5・15メモに関して「日米行政協定の政治史ー日米地位協定研究序説」明田川融(法政大学出版局)で3番目に取り上げているのが嘉手納空軍基地の記述である。”このメモの特徴は、使用条件にほとんど具体的な記述がないことである”と著者は指摘している。重要な項目であるのに、なぜなのか。
その理由を考える上で、大事な事実を琉球大学の我部政明教授が明らかにしている。我部教授によると、1969年1月に大統領となったニクソンのもと、国家安全保障会議において、対日政策について検討が重ねられ、「国家安全保障研究メモランダム」(MSSM-5)としてまとめられたという。
それは、日米関係全般、安全保障条約及び基地、沖縄返還、日本の防衛努力、日米経済関係、アジアにおける日本の役割の6部から構成されており、本文50ページ、附属文書11件にまとめられているという。それらを詳細に調べた我部教授は、沖縄返還に関するアメリカの考え方や情勢分析、対日戦略などについて、”興味深い点”として下記の5つを指摘している。
まず、沖縄が西太平洋における重要な位置にあること、したがって、そこに訓練、兵站、出撃準備などのための基地を置くことは大事なことであるのはもちろん、その沖縄の基地に核兵器を貯蔵し、そこから直接出撃できるようにすることが、戦略上きわめて有効であるとアメリカが考えていたことである。
第2に、沖縄の施政権を返還しても基地を保有できると考えていたこと。
第3に、親米の佐藤政権の沖縄返還要求に応えることができなければ、佐藤栄作首相は政権を維持できず、日米関係が深刻な事態に陥り、1970年に期限の切れる日米安保条約の延長ができなくなる恐れがあると考えていたこと。
第4に沖縄返還によって、米国の国際イメージが改善されると考えていたこと。
そして最後に、沖縄返還による”自衛隊の活動範囲の拡大”は、アジアの安全保障における日本の役割を増大させることになる、とアメリカは判断していたことである。
沖縄返還後も、何ら拘束されることなく基地に核兵器を貯蔵し、基地を自由に使用することが合衆国政府の求めるところであったことを踏まえれば、嘉手納空軍基地のメモに、使用条件の記述がほとんどないことは、当然のこととして理解できる。
そして、沖縄返還は、安全保障条約、日米地位協定、5・15メモ、日米地位協定合意議事録、密約などを巧に組み合わせることによって、ほぼアメリカの思惑通り進んだということのようである。
---------------------------------
③嘉手納空軍基地
施設分科委員会
1972年5月15日
メモ番号:879
メモの宛先:合同委員会
件名:嘉手納空軍基地
1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約第6条
に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が、以下に記され、
同封の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
a、施設名:嘉手納空軍基地
b、施設番号:FAC 6037
c、所在地:沖縄県ゴザ市(筆者註 現沖縄市)、中頭郡北谷村、嘉手納村、美里
村
d、主たる使用目的:空軍基地
e、区域の範囲:大略は同封の1から5に示すとおり。
(1) 陸上区域:同封の5に示すとおり、約20,497,000平米
(2) 合衆国所有以外の建物:なし
(3) 水域:
区域1:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
43.7秒と、北緯26度20分33.5秒、東経127度44分49.7秒の間の、陸
地から50米の距離に接する水面域。
区域2:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
43.7秒と、北緯26度20分49.2秒、東経127度44分36.5秒の間、北緯
26度20分03秒、東経127度44分40秒と、北緯26度20分02.4秒、東
経127度44分52.3秒で珊瑚礁の外縁沿いの陸地に接する水面域。
(4) イーズメント:日本国政府は、公道1号および16号線を横断するユーティ
リティー・システムのためイーズメント(水道および 電気のため3メートル
