「緊急事態条項」を日本国憲法に設ける危険性。
「緊急事態条項」を日本国憲法に設けようという声が上がっている。しかしこれは甚だ危険だ。戦前のナチスが合法的に独裁政権を樹立できたのは「緊急事態条項」があったからだ。
手順は次の通り。
ナチスが国会議事堂に放火し、これをドイツ共産党の犯行だとして「緊急事態条項」を発動させた。これのより反対党のドイツ共産党は活動停止に追い込まれ、同党の国会議員も国会に登院できなくなった。
総選挙で、ナチスは国会の過半数を失った。これは国民が「緊急事態条項」の発動に不安をいだいたからだが、反対党のドイツ共産党が、壊滅させられたのに不安を感じた、ほかの野党は「緊急事態条項」の発動中止を期待して、ナチスの提案していた「全権委任法」に賛成し成立した。これによりワイマール憲法が停止され、国会の議決を経なくとも、ヒットラーの指令が法律と同じ効果を持つようになった。
ドイツ、アメリカ、フランス、アメリカには「緊急事態条項」にあたる「国家緊急権」がある。しかしこれは濫用できないように工夫がされている。「国家緊急権」とは、国家権力に権力を集中させる、民主主義とはベクトルが逆のものだからだ。
「国家緊急権」。ドイツでは憲法にあたる「基本法」に設けられているが、行政から独立した司法と、議会による厳重なチェック体制がある。ほかの国は、憲法ではなく法律で「国家緊急権」が規定されており、フランスの場合「国家緊急権」が発動されたのは「アルジェリア動乱」だけ、アメリカも「南北戦争」の時だけ、イギリスは内容が限定されている。
またドイツの国家緊急権は、日本の「災害救助法」「災害対策基本法」のような内容で、災害時に権力を州に分散させる内容となっている。
それに対して、自民党の憲法草案では「内閣総理大臣の判断で国家緊急事態の宣言」「法律と同じ効力を持つ政令の制定」「国会議員の任期の延長」「緊急事態の延長」など、議会、法律、憲法の停止という恣意的運用が可能になっている。
「国家緊急権」とは、君主の先制権力を残したもので、アメリカでは戦時立法に当たる。これが日本国憲法に設けられれば、ナチス張りの「独裁政権」が可能になる。
これがまさに「ナチスの手法」だ。
*書評・政治・経済・歴史の「憲法に緊急事態条項は必要か」「ナチスの時代」「ナチズム」「ヒットラーとナチズム」をご参照ください。*