体、骨髄、核心に到りつくのであるから、対象に対する態度は平等無私であるべきである。」(「短歌初学門」)

 岩波文庫「斎藤茂吉歌論集」127ページ・307ページより。

「実相観入」という言葉は、とかく宗教的に捉えられがちである。その理由は「自然・自己一元の生を写す」「生を写す」などという言葉からくる。だが茂吉は「短歌は道歌のたぐいとは違う」と述べているし、佐藤佐太郎も「短歌と御詠歌は違う」と述べている。

 短歌が作れるときは、神経が集中しどことなく敬虔な気持ちになるのだが、その心境が宗教的悟りの境地とは違うのは言うまでもない。「実相観入」

 今度の震災。人間社会の様々な問題を浮かびあがらせた。

 まず交通通信のもろさ。三陸海岸沿いの漁港で名の知れた町は軒並み壊滅的被害を受けた。三陸海岸といえば、1960年のチリ地震で大きな被害を受けた。だから「津波対策のお手本」と言われるほど、防潮堤・防潮林・防災無線・ハザードマップ・避難体制など行き届いていたはずだが、今回の津波は「想定を越える」ものだったそうだ。その想定が如何なる基準で作られたものかわからないが、自然の猛威は人間の予想をはるかに超えた。道路がそれぞれの町や集落をつないでいたが、地震により寸断され、燃料不足・電気の不通などにより、それぞれの町や避難所が孤立した。
 あれだけ普及していたインターネット。電気がなければコンピューターはただの「鉄の箱」に過ぎない。携帯電話も中継局がなければ通じない。文明の利器とか最先端と言われたものの基盤が実は驚くほど脆弱だったことになる。

 次に原子力発電。原子力エネルギーは未だ人類が十分にコントロールできないものということを明らかにした。原発の安全性についてよく「関東大震災クラスの地震にもたえうるように設計されている」と言われていたが、今回の地震は関東大震災の45倍ものエネルギーだった。今から思えば長い地球の歴史のなかで、関東大震災を上回る地震は何度も起っていたはずだ。普通の火なら水をかければ消える。だが原子力発電所は制御棒が入れられて原子炉が停止しても、冷却水を循環し続けなければ放射性物質を出すという。ほんの3時間冷却水が循環しなければ、燃料の一部が損傷して放射性物質を出し続けるという。「・・・という」ではなく実際にそうなのだ。

 最期に情報の発表の仕方。原子力安全保安院と東京電力の発表は何か違和感を感じる。国際原子力機関の事務局長が来日して、首相が「情報を包み隠さない」ことを確約した直後、危険度がレベル4からレベル5に変わった。ほんの数時間前に「レベル4だから、アメリカのスリーマイル島の原子力発電所の事故ほどではない。」と言った専門家の発言は覆された。海外の専門機関の中には「チェルノブイリ(レベル7)程ではないがスリーマイル島(レベル5)を上まわる事態ではないか」と言われている。(4/12にレベル7に引き上げられた。)そもそも最初の水素爆発の水素は炉心から出ているはずなのに、放射線だけが漏れない筈はない。情報社会というが、その情報をうけて判断するのは人間である。流言飛語のたぐいもあるだろう。

 公的情報を含めてそれを冷静にうけとめ、冷静に判断するのはコンピューターでも誰でもない。人間である。コンピューターは今のところ人間の脳のかわりにはならない。(「運河」331号 < エッセイ・新ものを見る眼 >黒谷亨)

 産業革命以降の人類は「自然は克服するもの」として生きてきた。しかしそれが意外にもろい考え方であることが白日のもとにさらされた。

 農産物や水道水から基準以上の放射性物質が験出されたとのニュースがはいってきた。僕も被災者のひとりになった。病人食にホウレンソウや青菜は必須の食材である。ほとんど毎日食べる。

「継続して摂取しなければ、ただちに健康に害はない。」

僕には継続して摂取する必要がある。入院食でも青菜は定番だ。この説明をどう受け止めればよいのだろうか。僕は自然崇拝者ではないが、文明への過度の「信仰的依存」には懐疑的である。「自然を畏れよ」である。


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