の幅と、下水および排水のための6メートルの幅)を提供する。(筆者註
以下、メモ番号871の「イーズメント」の項の第2および第3ならびに第4
文章に同じ)
f、使用期間:無制限
e、備考:
(1) 使用条件:
(a) 使用時間:上記の2のeに記す水域および2は常時
(b) 用途:
1、上記2のeに記す水域1は、陸上施設の保安のため使用される。
2、上記2のeに記す水域2は、クリアランス・ゾーンおよび小型船舶停泊港
の用に供するため使用される。
(2) その他:
(a) 以下の使用が、参照文書第2条第4項の諸規定によって許可される。
1、略(筆者註 水道・下水施設のため、前出メモ番号870のgの2の(a)と同
様の土地の共同の使用が沖縄電力・沖縄県に許与されること、当該地
の確定と表示、前記ユーティリティー・システムの運用に関する検査、保
守等を目的とする人員の出入に対する合衆国政府の保証、の3点を主
旨とする規定)
2、略(筆者註 免除対象とならない人員および貨物の検査を目的として、
入国管理、税関、検疫施設のために日本政府が所定の建物を共同使用
することに対する許可に関する規定)
(b) 略(筆者註 合衆国政府が、沖縄電力に対し、この施設内にある同社の
施設運用に関する検査、保守、修理作業のための出入りを保障する規 定)
(c) 略(筆者註 前出メモ番号870のgの2の(a)と同様、合衆国政府が日米
地位協定第18条に定める義務を負わない場合に関する規定)
(d) 日本国政府は、上記2のeに記されている水域内において、嘉手納空軍
基地を使用する航港機(航空機?)に危険を与えるか、または当該小型
船舶停泊港への出入りを妨げる建設もしくはその他の諸活動を許可しな
い。合衆国政府は、これらの水域内において漁業または海産物の採集
を制限しない。
(筆者註 以下、承認勧告、受理、付託、承認の項、および日米双方の議長、代表者の署名は省略する。なお同封の5文書として、1967年12月31日付空軍図面、基地配置図、1972年4月4日付嘉手納空軍基地水域、1972年4月12日付嘉手納空軍基地、同上、1971年8月27日付「嘉手納空軍基地」と題する位置および境界地図。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。青字が書名や抜粋部分です。
その理由を考える上で、大事な事実を琉球大学の我部政明教授が明らかにしている。我部教授によると、1969年1月に大統領となったニクソンのもと、国家安全保障会議において、対日政策について検討が重ねられ、「国家安全保障研究メモランダム」(MSSM-5)としてまとめられたという。
それは、日米関係全般、安全保障条約及び基地、沖縄返還、日本の防衛努力、日米経済関係、アジアにおける日本の役割の6部から構成されており、本文50ページ、附属文書11件にまとめられているという。それらを詳細に調べた我部教授は、沖縄返還に関するアメリカの考え方や情勢分析、対日戦略などについて、”興味深い点”として下記の5つを指摘している。
まず、沖縄が西太平洋における重要な位置にあること、したがって、そこに訓練、兵站、出撃準備などのための基地を置くことは大事なことであるのはもちろん、その沖縄の基地に核兵器を貯蔵し、そこから直接出撃できるようにすることが、戦略上きわめて有効であるとアメリカが考えていたことである。
第2に、沖縄の施政権を返還しても基地を保有できると考えていたこと。
第3に、親米の佐藤政権の沖縄返還要求に応えることができなければ、佐藤栄作首相は政権を維持できず、日米関係が深刻な事態に陥り、1970年に期限の切れる日米安保条約の延長ができなくなる恐れがあると考えていたこと。
第4に沖縄返還によって、米国の国際イメージが改善されると考えていたこと。
そして最後に、沖縄返還による”自衛隊の活動範囲の拡大”は、アジアの安全保障における日本の役割を増大させることになる、とアメリカは判断していたことである。
沖縄返還後も、何ら拘束されることなく基地に核兵器を貯蔵し、基地を自由に使用することが合衆国政府の求めるところであったことを踏まえれば、嘉手納空軍基地のメモに、使用条件の記述がほとんどないことは、当然のこととして理解できる。
そして、沖縄返還は、安全保障条約、日米地位協定、5・15メモ、日米地位協定合意議事録、密約などを巧に組み合わせることによって、ほぼアメリカの思惑通り進んだということのようである。
