6月6日の朝日新聞に、”福島県は5日、東京電力福島第1原発事故発生当時に18歳以下だった子ども約17万4千人分の甲状腺検査の結果を発表した。9人が新たに甲状腺がんと診断され、すでに診断された3人と合わせ、甲状腺がんの患者は累計12人になった。疑いのある人は16人になった。チェルノブイリの事故では、被曝から4~5年後に甲状腺がんが発生していることから、県は「被曝による影響の可能性はほとんどない」と説明している。・・・”との記事があった。まだ2年少々しか経過していない現在、なぜ「被曝による影響の可能性はほとんどない」というのか、その意味がよく分からない。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)の中の「ウクライナにおける事故影 響の概要」(ドミトロ・M・グロジンスキー:ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)の論文から抜粋したものであるが、その中に、「被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている」という文章があり、表16からは、確かにそのことが読み取れる。そして、10年が経過しても「現在まだその発生率のピークに至っていない」というのである。
それは、「晩発性放射線障害 原子力村 国際組織?」で取り上げたベラルーシ科学アカデミー・物理化学放射線問題研究所のミハイル・V・マリコの論文に添付されていた「ベラルーシにおける甲状腺ガン発生数(大人と子供)」の表を見ても分かる。1986年から1995年まで一貫して増加を続けているのである。
国際放射線防護委員会(ICRP)が、線量とがんや白血病などの発生確率は比例するとし、「しきい値」はないとしている。その考え方に基づけば、たとえ低線量の放射線による被曝であっても、人体・生体への影響および健康被害の可能性はあると考えるべきであろう。低線量被曝ほど、潜伏期間が長いという。したがって、今の段階で「被曝による影響の可能性はほとんどない」と言う根拠は何なのか、と疑問に思う。
東京電力福島第1原発事故後の原発関連組織やそれらと一体となった関係者の対応が、グロジンスキーが指摘するチェルノブイリ事故後の一部の組織や関係者の動きと同じ、ということはないであろうか。
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ウクライナにおける事故影響の概要
ドミトロ・M・グロジンスキー
(ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)
放射線影響評価
事故の直後から、災害の規模についての情報は不当に見くびられ、また誤解されてきた。今日でさえ、世間一般の見方は、人類におよぼされた破局的大災害の実相からはるかにかけ離れている。放射線の専門家の間にはっきりと浮かび上がってきた論争は、今日に至っても、チェルノブイリ事故の医学的影響をめぐって続いている。チェルノブイリ事故後、ウクライナの人々の間に生じてきたおびただしい病気の真の原因が何なのか、意見が分かれているのである。事故後の罹病率が増加した原因は、心理的な要因にあるのであって、それ以外にはありえないとする見解を支持する人たちがたくさんいる。「放射能恐怖症」なる用語が、放射線関係の論文の中に現れるようになっている。しかしながら、罹病率は環境の放射能汚染と深く関連しているという見解もまた存在している。すでに、低線量被曝の効果、および甲状腺に対するヨウ素の影響について、信頼できるデータがある。
チェルノブイリの事故の影響がなかったかのような嘘をついたり、それを忘れ去るべき過去のこととして記憶から消し去ってしまおうとさえするような恥ずべきまた非人間的な動きがあることを、私は注意しておきたい。チェルノブイリ原発事故によって原子力の権威は地に 落ちたが、多くの場合、上のような見方は原子力への偏向した支持者たちによってなされてきた。しかし私は、この事故は決して忘れ去られてはならない信じる。むしろそれどころか、私たちは、事故の影響を慎重に明らかにしなければならない。なぜなら、以下に述べるよう に、チェルノブイリ事故による放射線影響は、未曾有で大規模な生態学的な危険と関連しているからである。
・・・(以下略)
