福島さんのことは、20年くらい前に、
『ゆびで聞く』(1988年)という本で初めて知りました。
その時は、都立大の大学院生(26歳)として紹介されていました。
その中に、盲ろう者は「一生プールに潜って目を閉じている」
ようだという表現があります。
「盲ろう者のコミュニケーションは、
相手が話をしたいと思わなければ成り立たない」
「もし、あなたが盲ろう者なら、
誰かがあなたの手をとって話しかけない限り、
あなたにはまわりのことが全くわからないだろう。
今まであなたに話しかけていた人が、ちょっと席を外したり、
他の話に気をとられてあなたに話しかけなくなったら、
たちまちあなたは『心理的深海魚』になってしまうのだ。」
「盲ろう者は、まるで半径5、60センチの目に見えない
円柱の中に閉じ込められているようなもので、
その壁の内側に手をさしのべてきた人、
しかも一度に一人の人としか、話せないわけである。」
☆ ☆ ☆
「誰も話しかけてくれなければ、
わたしは海の底でひとりぼっち」
わたしが出会ってきたのは、
それを「言葉にもしない」子どもたちでした。
今も、子どもたちの様々な声が聞こえます。
誰も話しかけなければ、一人ぼっちで海の底、
闇の中に取り残されてしまったかもしれない子ども。
その子どもたちが、海の底からふわふわと浮かび上がり、
波間に浮かび、普通学級の子どもたちの光の中で過ごし、
友だちと交わした声が聞こえます。
遠くの海から聞こえてくる波の音のように、
たっくんやけいちゃんの声が聞こえる気がします。
けいちゃんの隣に座った子どもは、授業中、
けいちゃんと手をつないで授業を受けていました。
席替えをしても、やはり隣に座った子どもは、
けいちゃんと手をつないで授業を受けました。
☆
26歳の福島さんは、上記の言葉に続けて、
次のように書いています。
「盲ろう者は、まるで半径5、60センチの目に見えない
円柱の中に閉じ込められているようなもので、
その壁の内側に手をさしのべてきた人、
しかも一度に一人の人としか、話せないわけである。
まったく不便な話ではないか。
しかし、触覚によるコミュニケーションがもつ
良い点もあるのではないかと思う。
それは、まさにそれが「触れる」ことによって成り立つという点だ。
手で触れるということは、常にそこに体温をともなう。
文字通りの温かさである。
そして、触れることは両者の距離がゼロになることであり、
しっかりと触れ合ったという安心感のようなものが生まれてくる。」
7年間の人生の、最後の1年間で、
けいちゃんは、地域の普通学級の教室で
どれほどのおしゃべりを楽しみ、
どれほどの安心感を感じていたのだろうと思います。
盲ろう者として都立大の大学院で学んでいた福島さんが
表現していることを、ただの1年生の子どもたちが
あたりまえに実行しているのです。
6歳~7歳の子どもたちに、私たちが「教える」ことなど
何一つないのだと改めて分かります。
ただ、そこにいっしょにいて、「話したい」と思う仲間がいれば、
そこから、コミュニケーションは、
私たちの考えもつかないかたちで生まれているのだと思います。
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