ワニなつノート

トラウマとフルインクル(その91)



トラウマとフルインクル(その91)


《ふつう学級というプロジェクトは何をなしているのか》




【私たちがどのようにして今の自分になったか―――――

志向や能力、行動が、時を経ながら徐々に発展した複雑な過程――を完全に理解するためには、構成要素のリスト以上のものが必要とされる。

たとえ、それらの構成要素のうちにどれほど重要なものが含まれていたとしても、だ。

何が必要かと言えば、それは、発達の過程、すなわち、それらの要因のすべてが時を経ながら継続的な形でどのように協働するかを理解することだ。】(
277)



《ふつう学級というプロジェクトは何をなしているのか》を知るために必要なのは、このことだと思います。


A《ふつう学級で安全に子ども時代を過ごす》場合、
その子の経験のすべてが時を経ながら継続的な形でどのように協働するか。

B《ふつう学級で、本来ここにいるべきではない者と扱われ、疎外され、孤独で無力だと思わされてふつう学級で子ども時代を過ごす》場合、
その子の経験のすべてが時を経ながら継続的な形でどのように協働するか。

C《特別支援教育の場で「個別」に子ども時代を過ごす》場合。


同じ「ふつう学級」で過ごしても、AとBの経験はまったく別の「私」を形作ります。

そしてCの経験とその結果の人生を、多くの人は知りません。

子ども時代から50年、60年と施設の中だけで過ごす人の人生を、多くの人は知りません。

知らないまま、障害のある子を、分け続けています。

「もっと」「もっと」、そんなふうに分ける力は増しています。

子どもの数は減る一方なのに、分けられる子は増え続けています。


         ◇


「私たちはどのようにして今の自分になったか――。

もし私たちが、友だちや仲間といることを否定されて育ってきたとしたら…。

友人や中間と遊んだことや、給食や授業という日々の生活、遠足、運動会、合唱祭、修学旅行といったすべての行事を、自分の人生から外したら、私はいまの私になれただろうか。


こんなふうに「ことば」にしてみて、改めて気づきます。

私の人生は、どんなときでも、何をしていても、そう考えて生きてきたのでした。

その証拠の一つが、このブログです。
同じことを書き続けて、もう10年目になりました。

8才のあの日、あのまま大好きな仲間と家族を失っていたら、私は「いまの私」になれただろうかと。

答えは明快です。


ふつう学級にいなければ、いまの私はここにいない。

私だけではありません。

誰もが、同じ答です。


自分を大切に育ててくれた親や家族がいて、自分を仲間の一人と認めてくれる仲間や先生がいて、誰もが「いまの私」になれている。

自分を仲間と認めてくれて、毎日のように一緒に生活し、遊び、歌い、食べ、笑い、走り、怒り、泣き、一緒に生きた時のリズムのなかで、いまの私はつくられた。


         ◇


【同調の仕方を学ぶことによって、親(そしてその子どもたち)は、相互作用を体の芯から経験できるようになる。

…人はいっしょに遊ぶときに、身体的に同調したと感じて、つながりと喜びの感覚を味わう。】

(351)


【私たちの人間性の土台、すなわち幼いときに私たちの心と脳を形作り、全人生に実体と意味を与えてくれる人間関係と相互作用】
を無視してはいけない。


【人間は社会的な動物であり、精神機能障害には、他者と仲良くやっていけないことや、周囲に溶け込んだりなじんだりできないこと、全般に他者と波長を合わせられないことといった面がある。】

【脳や心や体など、私たちのすべてが、社会的システムの中での協働に向けて調整されている。
……ほとんどの形態の精神疾患で不具合を起こすのも、まさにこの面だ。】

(276)


「まさにこの面」が、障害児には欠けているとみなされて、分けられる。

だけど「分けられた場所」で、「まさにこの面」を学ぶ機会を子ども時代に最初から奪われていたら、いつになってもそれを手に入れることはできません。

そして、大人になってからは、「障害者」だから「まさにこの面」が欠けているとみなされて、仕事や人間関係を失うのです。


         ◇


「ふつう学級の良さは、学校にいる間より、学校を出てからの方がよくわかる」という言葉をなんども聞いてきました。


この本を読んでいると、その意味がよく分かる気がします。



※引用はすべて「身体はトラウマを記録する」から。



(つづく)
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