安倍自民党政権は、原発の再稼働だけではなく、原発の輸出を推進し、青森県六ヶ所村の再処理工場の操業、高速増殖炉「もんじゅ」の本格稼働によって、行き詰まっている核燃料サイクル政策を強引に押し進めようとしている。東電福島第1原発の事故などなかったかのよう、また、放射線障害の問題など眼中に無いかのように。
私は、ウクライナと福島の汚染地域対策におけるの放射線量の数値の違いが気になる。晩発性放射線障害の問題と関わってである。 たとえば、下記の「ガン患者の診断後の余命が、チェルノブイリ事故後毎年短縮しているのである」という文章や「表8 第3期-第4期の胃ガンと肺ガン患者の診断後余命(チェルノブイリ事故の前と後)」の表が意味することはどういうことであろうかと。また「チェルノブイリ事故前(1984年、1985年)のルギヌイ地区の平均寿命は75歳であったが、事故後(1990-1996年)は65歳になっている」というようなことにも驚く。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)からの抜粋である。
---------------------------------
ウクライナ・ルギヌイ地区住民の健康状態
イワン・ゴドレフスキー、オレグ・ネスビット
ルギヌイ地区医療協議会、ウクライナ科学アカデミー・水圏生物学研究所
ルギヌイ地区住民の健康状態
ソ連の崩壊にともない、その長所短所を含め、ウクライナは旧ソ連の医療システムを引き継いだ。そのシステムは、国立医療センターを頂点として州、地区、町(村)の病院へと底辺に向かって広がっていく。一種のヒエラルキーを構成している。それぞれの地区には中央病院が1つ設置されている。このレポートの著者の1人は、ルギヌイ地区医療協議会病院(ルギヌイ地区の中央病院)に勤務しており、したがって、地区住民の医療情報をすべて入手することができる。
健康状態の指標として、私たちは、免疫系の状態、内分泌系疾患、新生児罹病率、住民の精神神経的状態、老化の早まり、および死亡率に着目して分析する。
免疫系
免疫系の状態は、健康状態を知るうえで最も重要な指標の1つである。ルギヌイ地区中央病院のデータによるち、事実上すべての患者の免疫力の低下がみられた。この免疫力の低下は、感染症の増加と長期化、急性進行型の結核の増加、疾病の再発、疾病にかかりやすい人々の増加、ガン患者の診断後余命の短縮、疾病の経過不良、病原体の毒性増加、アレルギー疾患の増加などとして臨床的に観察されている。
ガン患者の医療記録を調べてみると、つぎのような、深刻な傾向が明らかとなった。すなわち、ガン患者の診断後の余命が、チェルノブイリ事故後毎年短縮しているのである。事故前の1984ー1985には、第3期から第4期にある胃ガン患者診断後余命は、約60ヶ月であり、第3期ー第4期の肺ガン患者では、約40ヶ月だった。1992年には第3期ー第4期の胃ガン患者の余命は15.5ヶ月となり、第3期ー第4期の肺ガン患者では8ヶ月となった。そして1996年それぞれ2.3ヶ月と2ヶ月となった。(!!!)(表8)。検査技術、診断方法、および治療方法は事故以前のレベルと変わっていない。
そのような余命の差が生じたのはなぜだろうか?生命力を維持するための免疫機能の重要性は、チェルノブイリ事故後に特に顕著となっている。免疫機能は、生体組織の内部バランスを維持するのに重要な役割を果たしており、ガン防止の働きをしている。放射線の影響によって免疫機能は強度のストレスにさらされ、それに続いて免疫の働きが破壊される。そのことによってガンが進行すると同時に、治癒不能な感染症との合併症が起こるというのが、そういった患者の一般的な死亡経過である。
医師たちはまた、新規結核患者において急性進行型の結核が増えていることを憂慮している(表9略)。これもまた、免疫機能が低下していることのあらわれである。
1990年、必要以上の医療放射線被曝から住民を守るという保健当局の指示によって、健康診断でのレントゲン検査は急激に減少した。1990年の新規結核患者数が前年に比べて落ち込んでいる理由はそのためである(表9略)。1990年の落ち込みは結核患者が実際に減少したことを示しているのではない。その後、より近代的に設備を備えたレントゲン撮影室と施設の設置にともない、レントゲン検査の数も復活し最大限実施されている。
内分泌系の疾患
