真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

HPは hide20.web.fc2.com
ツイッターは HAYASHISYUNREI

晩発性放射線障害 チェルノブイリと福島の事故後 NO4

2013年06月08日 | 国際・政治
 6月6日の朝日新聞に、”福島県は5日、東京電力福島第1原発事故発生当時に18歳以下だった子ども約17万4千人分の甲状腺検査の結果を発表した。9人が新たに甲状腺がんと診断され、すでに診断された3人と合わせ、甲状腺がんの患者は累計12人になった。疑いのある人は16人になった。チェルノブイリの事故では、被曝から4~5年後に甲状腺がんが発生していることから、県は「被曝による影響の可能性はほとんどない」と説明している。・・・”との記事があった。まだ2年少々しか経過していない現在、なぜ「被曝による影響の可能性はほとんどない」というのか、その意味がよく分からない。

 下記は、
「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)の中の「ウクライナにおける事故影 響の概要」(ドミトロ・M・グロジンスキー:ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)の論文から抜粋したものであるが、その中に、「被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている」という文章があり、表16からは、確かにそのことが読み取れる。そして、10年が経過しても「現在まだその発生率のピークに至っていない」というのである。

 それは、「晩発性放射線障害 原子力村 国際組織?」で取り上げたベラルーシ科学アカデミー・物理化学放射線問題研究所のミハイル・V・マリコの論文に添付されていた
「ベラルーシにおける甲状腺ガン発生数(大人と子供)」の表を見ても分かる。1986年から1995年まで一貫して増加を続けているのである。

 国際放射線防護委員会(ICRP)が、線量とがんや白血病などの発生確率は比例するとし、
「しきい値」はないとしている。その考え方に基づけば、たとえ低線量の放射線による被曝であっても、人体・生体への影響および健康被害の可能性はあると考えるべきであろう。低線量被曝ほど、潜伏期間が長いという。したがって、今の段階で「被曝による影響の可能性はほとんどない」と言う根拠は何なのか、と疑問に思う。

 東京電力福島第1原発事故後の原発関連組織やそれらと一体となった関係者の対応が、グロジンスキーが指摘するチェルノブイリ事故後の一部の組織や関係者の動きと同じ、ということはないであろうか。 
-------------------------------
          ウクライナにおける事故影響の概要
                             ドミトロ・M・グロジンスキー
  (ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)

放射線影響評価

 事故の直後から、災害の規模についての情報は不当に見くびられ、また誤解されてきた。今日でさえ、世間一般の見方は、人類におよぼされた破局的大災害の実相からはるかにかけ離れている。放射線の専門家の間にはっきりと浮かび上がってきた論争は、今日に至っても、チェルノブイリ事故の医学的影響をめぐって続いている。チェルノブイリ事故後、ウクライナの人々の間に生じてきたおびただしい病気の真の原因が何なのか、意見が分かれているのである。事故後の罹病率が増加した原因は、心理的な要因にあるのであって、それ以外にはありえないとする見解を支持する人たちがたくさんいる。「放射能恐怖症」なる用語が、放射線関係の論文の中に現れるようになっている。しかしながら、罹病率は環境の放射能汚染と深く関連しているという見解もまた存在している。すでに、低線量被曝の効果、および甲状腺に対するヨウ素の影響について、信頼できるデータがある。


 チェルノブイリの事故の影響がなかったかのような嘘をついたり、それを忘れ去るべき過去のこととして記憶から消し去ってしまおうとさえするような恥ずべきまた非人間的な動きがあることを、私は注意しておきたい。チェルノブイリ原発事故によって原子力の権威は地に 落ちたが、多くの場合、上のような見方は原子力への偏向した支持者たちによってなされてきた。しかし私は、この事故は決して忘れ去られてはならない信じる。むしろそれどころか、私たちは、事故の影響を慎重に明らかにしなければならない。なぜなら、以下に述べるよう に、チェルノブイリ事故による放射線影響は、未曾有で大規模な生態学的な危険と関連しているからである。


 ・・・(以下略)

-------------------------------
子供たちの健康状態

 チェルノブイリ事故で被曝した子供では、1987年から1996年まで慢性疾患がたえず増加してきた。表14はチェルノブイリ被災地域の子供の発病率と罹病率の値である。
 この10年間で、罹病率は2.1倍に、発病率は2.5倍に増加した。罹病率の増加が最も激しいのは、腫瘍、先天的欠陥、血液、造血器系の病気であった。もっとも罹病率が高いのは、第3グループ(厳重な放射能管理下の住民)
-下記註参照-の子供たちである。同じ期間において、ウクライ
ナ全体の子供の罹病率、20,8パーセント減少していることを指摘しておく。

