≪先生が親に、いちいち伝えないことの意味≫(その2)
大事なことを書き忘れていました。
前回、先生とお母さんの子どもを「見守る覚悟」、
「待つ覚悟」が見事だと書きました。
でも、それ以上にもっとすごいのは
親と先生のあいだで了解されているその中身が、
Naoちゃんとクラスの子どもたちにもちゃんと伝わっていることです。
1ヶ月の間の「待ち時間」を可能にする、
親と先生の思いとコミュニケーションが、
Naoちゃんにも、クラスの子どもたちにもちゃんと伝わっているということ。
それは、Naoちゃんを「障害児」にしないチカラの一つなのだと思います。
私には、Naoちゃんがその1ヶ月の間、廊下に倒れて何を思い、何をしていたのか分かりませんが、基本的には不登校や引きこもりといわれる状態と一緒なのだろうと思います。
本人にも、「自分で行くこところまで行って、折り返してこないと、分からないこと」。
その「分からなさ」も含めて、「本人の納得」を大切にすること。
そういう「配慮」のカタチは、一歩間違うと、他の子たちの「不満」や「偏見」をもたらすこともあります。
でも、Naoちゃんのクラスの子どもたちに、そうした雰囲気は感じられません。
Naoちゃんの「不思議な行動」「奇異な行動」が、いじめや、排除、偏見につながらないのは、「そうならないチカラ」がちゃんと働いているからです。
そのことは、Naoちゃんが1人で立ち上げて、
一人で運営するクイズ係の様子でよく分かります。
☆ ☆ ☆
制止しなければ延々と問題を出してしまうため、
「2問まで」という条件を出されたNaoが出すクイズは超難問。
どんな頭脳明晰な人でも答えは出せません。
「このクラスで一番エラいのだ~れだ?」
「はぁ??」
答えはNaoにしか分かりません。
でも、クラスのみんなは正解を求めて頭をひねります。
次々繰り出される難問に、クラス一同ポカ~ン…ということもしばしば。
正解を聞いても、なんだか腑に落ちないNaoクイズ。
Naoのさじ加減ひとつで「正解」だったり「不正解」だったり…。
でも、みんな一生懸命考えて答えを発表してくれるそうです。
先日などは、「このクラスで、一番増えたの、だ~れだ」
「えっ…?何が増えた人…?」
みんな主語が分からず聞き返しますが、Naoは何も答えません。
Naoと仲良しの女の子の名前を挙げれば正解する確率が高いらしく、
すかさず「ヒナちゃん!」と誰かが言うと、「ブブー!」
あらら…ハズレです。
すると、ある男子が「○○先生!(担任の名前)」と発言。
「ピンポ~ン、当たり~!」
「…??…で、先生の何が増えたの?」
みんなの頭の中はハテナマークでいっぱいです。
黙っているNaoに代わって、ある男子が
「シミとシワが増えたんだよ~!!」
…クラス中が大爆笑したそうです。
☆ ☆ ☆
このチカラは、どこから生まれたのでしょうか。
それは、Naoちゃんが1年生から6年生まで、
クラスの仲間といっしょに過ごしてきた時間以外にはありません。
その時間が、育てたもの。集団として育んできたもの。
仲間のなかだけの共有された時間と物語。
それらがぶつかりあい、跳ね返りあって、Naoちゃんを育て、
クラスの一人ひとりの子どもたちを育ててきたのでしょう。
Naoちゃんの言動が、一般の学校常識とはずれていても、
子どもたちにとっては日常的に受けとめている現実であること。
その時間の中に、日常のいちいちの「Naoちゃんワールドの行動」を
問わない空気があります。
それは、先生が親に、いちいち伝えないこと、
親が先生に、いちいちたずねないこと、
先生が子どもたちに、いちいち説明などしないことが、
含まれています。
そこには、「障害児の親」が、学校生活のこまごましたことを
「分からない」良さがあります。
「かわいい子には、普通学級を旅させよ」とは、
「かわいい子には旅をさせよ」とまったく同じことです。
旅先のことは、見えないし、分からなくていいのです。
時には「旅の恥はかき捨て」もありなのですから。
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