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子供たちの健康状態
チェルノブイリ事故で被曝した子供では、1987年から1996年まで慢性疾患がたえず増加してきた。表14はチェルノブイリ被災地域の子供の発病率と罹病率の値である。
この10年間で、罹病率は2.1倍に、発病率は2.5倍に増加した。罹病率の増加が最も激しいのは、腫瘍、先天的欠陥、血液、造血器系の病気であった。もっとも罹病率が高いのは、第3グループ(厳重な放射能管理下の住民)-下記註参照-の子供たちである。同じ期間において、ウクライナ全体の子供の罹病率、20,8パーセント減少していることを指摘しておく。
このように、被災地域の子供たちの罹病率は、全ウクライナ平均での子供の罹病率をはるかに超えている。被災地域の子供たちの病気の構成表、を表15に示す。
同じ期間に、先天的欠陥の発生率は5.7倍に、循環器系および造血器系の罹病率は5.4倍に増加している。
妊娠中と出産時の異常の増加に伴い、新生児の死亡率が増加している。また、1987年に1000人当たり0.5件であった0~14歳の子供の死亡率は1994年には、1.2件に増えている。
神経系と感覚器官の病気(5倍に増加)、先天的欠陥(2.4倍に増加)、感染症・寄生虫起源の病気、循環器系の病気などによって、子供の死亡率は増加している。
他の地域の子供に比べ、問題の子供たちのガン発生率も明らかに大きい。被災地域の子供の腫瘍発生率は、1987年10年間で3.6倍に増加している。ガンの種類によって、その死亡率の増加傾向は、必ずしも一定していない。しかし、汚染地域の子供のガン死亡率は、他の地域の子供よりも大きくなっている。
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甲状腺ガン
今日では、チェルノブイリ事故が甲状腺ガンを増加させたことに議論の余地はない。甲状腺の悪性腫瘍を引き起こした原因が、破壊された原子炉から放出されたヨウ素にあることもまた確定されている。事故前は甲状腺ガンはまれな病気であり、主に年長者に特徴的な病気であった。子供や青年においては、甲状腺ガンの年間発生率は100万人当たりおよそ0.2ないし0.4件であり、全腫瘍の約3%を占めたと推定されている。1981年から1985年にかけて、ウクライナの子供にみられる甲状腺ガンはわずか25例にすぎなかった。
被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている。被曝量の大きさと潜伏期間の長さの間には関連がない。しかし、甲状腺ガン発生率の増加は予測されるよりもはるかに早く、すなわち事故後4年にして始まり、現在も増加中である。
甲状腺ガンは、事故時年齢が3歳以下の子供で著しい増加を示している。この甲状腺ガンの特徴はたいへん攻撃性が強いことである。半数の症例では、ガンが甲状腺の外側に広がっていき、周辺の組織や器官までも冒している。子供の甲状腺ガン症例数を、表16に示す。
小児甲状腺ガンの増加は、今後長い年月にわたって続くと考えるのが合理的である。現在まだその発生率のピークに至っていない。
註
第1グループ チェルノブイリ事故の事故処理作業従事者(リクビダートル)
男性22万3908人 女性2万1679人 合計24万5587人
第2グループ 避難ゾーンからの強制避難者と移住義務ゾーンからの移住
者 男性3万1365人 女性3万9128人 合計7万483人
第3グループ 厳重な放射線管理が行われる地域にいま現在も居住してい
るか、事故後数年間にわたって住み続けていた住民。
このグループに属する人数はたいへん多く、
209万6000人である(男性45.7%、女性54.3%)
第4グループ 上記のグループのいずれかに属する親から生まれた子供。
1995年の時点で、31万7000人以上。
表14 被災地域の子供の発病率と罹病率
表15 被災地域の子供の病気の構成
表16 ウクライナにおけるチェルノブイリ事故後の小児甲状腺ガン症例数
(事故時年齢0歳から19歳)
