たとえば、幼稚園でみんなの中に入らず、
ひとりポツンと過ごす子どもを、かわいそうと見る人がいます。
でも、その同じ子どもを見て、
「後姿でみんなの息遣いを感じているんだろうな」と
受けとめる人もいます。
子どもたちの遊ぶ声や笑い声を、
塞いだ耳の隙間から確かめていることもあります。
子どもたちの声にあふれる楽しさや安心感、満足感のなかに、
仲間と交わる歓びがあふれています。
その歓びの気配を、少し離れた安全な場所から、
じっと耳を塞いで、でも耳をすましている姿が、
そこにあるような気がします。
サル山の真ん中で遊んでいるような子ども集団に、
すぐに溶け込むことはできなくても、
その楽しそうな声、うれしそうな声を、
毎日繰り返し聞いているうちに、
サル山の歓声が、安心できる日常になじんでいきます。
そうした日常のなかに、
自分ひとりの安全なこだわりの世界から、
友だちのなかの安全な世界への興味が引き出される瞬間が
あるような気がします。
そんなふうに、人と人とのつながりの方へ、
目を、耳を、心を、身体を向けようとするとき、
そこには、こだわりの溶ける時間がゆるやかに流れていきます。
もちろん、長い時間、慣れ親しんだやり方を、
一人ではうまくほどけない時もあるでしょう。
その時には、誰かの声かけや、行き違いを、繰り返すなかで、
自分ひとりではほどけないこだわりの結び目が
ほぐれることもあるでしょう。
ケンカしたり、泣きながら、
人との関係に折り合いをつけていくのもまた、
子どもの自然な姿です。
そのエピソードの一つ一つが、
こだわりの溶ける時間のものがたりとして、
子どもたちの人生を、限りなく豊かなものにしていくことでしょう。
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