循環器フィジカル・ケース5
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症例5:
78歳女性
自宅で転倒により右大腿骨頸部骨折で昨日手術を施行された患者。
今朝より急性発症の呼吸困難感あり。
病棟ナースがコールされました。咳、痰、発熱、喘鳴など無し。
バイタルサインは、血圧 100/80 mmHg、脈拍130 /分、呼吸 34/分、体温 36.3度。
身体所見上、内頸静脈圧が15 cmH2O(胸骨角より頸静脈拍動の頂点までの垂直での高さが10 cmH2O)と上昇。
肺野の聴診ではラ音を聴取しないが、心音で第二音の肺動脈成分(P2)が亢進。
胸部単純X線写真では特に陰影はなし。
ECG 四肢誘導 S1Q3T3 胸部誘導 inverted T
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ピットフォール
骨折術後に急性発症する呼吸困難では、肺塞栓をまず考える。
脈拍が収縮期血圧値より大きくなっており、「バイタルの逆転」を示す。「バイタルの逆転」はしばしば、ショックの前段階(プレショック)のことがある。
この患者の内頸静脈圧は15 cmH2Oと上昇しているのがポイント。
すなわち、脱水や出血(低容量性ショック)、敗血症や迷走神経反射(血管拡張性ショック)では、静脈圧は低下するが、肺塞栓では静脈圧は上昇する。
その後の経過と解説
実際にこの患者は、造影CT検査で左肺動脈幹部に血栓陰影を認め、肺塞栓に対する治療が開始された。
最終診断:肺塞栓
術後呼吸困難+CXR正常+頻脈+頻呼吸→肺塞栓を考慮
高度の肺動脈圧増加でP2亢進
重症肺塞栓→閉塞性ショック→頸静脈怒張
治療:血栓溶解療法+抗凝固療法を施行。その後、症状軽快。
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症候別“見逃してはならない疾患 |
徳田安春 | |
医学書院 |
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