内分泌系の疾患には、甲状腺腫、甲状腺結節、糖尿病、脂肪症その他がある。とくに憂慮されているのは、子供たちの内分泌系疾患の増加である。1990ー1991年以降、子供たちの内分泌系疾患が確実に増加している。(図5略)。1986年以前は、内分泌系疾患の罹病率が1000人当たり10件を上回ることはなかった。甲状腺結節および甲状腺腫は地区内には皆無であった。甲状腺疾患の罹病率を分析すると、患者の大部分は1986年にヨウ素に被爆した子供たちだということがわかる。事故直後に放射能が到達したときにはいかなる予防策もとられなかった。事故から3週間たって予防のためのヨウ素剤が配られはじめた。甲状腺疾患は大人にも見られる。残念なことに、甲状腺について専門的な住民検診を実施するための医療施設や財政的措置は、事実上存在しない。
甲状腺ガンは地区では記録されていない。しかしながら、甲状腺肥大の数が著しく増加していることは確実である(図6略)。1986年以前には地区内で甲状腺肥大は記録されていないが、現在では半分近い子供たちに認められる。甲状腺肥大はそれ自体は特定の病気ではないが、外部からの影響に甲状腺組織が反応していることを示している。
新生児罹病率
チェルノブイリ事故後の新生児(生後7日目まで)の罹病率の増加は、その形成障害の増加とともに目立っている(図7略)。1983年以降の先天性形成障害(口唇裂、内部器官の閉塞など)の発生率を図8に示す。事故後の先天性形成障害発生率の変動は単純とはいいがたいが、1988年以降の発生率の平均値は事故前の数倍になっている。
精神神経的障害
医師たちが突然直面するようになり、絶えず悩まされている最も重要な問題に、精神神経的障害がある。うつの症状やさまざまな恐怖症をかかえた患者がますます増えている。頻繁にみられるのは、不安、恐れ、情緒不安定などを訴える、神経症に似た症状、無気力、ヒポコンドリー(心気症、訳註:ちょっとした症状を自分勝手に判断して気にする病的症状)である。
放射能と精神的なストレスが一緒になって諸器官に影響し、心身のバランスが崩れ、内因的な中毒症や精神神経的な症状を引き起こしているのであろう。また、低線量被曝が脳の機能変化をもたらすということもありえる。それは間脳の機能障害をともなう自律神経失調症の著しい増加にはっきりとあらわれている。事故前には、自律神経疾患の例はまったく記録されていない。現在では、この疾患は人々が医者にかかる最も大きな理由の1つとなっている。
医師たちが精神神経障害の問題に直面するようになったのは、ほんの4年前からである。自殺や深刻な精神病が今後増加すると予想され、心身症あるいはそうした疾病に対処できるように今から考えておかなければならない。
老化の早まり
内部および外部被曝の影響によって、年齢を重ねて行くにつれてますます細胞の破壊が進んでいる。このことは、老化を早め、寿命の短縮につながっている。老化と関連する指標の検査結果から、若い世代で老化が進んでいる事実を確認することができる。これらの老化の目印は、体内のいろいろなシステムの機能に関する種々の検査によって明らかにされている。たとえば、心臓循環器系では、血圧、若者の速脈、若者の高血圧と虚血性心疾患の統計的に有意な増加である。また神経系では、身体的原因その他に起因するうつや恐怖症的な症状の増加である。これらの症状はすべて、臨床的検査によって容易にチェックすることができる。
老化とそれにともなう死期の早まりをもたらしているものは何だろう? 主な要因は、放射線レベルの上昇と永続的なストレスである。これらの要因による影響のメカニズムは、事実上同じものである。つまり、それらの要因は、生体のさまざまなシステムや器官に直接あるいは間接に影響を与え、代謝と血液循環の機能を低下させる。その結果、システムや器官にジストロフィー(異栄養症。訳註:組織の栄養欠乏から生じる進行性の変化)が生じ、老化と死期を早めるのである。チェルノブイリ事故前(1984年、1985年)の、ルギヌイ地区の平均寿命は75歳であったが、事故後(1990-1996年)は65歳になっている。
表8 第3期-第4期の胃ガンと肺ガン患者の診断後余命
(チェルノブイリ事故の前と後)
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。
私は、ウクライナと福島の汚染地域対策におけるの放射線量の数値の違いが気になる。晩発性放射線障害の問題と関わってである。 たとえば、下記の「ガン患者の診断後の余命が、チェルノブイリ事故後毎年短縮しているのである」という文章や「表8 第3期-第4期の胃ガンと肺ガン患者の診断後余命(チェルノブイリ事故の前と後)」の表が意味することはどういうことであろうかと。また「チェルノブイリ事故前(1984年、1985年)のルギヌイ地区の平均寿命は75歳であったが、事故後(1990-1996年)は65歳になっている」というようなことにも驚く。
