【 質問 】
タイヤの空気圧についての質問です。
今は、メーカー指定の空気圧に合わせていますが、ネットでは雨の日は少し下げた方が良いとか、高めが良いとか出ています。 また、サーキットなど高速走行する時には低目にするとか書いてあります。 実際にはどうでしょうか。おすすめはありますか。
【 回答 】
タイヤの空気圧について、質問をくださり、ありがとうございます。 確かに、タイヤの空気圧については諸説色々と書かれていますので、迷う人は少なくないでしょう。
では、最初にお勧めしたい、「 簡潔編 」から案内します。
1. 先ず最初に、あなた専用のエアゲージ( マイゲージ )を準備します
2. 次に、車両メーカーの推奨値か、それを参考にして、前後タイヤそれぞれに
【 基本空気圧 】を決めます
3. そして、乗る度に、天候や降雨の有無に関係無く、冷間時(走行する前)に、
その【 基本空気圧 】に調整します
以上で、タイヤの性能は十分に発揮できます。
<簡潔編・お勧めの理由>
〇・ エアゲージには個体差があり、エアゲージによって測定結果が 10~20 kPa
(0.1 ~ 0.2 kgf/㎠) 程度異なる事は珍しくありません。まして、不特定多数が
使用して故障や経年劣化が不明なゲージ、例えばスタンドや販売店などのエア
ゲージでは正しい』調整は不可能だからです。
〇・ 【 基本空気圧 】を決めておく理由は、タイヤの性能はある一定の空気圧によって
最も良い性能を発揮するように設計されており、降雨などの条件変化によって空気圧
を変更する必要はないからです。
〇・ 毎回、冷間時に【 基本空気圧 】に調整するのは、一週間、放置したままでも空気圧
は変化しますし、外気温の変化で空気圧が変わってしまうのを補う為です。
* * * * 以上が「簡潔編」、以下は「基本と応用編」です * * * *
『 タイヤのメカニズムと、最適空気圧 』
ご存知の通り、タイヤは路面をグリップして、オートバイとライダーの荷重を支えるだけでなく、走ったり、曲がったりするなど時に欠かせない役割をこなしています。 この役割を果たす為、タイヤメーカーの技術者が苦心している事は、路面と接するゴム素材の改良と荷重を受けた際の変形の仕方です。
ゴム素材によってグリップが変わる事はスニーカーでも体験できる事ですが、どんな風に路面と接するかという変形の仕方によっても性能が左右されるので、緻密な解析技術や新開発素材や技術が投入されている部分です。
そして、この変形の仕方を左右する要素の一つが「 空気圧 」ですから、タイヤの性能を正しく発揮させる為には、ゴムの賞味期限を除けば、「空気圧」の調整が大きく影響します。
ゴム素材の基本性能は高く、通常使用する路面温度( 0℃ 以上 50℃以下)であれば ほぼ安定した性能を発揮しますが、路面温度や気温の変化に伴ってタイヤ内部の「空気圧」は変化しやすく、それによってタイヤ性能も変化します。 だから、タイヤの立場になって考えれば、タイヤの表面温度や気温や降雨などの状況変化に合わせて空気圧を変更するのではなく、タイヤが最もバランス良く性能を発揮する【最適空気圧】に合わせる事が一番良い結果に近づけるのです。
『 標準装着タイヤと、メーカー推奨値 』
車両メーカーでは、二輪、四輪を問わず、タイヤの「 空気圧 」の推奨値を明記していますが、これも車両本来の正しい性能を発揮する為には「空気圧」の調整が欠かせないからです。
ただし、車両メーカーが標準で装着しているタイヤ・標準タイヤは、殆どの場合、その車両専用のタイヤが装着されている事も理解しておく必要があります。 車両の設計と開発の段階で、車両メーカーが強調したい車両性能を伸ばし、抑えたい性能についてはカバーする為、その車両専用に開発されたタイヤを標準タイヤとして採用されています。
従って、車両メーカーが推奨する「空気圧」は、標準タイヤでメーカーが想定した性能を発揮させる為の推奨値であり【最適空気圧】と言えます。しかし、標準タイヤからタイヤ交換をした場合には、それは “参考値” 程度と理解するべきで、メーカー推奨値が絶対と考えるのは タイヤ設計上からも正しいとは言えません。 また、標準タイヤと同じタイヤメーカーで同じ銘柄( 名称やトレッドパターン )の市販タイヤに交換したとしても、多くの場合は同じタイヤとは言えません。
≪ 備考 ≫
標準タイヤが車両専用タイヤになっている理由は、タイヤメーカーにとって、車両メーカーは大得意先様であり、発注本数が多くて生産計画も明確なので、専用タイヤの開発と納入は必然だからです
『 冷間時調整、温間時調整について 』
冷間時調整(通常は短く、冷間と表記します)とは、走行前でタイヤが走行熱で温まっていない状態で 空気圧の調整を行なう事で、温間時調整(温間)とは、走行熱でタイヤ自体が温まった状態で空気圧調整を行なう事です。