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。読点を省略または追加しています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)の中の「ウクライナにおける事故影 響の概要」(ドミトロ・M・グロジンスキー:ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)の論文から抜粋したものであるが、その中に、「被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている」という文章があり、表16からは、確かにそのことが読み取れる。そして、10年が経過しても「現在まだその発生率のピークに至っていない」というのである。
それは、「晩発性放射線障害 原子力村 国際組織?」で取り上げたベラルーシ科学アカデミー・物理化学放射線問題研究所のミハイル・V・マリコの論文に添付されていた「ベラルーシにおける甲状腺ガン発生数(大人と子供)」の表を見ても分かる。1986年から1995年まで一貫して増加を続けているのである。
国際放射線防護委員会(ICRP)が、線量とがんや白血病などの発生確率は比例するとし、「しきい値」はないとしている。その考え方に基づけば、たとえ低線量の放射線による被曝であっても、人体・生体への影響および健康被害の可能性はあると考えるべきであろう。低線量被曝ほど、潜伏期間が長いという。したがって、今の段階で「被曝による影響の可能性はほとんどない」と言う根拠は何なのか、と疑問に思う。
東京電力福島第1原発事故後の原発関連組織やそれらと一体となった関係者の対応が、グロジンスキーが指摘するチェルノブイリ事故後の一部の組織や関係者の動きと同じ、ということはないであろうか。
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ウクライナにおける事故影響の概要
ドミトロ・M・グロジンスキー
(ウクライナ科学アカデミー・ウクライナ細胞生物学遺伝子工学研究所)
放射線影響評価
事故の直後から、災害の規模についての情報は不当に見くびられ、また誤解されてきた。今日でさえ、世間一般の見方は、人類におよぼされた破局的大災害の実相からはるかにかけ離れている。放射線の専門家の間にはっきりと浮かび上がってきた論争は、今日に至っても、チェルノブイリ事故の医学的影響をめぐって続いている。チェルノブイリ事故後、ウクライナの人々の間に生じてきたおびただしい病気の真の原因が何なのか、意見が分かれているのである。事故後の罹病率が増加した原因は、心理的な要因にあるのであって、それ以外にはありえないとする見解を支持する人たちがたくさんいる。「放射能恐怖症」なる用語が、放射線関係の論文の中に現れるようになっている。しかしながら、罹病率は環境の放射能汚染と深く関連しているという見解もまた存在している。すでに、低線量被曝の効果、および甲状腺に対するヨウ素の影響について、信頼できるデータがある。
チェルノブイリの事故の影響がなかったかのような嘘をついたり、それを忘れ去るべき過去のこととして記憶から消し去ってしまおうとさえするような恥ずべきまた非人間的な動きがあることを、私は注意しておきたい。チェルノブイリ原発事故によって原子力の権威は地に 落ちたが、多くの場合、上のような見方は原子力への偏向した支持者たちによってなされてきた。しかし私は、この事故は決して忘れ去られてはならない信じる。むしろそれどころか、私たちは、事故の影響を慎重に明らかにしなければならない。なぜなら、以下に述べるよう に、チェルノブイリ事故による放射線影響は、未曾有で大規模な生態学的な危険と関連しているからである。
・・・(以下略)
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子供たちの健康状態
チェルノブイリ事故で被曝した子供では、1987年から1996年まで慢性疾患がたえず増加してきた。表14はチェルノブイリ被災地域の子供の発病率と罹病率の値である。
この10年間で、罹病率は2.1倍に、発病率は2.5倍に増加した。罹病率の増加が最も激しいのは、腫瘍、先天的欠陥、血液、造血器系の病気であった。もっとも罹病率が高いのは、第3グループ(厳重な放射能管理下の住民)-下記註参照-の子供たちである。同じ期間において、ウクライナ全体の子供の罹病率、20,8パーセント減少していることを指摘しておく。
このように、被災地域の子供たちの罹病率は、全ウクライナ平均での子供の罹病率をはるかに超えている。被災地域の子供たちの病気の構成表、を表15に示す。
