2013年5月25日の朝日新聞が、「福島第1原発事故で避難した住民が自宅に戻ることのできる『年20ミリシーベルト以下』の帰還基準は、避難者を増やさないことにも配慮して作られていた」と報じたことはすでに取り上げた。住民の被曝を減らすために、帰還基準を5ミリシーベルトにするべきだという意見もあったという。しかし、そうすると福島県の13%が原発避難区域に入り、人口流出や風評被害が広がること、また避難者が増えて賠償額が膨らむことが懸念されたためであるという。そして、2011年11月の放射線量に基づき、下記のように再編された、と伝えている。
(1)5年以上帰れない帰還困難区域(年50ミリシーベルト超)
(2)数年で帰還を目指す居住制限区域(年20ミリ超~50ミリシ-ベルト)
(3)早期帰還を目指す避難指示解除準備区域(年20ミリシーベルト以下)
に再編
しかしながら、この放射線量の数値は、1991年2月27日ウクライナSSR最高会議で採択された法制度の基本概念の数値と大きな 開きがある。
福島では見送られて実現しなかった、「帰還基準の年間被曝線量5ミリシーベルト」は、下記の表1を見ても分かるように、ウクライナでは、「健康にとって危険である」との理由で 「移住義務ゾーン」になっているのである。それは、「基本概念」によれば、「チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するため」である。だとすれば、福島での早期帰還を目指す避難指示解除準備区域(年20ミリシーベルト以下)の対策は、様々な放射線障害その他の問題を考える時、どのように理解すればよいのであろう。年間被曝線量が20ミリシーベルト以下であれば帰還させようという日本、年間被曝線量が5ミリシーベルトを超える地域は移住義務ゾーンのウクライナ。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)からの抜粋である。
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ウクライナでの事故への法的取り組み
オレグ・ナスビット(ウクライナ科学アカデミー・水圏生物学研究所)
今中哲二(京都大学原子炉実験所)
1 チェルノブイリ事故に関する基本法
基本概念
チェルノブイリ事故がもたらした問題に関するウクライナの法制度の記述は、まず基本概念文書「チェルノブイリ原発事故によって放射能に汚染されたウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)の領内での人々の生活に関する概念」の引用から始めるのが適切であろう。この短い文書は、チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として、1991年2月27日、ウクライナSSR最高会議によって採択された。
この概念の基本目標はつぎのようなものである。すなわち最も影響をうけやすい人々、つまり1986年に生まれた子供たちに対するチ ェルノブイリ事故による被曝量を、どのような環境のもとでも(自然放射線による被曝を除いて)年間1ミリシーベルト以下に、言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える、というものである。
基本概念文書によると、「放射能汚染地域の現状は、人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している。」それゆえ、「これらの汚染地域から人々を移住させることが最も重要である。」基本概念では(個々人の被曝量が決定されるまでは)土壌の汚染レベルが移住を決定するための暫定指標として採用されている。一度に大量の住民を移住させることは不可能なので、基本概念では、つぎのような”順次移住原則”が採用されている。
第1ステージ(強制・義務的移住の実施)
セシウム137の土壌汚染レベルが555kBq/㎡(15Ci/?)以上、ストロンチウム90が111kBq/㎡(3Ci/?)以上、またはプルトニウムが 3.7kBq/㎡(0.1Ci/?)以上の地域。住民の被曝量は年間5ミリシーベルトを超えると想定され、健康にとって危険である。
第2ステージ(希望移住の実施)
セシウム137の土壌汚染レベルが185~555kBq/㎡(5~15Ci/?)、ストロンチウム90が5.55~111kBq/㎡(0.15~3Ci/?)、またはプルト ニウムが0.37~3.7kBq/㎡(0.01~0.1Ci/?)の地域。年間被曝量は1ミリシーベルトを超えると想定され、健康にとって危険である。さらに、汚染地域で”クリーン”な作物の栽培が可能かどうかに関連して、移住に関する他の指標もいくつか定められている。
基本概念の重要な記述の一つは「チェルノブイリ事故後、放射線被曝と同時に、放射線以外の要因も加わった複合的な影響が生じている。この複合効果は、低レベル被曝にともなう人々の健康悪化を、とくに子供たちに対し増幅させる。こうした条件下では、放射能汚染対策を決定するにあたって、複合効果がその重要な指標となる。」
セシウム137の汚染レベルが185kBq/㎡(5Ci/?)以下、ストロンチウム90が5.55kBq/㎡(0.15Ci/?)以下、プルトニウムが0.37kBq/㎡( 0.01Ci/?)以下の地域では、厳重な放射能汚染対策が実施され、事故にともなう被曝量が年間1ミリシーベルト以下という条件で居住が認められる。この条件が充たされなければ、住民に”クリーン”地域への移住の権利が認められる
こうした基本概念の実施のため、つぎの2つのウクライナの法律、「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」および「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」が制定された。
表1 法に基づく放射能汚染ゾーンの定義
(注)避難ゾーン:1986年に住民が避難した地域 n.d.:定義なし
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。
(1)5年以上帰れない帰還困難区域(年50ミリシーベルト超)