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③嘉手納空軍基地
施設分科委員会
1972年5月15日
メモ番号:879
メモの宛先:合同委員会
件名:嘉手納空軍基地
1、参照文書:日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約第6条
に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
2、参照文書の第2条第1項(a)の諸規定に従い、合衆国政府が、以下に記され、
同封の諸文書に示される施設および区域の使用を許与されることを合意する。
a、施設名:嘉手納空軍基地
b、施設番号:FAC 6037
c、所在地:沖縄県ゴザ市(筆者註 現沖縄市)、中頭郡北谷村、嘉手納村、美里
村
d、主たる使用目的:空軍基地
e、区域の範囲:大略は同封の1から5に示すとおり。
(1) 陸上区域:同封の5に示すとおり、約20,497,000平米
(2) 合衆国所有以外の建物:なし
(3) 水域:
区域1:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
43.7秒と、北緯26度20分33.5秒、東経127度44分49.7秒の間の、陸
地から50米の距離に接する水面域。
区域2:同封の2に示すとおり、北緯26度20分51.2秒、東経127度44分
43.7秒と、北緯26度20分49.2秒、東経127度44分36.5秒の間、北緯
26度20分03秒、東経127度44分40秒と、北緯26度20分02.4秒、東
経127度44分52.3秒で珊瑚礁の外縁沿いの陸地に接する水面域。
(4) イーズメント:日本国政府は、公道1号および16号線を横断するユーティ
リティー・システムのためイーズメント(水道および 電気のため3メートル
の幅と、下水および排水のための6メートルの幅)を提供する。(筆者註
以下、メモ番号871の「イーズメント」の項の第2および第3ならびに第4
文章に同じ)
f、使用期間:無制限
e、備考:
(1) 使用条件:
(a) 使用時間:上記の2のeに記す水域および2は常時
(b) 用途:
1、上記2のeに記す水域1は、陸上施設の保安のため使用される。
2、上記2のeに記す水域2は、クリアランス・ゾーンおよび小型船舶停泊港
の用に供するため使用される。
(2) その他:
(a) 以下の使用が、参照文書第2条第4項の諸規定によって許可される。
1、略(筆者註 水道・下水施設のため、前出メモ番号870のgの2の(a)と同
様の土地の共同の使用が沖縄電力・沖縄県に許与されること、当該地
の確定と表示、前記ユーティリティー・システムの運用に関する検査、保
守等を目的とする人員の出入に対する合衆国政府の保証、の3点を主
旨とする規定)
2、略(筆者註 免除対象とならない人員および貨物の検査を目的として、
入国管理、税関、検疫施設のために日本政府が所定の建物を共同使用
することに対する許可に関する規定)
(b) 略(筆者註 合衆国政府が、沖縄電力に対し、この施設内にある同社の
施設運用に関する検査、保守、修理作業のための出入りを保障する規 定)
(c) 略(筆者註 前出メモ番号870のgの2の(a)と同様、合衆国政府が日米
地位協定第18条に定める義務を負わない場合に関する規定)
(d) 日本国政府は、上記2のeに記されている水域内において、嘉手納空軍
基地を使用する航港機(航空機?)に危険を与えるか、または当該小型
船舶停泊港への出入りを妨げる建設もしくはその他の諸活動を許可しな
い。合衆国政府は、これらの水域内において漁業または海産物の採集
を制限しない。
(筆者註 以下、承認勧告、受理、付託、承認の項、および日米双方の議長、代表者の署名は省略する。なお同封の5文書として、1967年12月31日付空軍図面、基地配置図、1972年4月4日付嘉手納空軍基地水域、1972年4月12日付嘉手納空軍基地、同上、1971年8月27日付「嘉手納空軍基地」と題する位置および境界地図。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。青字が書名や抜粋部分です。