実際にタイヤが性能を発揮するのは 温まっている時の事で、その時の「空気圧」がタイヤの性能を左右するのですから、本来は温間時に最も良い性能を発揮する【最適空気圧】を探り、毎回の空気圧調整は温間時に行なうの最善の方法である事に誰も異論を挟めません。 が、実際には、温まっている時に空気圧調整を行なうのは一般的ではない為、冷間時の調整が広く推奨されているだけです。
その様に、タイヤ技術者の方も “冷間” 時の調整を推奨し、レース現場でのタイヤメーカーアドバイザーも “冷間”時 を基本としてきたため、冷間時調整が最善であるかの様に捉えられてきました。 しかし、タイヤウォーマーの使用が当たり前になっているレース現場などでは、レース本番で想定されるタイヤ温度(ホイールも含め)に事前に温めておき、その温度で最高の性能を発揮する「空気圧」に調整する事が求めらていて、基本 “冷間” という考え方は既に過去のモノになっています。 従って、サーキット走行や講習系走行イベントなど、特定のエリアを走行する度に空気圧測定やタイヤ表面温度測定が可能な場合には、温間時の空気圧調整とデータ収集が基本となります。
『 最適空気圧について 』
オートバイの性能を正しく安全に発揮させるには、タイヤに正しく適切に能力を発揮してもらう事が必須ですし、それがライダーにも安心感に繋がる事が欠かせません。 その為には、タイヤが最も性能を発揮する[最適空気圧]は、そのオートバイの状態(車種の他、整備やセッティングの違い)とライダーとの組み合わせ(体重や体格、感性が違うので)によって異なる事を理解して、メーカー推奨値だけに捉われず、最適な[最適空気圧]を探し求める努力はとても大切な事です。
仮に、気温や路面温度、降雨などの路面状況に合わせた調整を加える場合があって、[最適空気圧]を基本に調整して良い結果が出たならば、その修正値を[最適空気圧]として変更する程の考えの余裕幅を持つ事も必要です。
『 エアゲージについて 』
私は、エアゲージにういて、「 どんなエアゲージを買えばよいか 」とか「 より高性能なエアゲージでの測定を比較して、校正する必要があるのでは 」などと質問を受けます。 そこで、最後に エアゲージについて、私なりのアドバイスを書き添えます。
1. 機械式より電子式を選びたい
機械式というのは、メーター{指針}が回転したり伸びたりする形式で、電子式はディジタル表示の形式です。 機械式のデメリットは 経年変化や衝撃に弱く、知らない内に誤差が大きくなってしまうからで、安定した管理を行なう為には電子式がお勧めです。 その際、最小目盛(最小計測単位)が 10 kPa ( 0.1 kgf/㎠ ) の 電子式エアゲージ の購入がお勧めです。
これは私自身の経験ですが、以前、機械式エアゲージを使っていたのですが、落下させてしまったのか、知らない内に 50~60 kPa ほど低く表示する様になっていて、参加していた競技イベントでシビアになった操縦性が原因で転倒した苦い思い出があるからです。
2. 高精度で高額なゲージより、2個買っておきたい
高精度で高額なエアゲージは、確かに絶対的に正しい計測値を示します。が、それは その分だけ定期的に厳密な校正処理を行なう必要があり、その校正・修正が可能な構造になっています。 つまり、高精度・高額なゲージであっても、1年以上校正処理をされていなければ、普通のゲージと変わりない事をご理解ください。
従って、高精度・高額なゲージの使用を検討するよりも、全く同じエアゲージを 2個購入する事の方がベターです。2個が 全く同じ計測値を表示すれば良く、仮に 多少異なった計測値であっても、それを記録しておけば、通常使用するエアゲージの校正用ゲージ&スペアゲージとして使えて、空気圧測定のリスクを減らせます。 実際、私も、同じメーカーの製品から、通常使用分として 2個、校正用として 1個 購入して使用しています。
3. エアゲージ の 形状
エアゲージの形状は、各メーカーそれぞれに特徴があり、人によって好みが大きく分かれる点ですが、エアバルブに当てる部分から計測センサーまでの距離が短いタイプを勧めます。 ゲージによっては、ホース状に長く伸びているタイプもありますが、タイヤ内の空気量(エアボリュームとも言います)が少ないオートバイ用タイヤでは、計測時にロスが出易くなるからです。
* * * * 以上、空気圧についての回答でした * * * *
回答 : ライディング ・ セッティング クリニック 講師 小林 裕之
※ 参考までに、セッティング講習で行なった “ エア セッティング ” について、参加した人からの感想文を紹介します。
【 セッティング講習・感想文 】 ( タイヤ空気圧調整編 )
http://gra-npo.org/publicity/impress/2017/20171009_imp.html