ワニなつノート

≪Niiといっしょ≫ (004 その1)




朝、幼稚園につくと、ニィはいつものようにつぶやく。 
「やっぱりいかないー」

先生が近づいてきて誘ってくれる。 
「いっしょにあそぼう」
ニィが少しほっとした顔でこたえる。 
「すこし、あそんでいくー」

このまま、私が帰ってしまえば、
ニィは先生を頼って教室に入り、友だちとも遊んで、
それなりに楽しい一日を過ごすんだろうなぁ。
そう思いながら、転がるように走り、
大きな声で笑っている二ィを見ていた。

カミさんは、先生と話して、何回かそんなふうに試してみた。
幼稚園に入ってしまえば、
それなりにふつうに楽しく過ごしてくるようだった。
でも、ニィが朝、幼稚園に行くのを迷うのは変わらない。

「いっといで、まってるからね」
さっき、そう言ったし。
ニィに黙って帰る気持ちにはならなかった。

先週の遠足の日の夜、
お風呂でニィと話したことを思い出した。

   ☆

「ニィ、動物園、たのしかった?」
「うん! たのしかったぁーーー。
ひよこ、さわったんだよ。それでね、それでね……」

その日、見てきた動物のことを次々に話してくれる。

「…でも、朝、お母さんがバスおりちゃうとき、
ニィ、泣いちゃったんでしょ。大丈夫だった?」

「うん…」 
ニィがうなずく。

「ニィ、おかあさんのてがはなれないように、
こうやってぎゅっとしてたのに、はなれちゃったの…」 
ニィは自分の右手と左手をギュッとにぎりながら、つぶやいた。

「そっかぁ、お母さん、ニィが動物園いくの楽しみにしてたし、
ニィの好きなしながわせんせいも、みずのせんせいもいるから、
動物園に行ったら、きっと楽しいと思ってバイバイしたんだよ」
「うん…」  

「でも、ニィはいやだったね」  
「うん…」

  ☆

その時の会話と、ニィの顔を思い出しながら、
楽しそうに遊ぶ子どもたちをながめていた。
「ぎゅっとしてたのに、はなれちゃったの…」
そう言ったときのニィのしぐさが、また目にうかんだ。

    ☆

30分くらい遊んだころ放送が入り、子どもたちが片づけをはじめた。
鬼ごっこをしていて放送が聞こえなかった子どもたちの足も止まり、
ニィもふっと立ち止まった。

次の瞬間、ニィは「しまった!」という感じであたりを見回した。
園庭の反対側に座っている私と目が合った。
ほっとしたニィの身体から力が抜けるのがみえた。

先生が近づいて、ニィに話しかけている。
ニィは首をふっている。

それから、ニィはゆっくり私のところまで歩いてきた。

「どうする?」  
「かえる…」

「ニィ、おとうさんが先に帰っちゃったと思ったでしょ」 
「うん」

「先に帰るよって言わなかったから、黙って帰ったりしないよ」 
「うん」

「じゃあ、先生にバイバイして帰ろ」 
「うん」

  ☆

娘が、先日18になった。
私が実家を出たのが18だったので、
「娘といっしょにいるのがあたりまえな日々」は、
もう終わりなんだなーと、
少し寂しくなった。
で、娘が小さいころのことを、少しまとめてみようと思う。
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