真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日米地位協定と辺野古弾薬庫5・15メモの記述

2012年11月04日 | 国際・政治
 「5・15メモ」は、通常われわれ日本人が、日常生活で使っているような意味での単なる「メモ」ではない。沖縄返還の過程で、日米地位協定をめぐって取り交わされた公文書であり、施設分科委員会の日米合同委員会で承認・署名されたものである。
 ここでは、その「5・15メモ」から核兵器貯蔵問題をかかえる「辺野古弾薬庫」の使用条件などを定めた部分を、「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)から抜粋した。
 問題はいくつかあるが、まず辺野古弾薬庫の使用に関して、詳細な取り決めをしているにもかかわらず、肝心の貯蔵物に関しては、何の記述もない。そのため、地元関係者は”核兵器があるからである”と疑っているという。核兵器に関しては、後に、沖縄返還交渉の際、佐藤栄作首相の密使として舞台裏で交渉に関わった若泉敬が、その著書「他策ナカリシヲ信ゼント欲ス」で、緊急時の沖縄への核兵器の貯蔵権および通過権は認めざるを得なかった事実を明らかにした。また、佐藤栄作首相がサインした秘密合意議事録も発見された。それには辺野古のみでなく、当時、沖縄に現存する核の貯蔵地、嘉手納、那覇、ナイキ・ハーキュリーズ基地も核持ち込み可能な状態で維持することが記されていた。非核三原則を掲げた佐藤栄作首相の「核抜き・本土並み」返還は、アメリカに受け入れてもらえず、表向きのこととなり、実際は密約によって事が進められた、ということであろう。
 また、著者の解説にもあるように、「この弾薬庫の使用や米国政府の活動から生ずることのある財産損害、傷害、さらには死亡に対して地位協定第18条の規定に基づく義務を負わないと明記している」ことも問題であり、沖縄県の地位協定改正要求案で指摘されている第18条に関わる部分である。さらに、使用期間が無制限という取り決めも、独立国家間の取り決めとしては、考えにくいものではないかと思う。
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2 地位協定の沖縄への適用 ── 公表された「5・15メモ」との関連で
 ・・・
 この「5・15メモ」は、狭義には沖縄施政権返還にあたって米軍に提供する施設・区域の使用目的、使用期間、使用条件などを定めた日米合同委員会施設分科委員会メモで、1972年5月15日未明(自午前0時○1分同1時○○分)に外務省で行われた日米合同委員会第251回会合で承認・署名され、同会合の議事録に同封されたので、その名がある。なお、同会合では上記メモの他にも沖縄に所在する在日米軍通信施設・区域における電波障害に関する合同委員会メモ、国際連合の軍隊による在沖縄合衆国施設・区域の使用に関する日本側提出メモ、国際連合の軍隊による在沖縄合衆国施設・区域の使用に関する米側提出メモ等、少なくても10件の取り極めが承認・署名もしくは提出されている。

 まずこのメモ全般を通じて気づくことは、メモを承認する合同委員会が沖縄返還当日の未明に開催され、しかも同委員会が50分という時間の間に100件近い取り極めを処理していることである。この措置は、沖縄の基地提供はそれらを含めて沖縄がいったん日本に返還された後でなされ、しかも返還後できるだけ速やかに─ほとんど間断なく─行われるよう意図されたためであろう。次いで「5・15メモ」においては大半の施設・区域の使用期間が「無制限」indefinite((外務省・防衛施設庁の作成した仮訳では「定めず」)とされていることである。これは文字通り、米軍による沖縄の施設・区域使用に制限がないと見るべきであろう。米軍はいつそれから撤退してもよく、またそれらをいつまで使用してもよいとうことが合意されたのである。そして、さきの佐藤・ニクソン共同コミュニケ第5項、ジョンソン国務次官によるその背景説明などからみて、「5・15メモ」の眼目は後者にあったと考えるのが妥当であろう。

 以下、具体的な施設・区域については、「5・15メモ」の内容を検証していきたいが、すべての事例について見ることは紙幅の都合から不可能である。そこで、、①若泉の言う秘密合意議事録でも言及されている辺野古弾薬庫、②県道104号線超え実弾砲撃の当該施設であるキャンプ・ハンセン演習場、③アジア・太平洋地域における米軍最大の空軍基地である嘉手納空軍基地、④「5・15メモ」公表のきっかけとなる劣化ウラン弾発射事件の舞台となった鳥島射爆撃場という4つの事例をここで取り上げることとしたい。

