木村勝明は、5年ほど前まで、僕と同じ団地に住んでいた。その木村から、一枚の葉書が舞い込んだ。そこには「木村勝明 挿絵原画展」とあった。木村は、自らを「画家」とは呼ばず「美術家」と呼ぶ。その木村が「絵画展」を開くとは思いもよらない事だった。
「ギャラリー結(ゆい)」は、大田区という東京の下町にある。住宅地の中に在るので、探すのに些か苦労した。しかも当日は、雨の日だった。葉書の地図を頼りにやっと見つけららた。
そこには新聞小説への、挿絵の原画が展示されていた。「そうか新聞小説への挿絵を木村が描いたのか」と初めて納得出来た。
原画は二十数枚あって、額におさめられていた。その原画は、キャンバスの上に、白と黒とのポスターカラーを塗って、それを削って描かれたものだった。エッツジングという版画の技法を応用したものだった。
その技法の斬新さにも驚いたが、作品自体にも驚いた。白と黒のモノクロだが、迫力がある。又、小説のストーリーが蘇って来るようなものだった。小説の主題は「消極的な主人公が様々な経験をへて、人とのつながりを回復する」というもの。
僕はその小説を読んでいなかったが、その小説のストーリーが目に浮かぶようだった。ということは、木村が「小説の主題」をつかんで挿絵を描いたことになる。
小説に「主題」があるように、絵画にも「主題」があるのだと改めて思った「絵画展」だった。当たり前の事だが「芸術には主題がある」。逆に言えば「主題の無いものは芸術ではない」のだ。
このことは短歌にも当てはまる。改めてそう思った絵画展だった。
「ギャラリー結(ゆい)」は、大田区の糀谷(こうじや)という街にある。帰り際に、駅前でコーヒーを飲んだ。下町風情のする店なのが印象的だった。
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