 このように、被災地域の子供たちの罹病率は、全ウクライナ平均での子供の罹病率をはるかに超えている。被災地域の子供たちの病気の構成表、を表15に示す。
 同じ期間に、先天的欠陥の発生率は5.7倍に、循環器系および造血器系の罹病率は5.4倍に増加している。
 妊娠中と出産時の異常の増加に伴い、新生児の死亡率が増加している。また、1987年に1000人当たり0.5件であった0~14歳の子供の死亡率は1994年には、1.2件に増えている。
 神経系と感覚器官の病気(5倍に増加)、先天的欠陥(2.4倍に増加)、感染症・寄生虫起源の病気、循環器系の病気などによって、子供の死亡率は増加している。

 他の地域の子供に比べ、問題の子供たちのガン発生率も明らかに大きい。被災地域の子供の腫瘍発生率は、1987年10年間で3.6倍に増加している。ガンの種類によって、その死亡率の増加傾向は、必ずしも一定していない。しかし、汚染地域の子供のガン死亡率は、他の地域の子供よりも大きくなっている。


-------------------------------
甲状腺ガン

 今日では、チェルノブイリ事故が甲状腺ガンを増加させたことに議論の余地はない。甲状腺の悪性腫瘍を引き起こした原因が、破壊された原子炉から放出されたヨウ素にあることもまた確定されている。事故前は甲状腺ガンはまれな病気であり、主に年長者に特徴的な病気であった。子供や青年においては、甲状腺ガンの年間発生率は100万人当たりおよそ0.2ないし0.4件であり、全腫瘍の約3%を占めたと推定されている。1981年から1985年にかけて、ウクライナの子供にみられる甲状腺ガンはわずか25例にすぎなかった。
 被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている。被曝量の大きさと潜伏期間の長さの間には関連がない。しかし、甲状腺ガン発生率の増加は予測されるよりもはるかに早く、すなわち事故後4年にして始まり、現在も増加中である。

 甲状腺ガンは、事故時年齢が3歳以下の子供で著しい増加を示している。この甲状腺ガンの特徴はたいへん攻撃性が強いことである。半数の症例では、ガンが甲状腺の外側に広がっていき、周辺の組織や器官までも冒している。子供の甲状腺ガン症例数を、表16に示す。
 小児甲状腺ガンの増加は、今後長い年月にわたって続くと考えるのが合理的である。現在まだその発生率のピークに至っていない。
 

第1グループ チェルノブイリ事故の事故処理作業従事者(リクビダートル)
         男性22万3908人 女性2万1679人 合計24万5587人
第2グループ 避難ゾーンからの強制避難者と移住義務ゾーンからの移住
         者 男性3万1365人 女性3万9128人 合計7万483人
第3グループ 厳重な放射線管理が行われる地域にいま現在も居住してい
         るか、事故後数年間にわたって住み続けていた住民。
         このグループに属する人数はたいへん多く、
         209万6000人である(男性45.7%、女性54.3%)
第4グループ 上記のグループのいずれかに属する親から生まれた子供。
         1995年の時点で、31万7000人以上。

表14 被災地域の子供の発病率と罹病率
発病率罹病率
1987455.4786.6
19941138.51651.9

表15 被災地域の子供の病気の構成

疾病の種類
呼吸器系の病気6106
神経系の病気6.2
消化器系の病気5.7
血液・造血器系の病気3.5
内分泌系の病気1.2

表16 ウクライナにおけるチェルノブイリ事故後の小児甲状腺ガン症例数
(事故時年齢0歳から19歳)

症例数10万人当たりの
件数
1986150.12
1987180.14
1988220.17
1989360.28
1990590.45
1991610.47
19921080.83
19931130.87
19941341.00
19951661.30

 http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。読点を省略または追加しています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。 



