4.≪牛乳≫
良。
あの子が本当はいい子だってことは、ちゃんと分かっているつもりだった。
意地っ張りで、負けず嫌いで、人に謝るのも苦手で、
ちっとも素直じゃなくって…。
先生に怒られると、言いたいことがあっても、うつむいて黙りこんで。
言い訳とか、みんな飲み込んじゃう子だった。
保育園のときも、誤解されることばかりだった。
隣の女の子の牛乳をわざと倒して、
女の子の洋服もスカートもビショビショにして、
先生にさんざん怒られた。
「どうしてこんなことをするんですか。」
「こんなことをしていいと思ってるんですか」
「どうして、こんなことも分からないの」
そう言って、廊下に立たされていた。
しばらくして、その女の子に会ったときに、私が代わりに謝った。
すると女の子は笑いながら話してくれた。
私が牛乳きらいで飲めないって言ったから、
きっと助けてくれたんだと思う。
あの時は、服がぬれちゃってびっくりして泣いちゃったけど…。
学校に入って、ますます意地っ張りに拍車がかかった。
一年の先生も今の先生も、この子はわがままで、自分勝手で、
人の気持ちなんて少しも考えてないって言われた。
つい、この前も……。
でも、さっきの良はかっこよかったなー。
いつのまにか、あんなふうに、
しゃべれない翔ちゃんの気持ちを感じることができて、
しかも、それを私にちゃんと言葉にしようってがんばって…。
良も大人になっているんだな…。
良が変わったのは、翔ちゃんのおかげだった。
はじめは、「あいつうるせーんだよ」、
「あいつへんなことばっかしてるんだよ」と、
悪口ばかりだったのに、いつのころからか、
「あいつ」が、「翔」に変わった。
「今日は翔と窓ふきやってきた。
あいつまともに立てないくせに、床より窓の方をやりたがるんだよな。
だから、あいつの背中押さえといてあげなきゃいけないから面倒なんだよ。
それに、おれが押さえてるってことは、おれは窓ふきができないわけだから、
翔は役にたってんだかなんだか…」
そう言いながら、学校のことをうれしそうに話すようになった。
「翔が窓をきれいにしてるのは、
きっと授業中に、窓の外を眺めるときのためだな。
翔は、雲とか飛行機とか好きだから。そうに決まってる。
ねえ、お母さんもそう思わない?」
だから、給食のとき、翔ちゃんがひとりだけ職員室に連れて行かれたのが、
あの子にはよっぽど許せなかったんだと思う。
翔ちゃんの気持ちも、自分の気持ちも、いっしょだったんだろうな。
先生の言うことに「わかりません」って、手をあげるなんて、
あの子の意地っ張りは、素敵かもしれない。
今日は、心からそう思えた。
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