同じ期間に、先天的欠陥の発生率は5.7倍に、循環器系および造血器系の罹病率は5.4倍に増加している。
妊娠中と出産時の異常の増加に伴い、新生児の死亡率が増加している。また、1987年に1000人当たり0.5件であった0~14歳の子供の死亡率は1994年には、1.2件に増えている。
神経系と感覚器官の病気(5倍に増加)、先天的欠陥(2.4倍に増加)、感染症・寄生虫起源の病気、循環器系の病気などによって、子供の死亡率は増加している。
他の地域の子供に比べ、問題の子供たちのガン発生率も明らかに大きい。被災地域の子供の腫瘍発生率は、1987年10年間で3.6倍に増加している。ガンの種類によって、その死亡率の増加傾向は、必ずしも一定していない。しかし、汚染地域の子供のガン死亡率は、他の地域の子供よりも大きくなっている。
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甲状腺ガン
今日では、チェルノブイリ事故が甲状腺ガンを増加させたことに議論の余地はない。甲状腺の悪性腫瘍を引き起こした原因が、破壊された原子炉から放出されたヨウ素にあることもまた確定されている。事故前は甲状腺ガンはまれな病気であり、主に年長者に特徴的な病気であった。子供や青年においては、甲状腺ガンの年間発生率は100万人当たりおよそ0.2ないし0.4件であり、全腫瘍の約3%を占めたと推定されている。1981年から1985年にかけて、ウクライナの子供にみられる甲状腺ガンはわずか25例にすぎなかった。
被曝からガンが発現するまでの潜伏期間は、平均約8年から10年の付近でばらついている。被曝量の大きさと潜伏期間の長さの間には関連がない。しかし、甲状腺ガン発生率の増加は予測されるよりもはるかに早く、すなわち事故後4年にして始まり、現在も増加中である。
甲状腺ガンは、事故時年齢が3歳以下の子供で著しい増加を示している。この甲状腺ガンの特徴はたいへん攻撃性が強いことである。半数の症例では、ガンが甲状腺の外側に広がっていき、周辺の組織や器官までも冒している。子供の甲状腺ガン症例数を、表16に示す。
小児甲状腺ガンの増加は、今後長い年月にわたって続くと考えるのが合理的である。現在まだその発生率のピークに至っていない。
註
第1グループ チェルノブイリ事故の事故処理作業従事者(リクビダートル)
男性22万3908人 女性2万1679人 合計24万5587人
第2グループ 避難ゾーンからの強制避難者と移住義務ゾーンからの移住
者 男性3万1365人 女性3万9128人 合計7万483人
第3グループ 厳重な放射線管理が行われる地域にいま現在も居住してい
るか、事故後数年間にわたって住み続けていた住民。
このグループに属する人数はたいへん多く、
209万6000人である(男性45.7%、女性54.3%)
第4グループ 上記のグループのいずれかに属する親から生まれた子供。
1995年の時点で、31万7000人以上。
表14 被災地域の子供の発病率と罹病率
年 | 発病率 | 罹病率 |
1987 | 455.4 | 786.6 |
1994 | 1138.5 | 1651.9 |
表15 被災地域の子供の病気の構成
疾病の種類 | % |
呼吸器系の病気 | 6106 |
神経系の病気 | 6.2 |
消化器系の病気 | 5.7 |
血液・造血器系の病気 | 3.5 |
内分泌系の病気 | 1.2 |
表16 ウクライナにおけるチェルノブイリ事故後の小児甲状腺ガン症例数
(事故時年齢0歳から19歳)
年 | 症例数 | 10万人当たりの 件数 |
1986 | 15 | 0.12 |
1987 | 18 | 0.14 |
1988 | 22 | 0.17 |
1989 | 36 | 0.28 |
1990 | 59 | 0.45 |
1991 | 61 | 0.47 |
1992 | 108 | 0.83 |
1993 | 113 | 0.87 |
1994 | 134 | 1.00 |
1995 | 166 | 1.30 |
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。読点を省略または追加しています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。