≪河野氏への手紙≫ (1979年)
【…あなたの御意見の中で、心にひっかかることもありました。
それは、「障害者、健全者共に相手を説得するだけの
論理性を持たなければならない。
なかでも障害者が健全者をあやまらせる場合に、
納得のいく説明がなければあやまるわけがない」と言われたことです。
一見、これは全くごもっともであり、筋の通った意見と思われます。
しかしながら我々多くの障害者のおかれた立場からいって
これはあまりに健全者の一方的押しつけとなるのではないでしょうか。
「多くの人が納得する論理性とは、この社会の論理性」
つまり健全者社会で通用する論理であり、
そうでなければ「多くの健全者たち」は納得しないでしょう。
多くの我々の仲間は現代社会から切り捨てられてきたが故に、
自分の意見を他人に伝える手段も
自己主張することすらも奪われていることは
今更言うまでもありません。
こうした中で、もがきながら生きてきた人達が体や顔の表情、
あるいは論理的説明はなくても
「いやといったらいやだ」と言えればたいしたものでありましょう。
しかし、このまれな主張でさえ健全者側の受け止める姿勢によって
また都合によって、
「そんなことは通用しない。それはわがままというものだ」などと
切り捨てられてきたのではないでしょうか。】
【…逆説的に言うならば、
他人を説得する論理性も、生活習慣も、
組織能力ももたないからこそCP者でありうるのだということです。】
☆ ☆ ☆ ☆
「こうこういきたい」という子どもの思いを伝えるために、
「多くの人が納得する論理はいらない」と私も思う。
地域社会で生きてきた15歳の子の務めを全うした
成長の証としての言葉であって、それ以上でも以下でもない。
義務教育をちゃんと終えた子どもの言葉。
小中学校を普通学級で過ごしたことで
当たり前に手に入れた宝物の一つが、この言葉だ。
「こうこういきたい」は、精一杯の、そして世界一の表現と論理だ。
「こうこうせいしたい」は、世界一の論理だ。
他人を説得する論理も言葉も組織も持たないからこそ、
一人の15才の障害児なのだ。
あとは、社会がそれをどう受けとめるかだ。
点数が足りない?
それは視力が足りない、
聴力が足りない、
知能が足りない、という差別でしかない。
能力差別と子ども差別が人類最後の課題だ。
「0点でも高校へ」とは、その両方の鍵なのだ。
【障害者運動とは障害者問題を通して、
「人間とは何か」に迫ること。
つまり人類の歴史に参加することに他ならないと思う。】
横塚さんがこの言葉を書いたのは、私が10才のとき。
8才で分けられる側に入れられることをかろうじて免れて、
ほっとして、そのことも忘れていた10才のころ、
この言葉は書かれた。
私は、分けられる側に行かずにすんで、
分ける側に残ることができて、安心していただろう。
でも、私は19の時から、ずっと横塚さんの言葉にうなずいてきた。
分ける側の言葉にはひとつも肯けない。
私は分けられる側で差別されている子どもたちの側にいたい。
たとえば、寝たりきりになっても、呆けても、
人間を大事にするために、
この社会は介護保険を作ったりもするんじゃないか。
人生の最後に苦労している人の思いを大事にしようとするんだから、
これから人生をはじめる子どもたちに、
小学校、中学校、高校の生活くらい保障しろと思う。
「0点でも高校へ」は、
障害児の高校進学の問題を通して、
「人間とは何か」に迫ること。
つまり人類の歴史に参加することなのだ。
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