朝、幼稚園につくと、ニィはいつものようにつぶやく。
「やっぱりいかないー」
先生が近づいてきて誘ってくれる。
「いっしょにあそぼう」
ニィが少しほっとした顔でこたえる。
「すこし、あそんでいくー」
このまま、私が帰ってしまえば、
ニィは先生を頼って教室に入り、友だちとも遊んで、
それなりに楽しい一日を過ごすんだろうなぁ。
そう思いながら、転がるように走り、
大きな声で笑っている二ィを見ていた。
カミさんは、先生と話して、何回かそんなふうに試してみた。
幼稚園に入ってしまえば、
それなりにふつうに楽しく過ごしてくるようだった。
でも、ニィが朝、幼稚園に行くのを迷うのは変わらない。
「いっといで、まってるからね」
さっき、そう言ったし。
ニィに黙って帰る気持ちにはならなかった。
先週の遠足の日の夜、
お風呂でニィと話したことを思い出した。
☆
「ニィ、動物園、たのしかった?」
「うん! たのしかったぁーーー。
ひよこ、さわったんだよ。それでね、それでね……」
その日、見てきた動物のことを次々に話してくれる。
「…でも、朝、お母さんがバスおりちゃうとき、
ニィ、泣いちゃったんでしょ。大丈夫だった?」
「うん…」
ニィがうなずく。
「ニィ、おかあさんのてがはなれないように、
こうやってぎゅっとしてたのに、はなれちゃったの…」
ニィは自分の右手と左手をギュッとにぎりながら、つぶやいた。
「そっかぁ、お母さん、ニィが動物園いくの楽しみにしてたし、
ニィの好きなしながわせんせいも、みずのせんせいもいるから、
動物園に行ったら、きっと楽しいと思ってバイバイしたんだよ」
「うん…」
「でも、ニィはいやだったね」
「うん…」
☆
その時の会話と、ニィの顔を思い出しながら、
楽しそうに遊ぶ子どもたちをながめていた。
「ぎゅっとしてたのに、はなれちゃったの…」
そう言ったときのニィのしぐさが、また目にうかんだ。
☆
30分くらい遊んだころ放送が入り、子どもたちが片づけをはじめた。
鬼ごっこをしていて放送が聞こえなかった子どもたちの足も止まり、
ニィもふっと立ち止まった。
次の瞬間、ニィは「しまった!」という感じであたりを見回した。
園庭の反対側に座っている私と目が合った。
ほっとしたニィの身体から力が抜けるのがみえた。
先生が近づいて、ニィに話しかけている。
ニィは首をふっている。
それから、ニィはゆっくり私のところまで歩いてきた。
「どうする?」
「かえる…」
「ニィ、おとうさんが先に帰っちゃったと思ったでしょ」
「うん」
「先に帰るよって言わなかったから、黙って帰ったりしないよ」
「うん」
「じゃあ、先生にバイバイして帰ろ」
「うん」
☆
娘が、先日18になった。
私が実家を出たのが18だったので、
「娘といっしょにいるのがあたりまえな日々」は、
もう終わりなんだなーと、
少し寂しくなった。
で、娘が小さいころのことを、少しまとめてみようと思う。
最新の画像もっと見る
最近の「Niiといっしょ」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- ようこそ就園・就学相談会へ(469)
- 就学相談・いろはカルタ(60)
- 手をかすように知恵をかすこと(28)
- 0点でも高校へ(395)
- 手をかりるように知恵をかりること(60)
- 8才の子ども(161)
- 普通学級の介助の専門性(54)
- 医療的ケアと普通学級(90)
- ホームN通信(103)
- 石川憲彦(36)
- 特別支援教育からの転校・転籍(48)
- 分けられること(67)
- ふつう学級の良さは学校を終えてからの方がよくわかる(14)
- 膨大な量の観察学習(32)
- ≪通級≫を考えるために(15)
- 誰かのまなざしを通して人をみること(133)
- この子がさびしくないように(86)
- こだわりの溶ける時間(58)
- 『みつこさんの右手』と三つの守り(21)
- やっちゃんがいく&Naoちゃん+なっち(50)
- 感情の流れをともに生きる(15)
- 自分を支える自分(15)
- こどものことば・こどものこえ・こどものうちゅう(19)
- 受けとめられ体験について(29)
- 関係の自立(28)
- 星になったhide(25)
- トム・キッドウッド(8)
- Halの冒険(56)
- 金曜日は「ものがたり」♪(15)
- 定員内入学拒否という差別(88)
- Niiといっしょ(23)
- フルインクル(45)
- 無条件の肯定的態度と相互性・応答性のある暮らし(26)
- ワニペディア(14)
- 新しい能力(28)
- みっけ(6)
- ワニなつ(351)
- 本のノート(59)
バックナンバー
人気記事