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

晩発性放射線障害 原子力村 国際組織 NO3  

2013年06月08日 | 国際・政治
 「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)を読むと、IAEAやWHOが、関係政府の意見を大筋で受け入れ、原発事故の被害を過小評価することによって、原発推進の役割を果していることが分かる。日本国内の「原子力ムラ」と同じように、国際的にも「国際原子力ムラ」が存在しているということである。「チェルノブイリ 極秘」(平凡社)の著者アラ・ヤロシンスカヤも、その事実を明確に指摘していた。”国際原子力共同体”は、国際的な「原子力村」というわけである。
 ベラルーシ科学アカデミー・物理化学放射線問題研究所の、ミハイル・V・マリコは、下記のようにベラルーシにおける甲状腺ガンの発生数を通して、その晩発的影響に関する事実を明らかにし”国際原子力共同体”の過小評価を批判しているが、
「被災地住民の間に一般的な病気が有意に増加している」との指摘なども見逃すことはできない。

  そうした指摘をふまえれば、今回
「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)が、東京電力福島第一原子力発電所事故による住民への被曝影響の報告書で、「被曝による住民への健康影響はこれまでなく、将来的にも表れないだろう」と述べていることは、そのまま受け入れることはできない。チェルノブイリ事故後の状況と比較すると、福島でも晩発的影響が出てくる可能性は否定できないのではないかと思うのである。
-------------------------------
     チェルノブイリ原発事故:国際原子力共同体の危機
                 
ミハイル・V・マリコ(ベラルーシ科学アカデミー・物理化学放射線問題研究所)

はじめに


 ・・・
 今日、チェルノブイリ原発の核爆発が、生態学的、経済的、社会的そして心理学的にどのような影響を及ぼしたかについては議論の余地がない。一方、この事故が人びとの健康にどのような放射線影響を及ぼしたかについては、著しい評価の食い違いが存在している。チェルノブイリ事故直後に、被災した旧ソ連各共和国の科学者たちは、多くの病気の発生率が著しく増加していることを確認した。しかし”国際原子力共同体”は、そのような影響はまったくなかったと否定し、病気全般にわたる発生率の増加とチェルノブイリ事故との因果関係を否定した。そして、この増加を、純粋に心理学的な要因やストレスによって説明しようとした。”国際原子力共同体”が、こうした立場に立った理由には、いくつかの政治的な理由がある。また、従来、放射線の晩発的影響として認められていたのは、白血病、ガン、先天性障害、遺伝的影響だけだったこともある。同時に、”国際原子力共同体”自身が医学的な影響を認めた場合でも、たとえば彼らは、チェルノブイリ事故によって引き起こされた甲状腺ガンや先天性障害の発生を正しく評価できなかった。こうしたことを見れば、”国際原子力共同体” が危機に直面していることが分かる。彼らは、チェルノブイリ事故の深刻さと、放射線影響を評価できなかったのであった。彼らは、旧ソ連の被災者たちを救うために客観的な立場をとるのではなく、事故直後から影響を過小評価しようとしてきたソ連政府の代弁者の役を演じた。本報告ではこうした問題をとりあげて論じる。


チェルノブイリ事故原因と影響についての公的な説明

 チェルノブイリ原発事故は、原子力平和利用史上最悪の事故として専門家に知られている。事故は1986年4月26日に発生した。そ の時、チェルノブイリ原発4号炉の運転員は、発電所が全所停電したときに、タービンの発電機を使って短時間だけ電力を供給するテストを行っていた。事故によって原子炉は完全に破壊され、大量の放射能が環境に放出された。当初、ソ連当局は事故そのものを隠蔽してしまおうとしたが、それが不可能だったため、次には事故の放射線影響を小さく見せるように動いた。


 ・・・(以下略)

チェルノブイリ事故被災者の医学的影響

「350ミリシーベルト概念」
 いわゆる350ミリシーベルト概念、すなわち、被災者の被曝限度を一生の間に350ミリシーベルトと定めた主な理由は、おそらくソ連の困難な経済状況であった。この概念は、1988年秋にソ連放射線防護委員会(NCRP)によって作られた。
 この350ミリシーベルト概念は、以下の仮定に基づいている。

・ ソ連国内汚染地の大多数の住民にとって、外部被曝と内部被曝を合わせた、チェルノブイリ事故による個人被曝は、1986年4月26日を起点とする、70年間に350ミリシーベルトを越えない。
・ 汚染地で生活する人の全生涯に、事故によって上乗せされる被曝量が350ミリシーベルト程度か、それ以下であれば住民への医学的な影響は問題にならない。

 こうした仮定により、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの全チェルノブイリ被災地において、移住を含めた何らの防護措置も実質的に行う必要がなくなった。この350ミリシーベルト概念は、1990年1月から実施されるはずであった。その実施によって、事故後汚染地でとられてきたすべての規則は解除されることになっていた。