(2)数年で帰還を目指す居住制限区域(年20ミリ超~50ミリシ-ベルト)
(3)早期帰還を目指す避難指示解除準備区域(年20ミリシーベルト以下)
に再編
しかしながら、この放射線量の数値は、1991年2月27日ウクライナSSR最高会議で採択された法制度の基本概念の数値と大きな 開きがある。
福島では見送られて実現しなかった、「帰還基準の年間被曝線量5ミリシーベルト」は、下記の表1を見ても分かるように、ウクライナでは、「健康にとって危険である」との理由で 「移住義務ゾーン」になっているのである。それは、「基本概念」によれば、「チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するため」である。だとすれば、福島での早期帰還を目指す避難指示解除準備区域(年20ミリシーベルト以下)の対策は、様々な放射線障害その他の問題を考える時、どのように理解すればよいのであろう。年間被曝線量が20ミリシーベルト以下であれば帰還させようという日本、年間被曝線量が5ミリシーベルトを超える地域は移住義務ゾーンのウクライナ。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)からの抜粋である。
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ウクライナでの事故への法的取り組み
オレグ・ナスビット(ウクライナ科学アカデミー・水圏生物学研究所)
今中哲二(京都大学原子炉実験所)
1 チェルノブイリ事故に関する基本法
基本概念
チェルノブイリ事故がもたらした問題に関するウクライナの法制度の記述は、まず基本概念文書「チェルノブイリ原発事故によって放射能に汚染されたウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)の領内での人々の生活に関する概念」の引用から始めるのが適切であろう。この短い文書は、チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として、1991年2月27日、ウクライナSSR最高会議によって採択された。
この概念の基本目標はつぎのようなものである。すなわち最も影響をうけやすい人々、つまり1986年に生まれた子供たちに対するチ ェルノブイリ事故による被曝量を、どのような環境のもとでも(自然放射線による被曝を除いて)年間1ミリシーベルト以下に、言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える、というものである。
基本概念文書によると、「放射能汚染地域の現状は、人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している。」それゆえ、「これらの汚染地域から人々を移住させることが最も重要である。」基本概念では(個々人の被曝量が決定されるまでは)土壌の汚染レベルが移住を決定するための暫定指標として採用されている。一度に大量の住民を移住させることは不可能なので、基本概念では、つぎのような”順次移住原則”が採用されている。
第1ステージ(強制・義務的移住の実施)
セシウム137の土壌汚染レベルが555kBq/㎡(15Ci/?)以上、ストロンチウム90が111kBq/㎡(3Ci/?)以上、またはプルトニウムが 3.7kBq/㎡(0.1Ci/?)以上の地域。住民の被曝量は年間5ミリシーベルトを超えると想定され、健康にとって危険である。
第2ステージ(希望移住の実施)
セシウム137の土壌汚染レベルが185~555kBq/㎡(5~15Ci/?)、ストロンチウム90が5.55~111kBq/㎡(0.15~3Ci/?)、またはプルト ニウムが0.37~3.7kBq/㎡(0.01~0.1Ci/?)の地域。年間被曝量は1ミリシーベルトを超えると想定され、健康にとって危険である。さらに、汚染地域で”クリーン”な作物の栽培が可能かどうかに関連して、移住に関する他の指標もいくつか定められている。
基本概念の重要な記述の一つは「チェルノブイリ事故後、放射線被曝と同時に、放射線以外の要因も加わった複合的な影響が生じている。この複合効果は、低レベル被曝にともなう人々の健康悪化を、とくに子供たちに対し増幅させる。こうした条件下では、放射能汚染対策を決定するにあたって、複合効果がその重要な指標となる。」
セシウム137の汚染レベルが185kBq/㎡(5Ci/?)以下、ストロンチウム90が5.55kBq/㎡(0.15Ci/?)以下、プルトニウムが0.37kBq/㎡( 0.01Ci/?)以下の地域では、厳重な放射能汚染対策が実施され、事故にともなう被曝量が年間1ミリシーベルト以下という条件で居住が認められる。この条件が充たされなければ、住民に”クリーン”地域への移住の権利が認められる
こうした基本概念の実施のため、つぎの2つのウクライナの法律、「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」および「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」が制定された。
表1 法に基づく放射能汚染ゾーンの定義
土壌汚染密度.kBq/㎡(Ci/?) | (ミリシーベルト/年) |
NO | ゾーン名 | セシウム137 | ストロンチウム90 | プルトニウム | 年間被曝量 |
1 | 避難(特別規制ゾーン) | n.d. | n.d. | n.d. | .n.d. |
2 | 移住義務ゾーン | 555k以上 (15以上) | 111k以上 (3以上) | 3.7以上 (0.1以上) | 5以上 |
3 | 移住権利ゾーン | 185~555 (5~15) | 5.55~111 (0.15~3) | 0.37~3.7 (0.01~0.1) | 1以上 |
4 | 放射能管理強化ゾーン | 37~185 (1~5) | 0.74~5.55 0.02~0.15 | 0.185~0.37 0.005~0.01 | 0.5以上 |
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。