ワニなつノート

わたしのカチ




「ここでがんばったら、わたしはカチがつくれますか?」
 
その女の子は確かにそう言った。
5年生の小さな女の子だった。
頭の真ん中できれいに分けられた長い髪と、
まっすぐな目が印象的な子どもだった。

「何が作れるって?」
私は聞き返した。

「カチです」
「カチ? 何のカチ?」

「私の…」
そう言いかけて、女の子は話を変えた。
「私、またヘンなこと言ってますか? 
 自分勝手なこと言ってますか?」

「そんなことないよ。
 ただ、カチって、何のことか分からなくてね」

「私には価値がないって…。
 みんなと一緒にいる価値がないって言われました」

「…」

「自分勝手なことばっかり、クウキが読めないって、
 みんなといる資格がないって。
 だから、ここでがんばったら、カチは作れますか?」

「価値がないなんて、それはおかしいよ」

「でも、そうなんです」

「人間の価値は、できるとかできないとかじゃなんだから…」
そう口にしてみたが、自分でもコトバが空回りしているのがわかった。

「…うそ」
女の子は小さな声で言った。

そして、うつむいたまま、ひとり言のように言った。

「だったら、どうして私は…」

最後の方は、声が消えてしまったのか、
彼女が言葉にしなかったのか、分からない。

だけど、彼女の言葉は私の胸に響いた。
「だったら、どうして私はここにいるのか」と。
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