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①辺野古弾薬庫 
                 施設分科委員会
                                      1972年5月15日
メモ番号 870
メモの宛先:合同委員会
件名:辺野古弾薬庫
1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6
  条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協
  定
2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が、以下に記され、
  同封の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
 a、施設名:辺野古弾薬庫
 b、施設番号:FAC 6010
 c、所在地:沖縄県名護市字二見字辺野古
 d、主たる使用目的:弾薬庫
 e、区域の範囲:大略は同封の1、2、および3に示すとおり。
  (1) 陸上区域:同封の3に示すとおり
  (2) 合衆国所有以外の建物:なし
  (3) 水域:同封の2に示すとおり、北緯26度32分25・5秒 東経128度02分
     25・7秒と、北緯26度31分40秒、東経128度02分51秒の、陸地から5     0メートルの距離に接する水面域
 f、使用期間:無制限
 g、備考: 
(1) 使用要件:上記第2項の水域は、陸上施設の保安のため常時に使用される。
  (2) その他
   (a) 参照文書の第2条第4項(a)の諸規定に基づき、以下の使用が許可され
      る。:
      沖縄電力株式会社は、かかる公益事業体(筆者註 沖縄電力のこと)が
      所有し、管理し、または規制し、本施設および区域内にあるユーティリテ
      ィ・システムの下部または上部の土地の共同使用を許可される。上記の
      土地の正確な位置は、現地調査によって確定され、このメモの修正によ
      って追加される図面上に表示される。
 
    1、合衆国政府は、要請されたときはいつでも、これらシステムの運用に関
      わる検査、保守、修理およびその他の作業を目的とするユーティリティ
      保守人員の出入りを保証する。
    2、合衆国政府は、許与した使用の行使から生じることのある、もしくはそれ
      らの使用に付随することのある一切の財産損害、もしくは使用者の職員
      、代理人、使用人、被用者、ないしはそれらの招きにより、もしくはそれら
      のいずれか一の招きにより前記構内に在る他の者に生じる傷害、死亡に
      対し、地位協定第18条の諸規定による義務を何ら負わない。ただしかか
      る損害、傷害、死亡が在日合衆国軍隊構成員の側の故意の、または悪
      質な違反行為によって生じた場合は除く。前記の使用者は、許与された
      使用の行使に起因する人身もしくは財産に対する損害に対して十分の
      責任と義務を負い、従って合衆国政府は、責任を負わないものとする。

   (b) 上記2の、eに記された水域内において、日本国政府は、永続的投錨、破
      壊、建設、ならびにいかなる種類の永続的使用も許可しない。合衆国政
      府は、この水域内における漁業および海産物の採集を制限しない。

3、本件を承認するよう勧告する。
 同封された3文書:
 1、1971年6月30日付 技術部関係図面 15-09-120
 2、1972年3月27日付 辺野古弾薬庫(A10)水域図面
 3、1971年8月24日付 「辺野古弾薬庫」と題する位置および境界地図
  (合同委員会ファイルにのみ)
    1972年5月15日受領、合同委員会へ付託

Y.Shimada                   R.W.Belt
Y.SHIMADA                  R.W.BELT
日本国側議長                合衆国海軍大佐
                         合衆国側議長

    1972年5月15日、合同委員会により承認

Bunroku Yoshino               Richard M.Lee
BUNROKU YOSHINO            RICHARD M.LEE
日本側代表                  合衆国軍少将
                          合衆国側代表

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 若泉の言う秘密合意議事録で言及され、また以前から核兵器貯蔵疑惑がとりざたされてきた辺野古弾薬庫の使用条件などを定めたこのメモからは、2つのことが指摘されよう。第1点は、貯蔵物リストなどの貯蔵物に関する具体的な記述が、何ら、付されていないことである。これはやはり「秘密の合意議事録」で言及されて、鳥島で使用された劣化ウラン弾の貯蔵庫であった嘉手納弾薬庫についても同様である。このため地元では、核兵器があるからこそ貯蔵物に関する具体的な記述がないのであり、さらなる密約が存在するものという疑惑を生む結果となっている。

 第2点としては、地位協定第18条の認めている請求権と賠償の適用を受けない場合の規定が置かれていることである。同協定は公務中の米軍構成員または被用者の作為もしくは不作為による損害から生ずる請求権について、「合衆国のみが責任を有する場合」には、補償額の75%を米国が、25%を日本が分担すると規定し(第18条、5、(e)(1))、「日本国及び合衆国が損害について責任を有する場合」には、双方が均等に分担するとしている(同 (ii))。しかしながら、右のメモは、合衆国軍隊の構成員の故意または悪質な違反によって生ずるものである場合にはこの限りでないという但し書きはついているものの、この弾薬庫の使用や米国政府の活動から生ずることのある財産損害、傷害、さらには死亡に対して地位協定第18条の規定に基づく義務を負わないと明記している。そして、「5・15メモ」の米軍施設の多くについてこの規定が置かれているのである。


 
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。

コメント (2)
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