 350ミリシーベルト概念は、1986年夏にソ連の専門家が行った医学的影響予測に基づいている。また、1988年末イリイン教授の監督のもとで行われた改訂版の評価にも基づいている。その改訂版の評価は、昔のものと非常によく一致していた。しかし古い評価と同様、新しい評価も正しくない。そのことは、甲状腺ガンの評価からはっきりみてとれる。新しい評価によれば、チェルノブイリ事故によってベラルーシの子供たちに引き起こされる甲状腺ガンは、わずかに39件とされている。そして、その症例は5年の潜伏期の後、30年かけて現れるはずであった。つまり、ベラルーシの子供たちにはじめて甲状腺ガンが増えてくるのは1991年になってのことだと予測されていた。

 イリイン教授らの予測は完全に誤りであった。そのことは、表1
(下記)に示すベラルーシにおける甲状腺ガンの発生件数のデータをみれば分かる。チェルノブイリ事故前9年間(1977-1985)においては、ベラルーシで登録された小児甲状腺ガンは、わずか7例であった。つまり、ベラルーシにおける自然発生の小児甲状腺ガンは、1年に1件だということである。ところが、1986年1990年の間に47例の甲状腺ガンが確認され、それは、イリインらによる予測に比べれば、9倍以上に達する。
 
 チェルノブイリ事故後最初の10年、つまり1986年から1995年の間にベラルーシで確認された甲状腺ガンの総数は424例であった。この値は、事故後35年の間に全部で39件の小児甲状腺ガンしか生じないというイリインらの予測に比べ、すでに10倍を超えている。予測と実際とを比べてみれば、チェルノブイリ事故による小児甲状腺ガンの発生について、ソ連の専門家の予測はたいへんな過小評価をしていたことがわかる。同じことは、旧ソ連の汚染地域における先天性障害に関してもいえるであろう。ソ連の専門家の評価は、それがみつかる可能性すら実際否定していた。その結論の誤りがラジューク教授らによって示された。

 上述した事実は、チェルノブイリ事故による放射線影響に関してソ連の専門家が行った評価が、著しい過小評価であることをはっきりと 示している。そのことは、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの汚染地域において、事故直後から被災者の間に健康状態の顕著な悪化を確認してきた多くの科学者たちにとっては自明のことであった。

 ところが、ソ連当局と国際原子力共同体は、イリイン教授らの評価結果と350ミリシーバルト概念が正しいと考えていた。国際原子力共同体が、チェルノブイリ事故の放射線影響に関するソ連の新しい評価や350ミリシーベルト概念の意味するものを十分承知していることに注意しておかねばならない。ソ連医学アカデミーの会議の後、イリイン教授らの報告は、世界保健機構(WHO)に提出され、後日それは、有名な国際雑誌に科学論文として掲載された。350ミリシーベルト概念についても同様である。350ミリシーバルト概念に関する報告は、1989年5月11日ー12日にウィーンで開かれた国際法車線影響科学委員会の第38回会議に提出された。この概念は、国際原子力機関(IAEA)事務局が、1989年5月12日に開いた、チェルノブイリ事故に関する非公式会議にも提出された。

 このソ連の新しい評価は、国際原子力共同体の専門家からは何らの批判もうけなかった。そのことはイリイン教授らの論文の内容が、もとの報告と大きく変わっていなかったことからもわかるし、ソ連政府に350ミリシーベルト概念を実施させるために国際原子力共同体が多大な手助けをしたことからもわかる。

       表1 ベラルーシにおける甲状腺ガン発生数
                (大人と子供)
事故前 事故後
大人 子供 大人 子供
1977121219861622
197897219872024
1979101019882075
1980127019892267
19811321199028929
19821311199134059
19831360199241666
19841390199351279
19851481199455382
合計11317合計2907333

被災地における健康統計

 ベラルーシの専門家が成し遂げたもう1つの重要な仕事は、被災地住民の間に一般的な病気が有意に増加していることを見つけたことである。多くの専門家は、一般的な病気が増加していることを疑っている。そのような疑いが根拠をもたないことは、本報告の表2,3に示したデータがはっきりと示している。
 これらのデータは、ブレスト州の汚染地域とその対照地域住民について、P・シドロフスキー博士が行ってきた疫学研究の結果である。


・・・(以下略)

 http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。「・・・」は、段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。 



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする