アーサー・ビナード 著 「日々の非常口」 新潮文庫
詩人、アーサー・ビナードは、英語、日本語、イタリア語を習得している。日本語で詩を書き、詩集『釣り上げては』で中原中也賞を受賞した。いわば英語と日本語との読み書きが流暢に出来るアメリカ人だ。
本書の「あとがき」には、次の様に書かれている。
「英語と日本語の間を長いこと行き来しながら暮らし、母国アメリカと第二の母国ニッポンと、どちらも離れた位置から捉えられるようになった。その結果、両国の『欠点袋』の中を覗き込む術も、いくらか身についたかもしれない。また、それぞれの『美点袋』の探り方も覚え、行ったり来たりして生きていることが、ますます楽しくなった。」
本書は、三章立てで、90篇の、エッセイが収録されている。見開きに一篇ずづなので、読み易い。電車の中で読むには最適だ。一篇のそれぞれは短いが読み応えがある。
内容は大別して、三つほどになる。
1、日本語の美しさに関するもの
2、英語と日本語の比較対象をしたもの
3、日米の政治経済に関するもの
印象的な一文を、それぞれから紹介しよう。
1、日本語の美しさに関するもの、
「日本語の『残雪』はドンピシャリ。その端正な二字には無駄がない。響きも引き締まって、かといってきれいすぎず、濁音のラフなざらつきも残る。そこに僕は、一首の悲壮美さえ感じる。」
2、英語と日本語を比較対象したもの、
「言語というのは、それを使う人々が何に関心を持ち、どの分野を極めようとしてきたのか、如実に物語るものだ。と考えると、にわかに母語が恥ずかしくなる。なにしろ英語で最も豊富でかつ事細かに表現されてきたものは『酔っ払う』ことだから。」
「peanutsが『落花生』と名づけられているのを知り、逆にネーミングの妙に感服した。なにしろ花が咲き終わると、本当に産み落とすように土中へ潜り込んで、ピーナッツは実る。」
3、日米の政治経済に関するもの、
「今、日本の国会では、憲法改正が必要という意見が多数を占めているようだ。・・・しかし、ほぼノンソトップに戦争を繰り広げる米国で育ったぼくには、日本の平和憲法がとても貴重なものに見える。」
「ホテルの部屋で、テレビを点けてみると、米大統領選の候補者の討論会が始まったばかりだった。イラク戦争が繰り返し何度も話題に上り、千人をこえた米軍側の犠牲者が天秤にかけられた。が、米軍に万単位で殺されているイラクの市民は、取り上げられることはなかった。」
アメリカ人の「リベラリスト」は、アーサー・ビナードのような人を言うのだろうか。日本で「リベラリスト」を自称する政治家も、自衛隊の海外派遣、憲法改正をも議論している。
そんなことも考えさせられる一冊である。