「ネガティブ・ケイパビリティ」 帚木蓬生 朝日新聞社選書
「ケイパビリティ」は初耳。
ネットで調べると、経営学の「組織的な能力」とか、「軍事作戦能力」とか書いてある。
それじゃあ興味はない。
でも、「ネガティブ・ケイパビリティ」は、キーツの言葉で、「答えの出ない事態に耐える力」とか、「不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」と書いてある。
その能力なら、欲しい。
というわけで、「ネガティブ・ケイパビリティ」という本を読んでみる。
まだ途中だが、日本の教育が、「ネガティブ・ケイパビリティ」と無縁だったというのは、よく分かる。
なぜなら、「教育とは、問題を早急に解決する能力の開発だと信じられ、実行されてきた。…それが著しいのが、私が受けた医学教育です。」
このあたりを、少し引用します。
「…診療録の記載もSOPAに合わせて実施されます。SはSubject、患者さんの主観的な言動や症状。OはObject、客観的なデータ。Aは、Assesmentで、SとOからの判断評価。最後のPは、Planを意味し、解決のための計画、治療方針です。このSOAPという方法は…いち早く問題を見つけ、解決をはかるのには実に有効です。
ところが、現実の患者さんの場合、「問題が見つからない場合や、複雑すぎる場合、そもそも解決策がない場合だってあります。早い話、末期癌の患者さんを前にしたとき、…もはや治療法は限られています。限られているどころか、皆無かもしれません。
患者さんが苦しい苦しい(S)といい、実際に傍から見ても苦悶顔です(O)。なるほどこれは、末期状態で(A)、手の施しようがありません(P)。
こうなるとポジティブ・ケイパビリティのみを身につけた主治医は、もう患者さんの傍にいること自体を苦痛に感じます。表だって何もしてあげられないからです。どうせ何もしてあげられないなら、病室を訪れない方が楽です。
長い医学教育の過程で、医師は何が正常で何が異常かを峻別する訓練を受け、解決策を頭の中に叩きこまれます。
医師は病気を見つけ、それを治療する責任があるという意識を植えつけられます。異常があれば発見し、大事に至らないうちに正常に近づけるのを天職と心得るのです。
だから、「こうした問題解決能力が役に立たない場面に遭遇したとき、私たちは激しい不安を覚え、拠って立つ足場が音を立てて崩れていくのを体験します。」
□
このあたりの説明が私には、「障害のある子が、ふつう学級から排除されてきた説明」に聞こえました。
もちろん、多くの子どもたちは末期癌でもないし、手の施しようがないわけでもありません。
そうではなく、目に見えて「できること」を増やすための「ポジティブ・ケイパビリティ」だけを身につけた教師は、教室に障害のある子がいること自体を苦痛に感じます。
目に見える形で、点数を取れるようにならないなら、何もしてあげられないと同じです。
どうせ何もしてあげられないなら、他の教室に送り込んだ方が楽です。
いや、むしろそれがその子のためであり、自分の責任だと思い込んでいます。
でも、本当は「問題解決能力が役に立たない場面に遭遇したとき、激しい不安を覚え、拠って立つ足場が音を立てて崩れていくのを体験して、それを認めないために、子どもを目の前から消してしまいたいだけなのです。
だから、「いじめられますよ」とか、「いるだけでいいのか」と、的外れの脅しをかけていたのです。
そういう脅しが聞かなくなると、今度は「自己肯定感が育ちません」とか、二次障害が心配ですとか、これもまた的外れな「専門用語」を使うようになるのでした。
――というふうに読めて、面白かったです(-.-)
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