真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「スパイ狩り」専門のヤマ機関

2008年12月15日 | 国際・政治
「ヤマ}とは、陸軍中野学校や陸軍登戸研究所のサーポートを受けながら、極秘裏に活動した「スパイ狩り」専門の対敵防諜機関秘匿名である。秘密機関であるため全貌をつかむことがきわめて難しいわけであるが『昭和史発掘 幻の特務機関「ヤマ」』斎藤充功(新潮新書)の著者は、生き残りの関係者をたどり、様々な事実を明らかにしている。「ヤマ機関」の本部(東京)は5班で編成されており、甲班は主に内外要人の監視・外国公館、ホテル等の監視を任務とし、乙班は内外電信・電話の窃聴・通信傍受、丙班は内外郵便物の開緘、税関荷物の検査、丁班は要監視者の荷物奪取、窃取、戊班はスパイの謀殺・偵諜等を任務としたという。著者は長崎支店(「支店」とは偽装したヤマ機関の分室)開設のため単身長崎市に赴任した友源治郎(副支店長)にたどりつき、「友」が口述で長男に書き残させた記録を手にしたのである。同書の「友」の記録より、秘密機関の長崎支店やその任務分担に関する部分を中心に一部を抜粋する。
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ヴェールが剥がされたヤマ機関の実像

「長崎支店」に転任

……
 ヤマ機関は、その存在を隠すために防諜工作を実行するときは、諜報員全員が身分を商社マンに偽装していた。そして、東京本部を「本店」と称し、長崎のような地方機関を「支店」と呼んでいた。
 では、この「長崎支店」はいかなる目的で作られた地方機関だったのか。
 長崎がヤマの西の工作拠点に選ばれたのは、上海線、釜山線、そして香港線の3航路の発着港になっていたほどの国際都市であったこと、そのうえ艦船を主に建造していた三菱長崎造船所が置かれていた関係からであった。当然、憲兵隊や警察の監視が厳しい都市でもあった。このように軍警の目が光っていた長崎で、ヤマ機関の工作担当者は変名で活動していたわけである。
 そして、友の記録には


  <長崎支店の開設(長西田中佐の下で副支店長)。関係部員は全員身分を秘
  匿し特別要務専従者は氏名を変更(変名)自分は山本源治郎を常用した。自己
  の秘匿のみならず家族近親まで自らの防衛(秘密)を必要とされ実施した。(中
  略) 勤務は支店長西田中佐の副長として甲乙丙丁戊工作を自ら実践した>

 とある。組織の編成や仕事の内容も具体的に詳述していた。


 <支店長  西田中佐(熊本県出身)
  工作主任 山本源治郎(私の秘匿名)
  店員   約30名(中野学校出身特技者、通訳官、雇員等) 
  重点目標 支那領事館、フランス領事館、長崎ホテル
  拠点   雲仙ホテル、長崎郵便局、長崎税関
  容疑者  長崎カトリック教会関係、同系学院関係、米系邦人(クラバ)一味、そ
         の他英米系容疑内外人>


・・・

 また友は、長崎における甲、丙班の活動状況も次のように記している。(同書の順序を変え、東京の乙班や丁班も挿入)

  <支那領事館・日時を選択し、午前1時から同4時頃迄に工作班が潜入し重要
  書類金庫の開緘に成功毎月一会乃至2回文書の盗写を遂げ、文書はその軽 
  重を詮議した上そのまま東京本店に提報した。
   フランス領事館・領事引き揚げのため留守館員の動き、邦人家政婦を懐柔し
  出入関係者、文書の窃写等手を尽くしたが、仏の活動は低調であった。(中略)
   長崎税関・税関上部の配意を取りつけ税関検査とは別に指名外人公館員の  着発荷物の開閲に連続協力を得た。(中略)
   長崎カトリック教会・邦語堪能な牧師数名(外人)の外宣教師の動向諜知の
  ため部員を信者に擬装、2、3名潜入させた。尚、土着の信者を懐柔し、学院関
  係邦人宣教師等の動向を正確に諜知し得た>


  甲班
  政治、経済、外交、社会の高度情報の諜知調査、内外要人……文書、文献、 
  諸統計、特に内外通信、出版関係等に注目を入れ諜報(防諜)資料の高度監
  察に資す。
   その一例 新聞、言論界、評論家、文化人、学者、財界、主導官民、特に外
  交官、郵信関係者(中枢部)の高級官公人に目安を置き関係拠点に、或いは住
  所に、諜者を設定、又外交機関、外人居留地、別荘地帯、内外ホテル、旅館、
  料亭等には諜報網を布設(目・耳・写真・窃聴設備等)する等高等工作を実施し
  た。


   乙班
   ……乙班の電話と電信の窃聴は重要な仕事で、根気のいる孤独な作業であ
  った。東京市内を中心とする内外容疑者に対して、電話線を引き込んでの窃聴
  を行い、日本語は要点抜録(その場でメモ)。外語はテープレコーダーで録音し
  た。その全国リストは、日本の上級官庁から外国商社、公館、政界の要人をく
  まなく網羅していた。
   その他、めぼしい主要拠点を選び出し、国際電話や内外公私電話からも窃
  聴し、容疑者の選別を専務とした。その窃聴室は、牛込区内の元陸軍病院裏
  山、旧陸軍戸山学校の西隣りにあり、建物は延べ数百坪の半鉄筋木造2階建
  て2棟を使い、窃聴室の外に、分析室、統計室等、計20室が設置されていた。
  長 、佐官1(大坪中佐)、附尉官下士官軍属、嘱託、通訳官等合計120名。


   丙班
   科学諜報(手段のほとんどが非合法)
   写真、封書の開緘、郵政税関公社等の金庫から格納所、ホテル滞留者、往
  来者の荷物類に目をつけ、時に応じ窃聴器布設、直聴或いは録音をとり容疑
  資料分析係に送付した。
   開鍵は大、公使館をはじめ、内外要人の別邸、住居、出入料亭等、潜入(使
  用人、庭師、コック、職人等で)工作を併行して日をかけ、時を費やして準備し
  た>

   丁班
   窃取、強奪、スリ専門班

   特定した目標、つまり人、物、場所設備等に対して狙い打ち奪取を専門的に
  取り行う構成でであった。其の専任者は中野学校卒青年士官でその道の特訓
  を受けた技術将校とその配下に養成した特技者(此の中には、別にスリ前科の
  名人なども何等かの方法で登用され)が実績を挙げた訳である。
   計画的、或いは、瞬間的に実行に移ったのであるが、さすがは熟練者、渉外
  事件(ばれ)などが起きた事例はきかなかった


   戊班
   人間抹殺(けし役)
   「高度スパイ」「国際スパイ」「国内スパイ」の内政治的、外交的、その他の角
  度から探索、検挙等施策の方途が内政的或いは国際的その他の利害から推
  して、困難で手がつけられず、つまり「生かしておけないもの」を抹殺する班とい
  えよう。


 防諜機関に「殺しのライセンス」を持つ組織が、日本にも存在していたとは驚きである。そして、そのミッションを実行していたのがヤマ機関戊班とは……。
 友は、自らが指揮したスパイの射殺例も残していた。やはり、友の記憶から再現してみる。


・・・(以下略)

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