岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

詩人の聲:2015年11月(2)

2015年12月06日 11時10分10秒 | 短歌の周辺
天童大人プロデュース「詩人の聲」2015年11月(2)



6、柴田友理 11月21日 於)キャシュキャシュダール

 柴田は35回目の公演。聲が出来上がっている。大きく響く聲。リズムも心地よい。大地に両足でがっちりたったような聲だ。九州の飯塚弁が効果的に使われている。以前は方言の珍しさに頼ったものだったが作品の主題とマッチした使われ方がされている。


 作品の全体の傾向は幻想的な宇宙観だ。この傾向に以前はおどろおどろしさがあったが、今では全く消えた。これは歓迎すべき大きな変化だ。神秘的な作品に、人間の生と死、人間の相互の関係、人間の苦悩、自己凝視。こうしたものが哲学的な表現になっている。


 比喩と暗示が多用され独特の表現世界を構築している。幻想的だが甘いファンタジーではない。人間が描かれ、社会への批判的な目もある。


 前回は幻想的なものと事実を事実として表現した作品が混在していたが今回は作品に揺るがない一貫性があった。


7、長谷川忍 11月25日 於)ギャルリー東京ユニマテ

 長谷川は33回目の公演。今回は「川崎詩人会」の雑誌に連載されていたエッセイ「川崎雑記」を読んだ。

 川崎は長谷川の故郷だ。望郷の念、ノスタルジーの感じられるものだった。これは長谷川の独自性で詩集『女坂より』の世界だ。

 だが現代詩を読む場合と散文を読む場合では聲の出し方が違う。またエッセイのまとめ方も天童から指摘されていた。「詩人の聲」は文学学校でもある。



8、北原千代 11月26日 於)キャシュキャシュダール


 北原は15回目の公演。滋賀県大津の詩人だが、エッセイを読んだ。心地よいリズムの聲。文学者の思想、世界観を探るエッセイだ。

 だが何故か空間的広がり、宇宙を連想させる文体だ。これはエッセイが感想文ではなく、作家の文体と思想を多面的に見ているためだろう。


 北原の詩作品も是非聞いてみたい。


9、禿 慶子 11月27日 於)キャシュキャシュダール

 禿は34回目の公演。83歳の詩人だ。だが聲は全く年齢を感じさせない。若々しいのだ。作品にも風格と厚みがある。作品の素材は「雪原」「花びら」「枯葉」「彼岸花」などだが、その中に人間への愛おしみ、戦争への批判的視点、人間の命への愛情が感じられる。

 そして重要な特徴だが難解語がないのだ。平易な言葉で深い意味を表現している。最後に旧作を読んだが、これはモダニズム的な作品だった。83歳にして新境地を開拓しつつある。

 会話をしていても実に若々しい。好奇心が旺盛で、会話の内容に愚痴がない。これは人間的な魅力であり、作品の魅力にもつながっているのだろう。


10、川津望 11月28日 於)キャシュキャシュダール

 川津は8回目の公演。8回だがかなり間があいている。そのせいだろう。聲が出来上がっていない。これは天童に指摘されていた。

 だがムキになって読む傾向はなくなった。作品の言葉遣いもしなやかになってきた。対象への愛おしみ、孤独な作者像、自己愛、人間の自我、葛藤。こうしたものが作品化されている。

 これは大きな進展だ。これからが期待される。  




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