下記は、「チェルノブイリ事故による放射能災害-国際共同研究報告書」今中哲二編(技術と人間)からの抜粋である。
---------------------------------
ウクライナ・ルギヌイ地区住民の健康状態
イワン・ゴドレフスキー、オレグ・ネスビット
ルギヌイ地区医療協議会、ウクライナ科学アカデミー・水圏生物学研究所
ルギヌイ地区住民の健康状態
ソ連の崩壊にともない、その長所短所を含め、ウクライナは旧ソ連の医療システムを引き継いだ。そのシステムは、国立医療センターを頂点として州、地区、町(村)の病院へと底辺に向かって広がっていく。一種のヒエラルキーを構成している。それぞれの地区には中央病院が1つ設置されている。このレポートの著者の1人は、ルギヌイ地区医療協議会病院(ルギヌイ地区の中央病院)に勤務しており、したがって、地区住民の医療情報をすべて入手することができる。
健康状態の指標として、私たちは、免疫系の状態、内分泌系疾患、新生児罹病率、住民の精神神経的状態、老化の早まり、および死亡率に着目して分析する。
免疫系
免疫系の状態は、健康状態を知るうえで最も重要な指標の1つである。ルギヌイ地区中央病院のデータによるち、事実上すべての患者の免疫力の低下がみられた。この免疫力の低下は、感染症の増加と長期化、急性進行型の結核の増加、疾病の再発、疾病にかかりやすい人々の増加、ガン患者の診断後余命の短縮、疾病の経過不良、病原体の毒性増加、アレルギー疾患の増加などとして臨床的に観察されている。
ガン患者の医療記録を調べてみると、つぎのような、深刻な傾向が明らかとなった。すなわち、ガン患者の診断後の余命が、チェルノブイリ事故後毎年短縮しているのである。事故前の1984ー1985には、第3期から第4期にある胃ガン患者診断後余命は、約60ヶ月であり、第3期ー第4期の肺ガン患者では、約40ヶ月だった。1992年には第3期ー第4期の胃ガン患者の余命は15.5ヶ月となり、第3期ー第4期の肺ガン患者では8ヶ月となった。そして1996年それぞれ2.3ヶ月と2ヶ月となった。(!!!)(表8)。検査技術、診断方法、および治療方法は事故以前のレベルと変わっていない。
そのような余命の差が生じたのはなぜだろうか?生命力を維持するための免疫機能の重要性は、チェルノブイリ事故後に特に顕著となっている。免疫機能は、生体組織の内部バランスを維持するのに重要な役割を果たしており、ガン防止の働きをしている。放射線の影響によって免疫機能は強度のストレスにさらされ、それに続いて免疫の働きが破壊される。そのことによってガンが進行すると同時に、治癒不能な感染症との合併症が起こるというのが、そういった患者の一般的な死亡経過である。
医師たちはまた、新規結核患者において急性進行型の結核が増えていることを憂慮している(表9略)。これもまた、免疫機能が低下していることのあらわれである。
1990年、必要以上の医療放射線被曝から住民を守るという保健当局の指示によって、健康診断でのレントゲン検査は急激に減少した。1990年の新規結核患者数が前年に比べて落ち込んでいる理由はそのためである(表9略)。1990年の落ち込みは結核患者が実際に減少したことを示しているのではない。その後、より近代的に設備を備えたレントゲン撮影室と施設の設置にともない、レントゲン検査の数も復活し最大限実施されている。
内分泌系の疾患
内分泌系の疾患には、甲状腺腫、甲状腺結節、糖尿病、脂肪症その他がある。とくに憂慮されているのは、子供たちの内分泌系疾患の増加である。1990ー1991年以降、子供たちの内分泌系疾患が確実に増加している。(図5略)。1986年以前は、内分泌系疾患の罹病率が1000人当たり10件を上回ることはなかった。甲状腺結節および甲状腺腫は地区内には皆無であった。甲状腺疾患の罹病率を分析すると、患者の大部分は1986年にヨウ素に被爆した子供たちだということがわかる。事故直後に放射能が到達したときにはいかなる予防策もとられなかった。事故から3週間たって予防のためのヨウ素剤が配られはじめた。甲状腺疾患は大人にも見られる。残念なことに、甲状腺について専門的な住民検診を実施するための医療施設や財政的措置は、事実上存在しない。
甲状腺ガンは地区では記録されていない。しかしながら、甲状腺肥大の数が著しく増加していることは確実である(図6略)。1986年以前には地区内で甲状腺肥大は記録されていないが、現在では半分近い子供たちに認められる。甲状腺肥大はそれ自体は特定の病気ではないが、外部からの影響に甲状腺組織が反応していることを示している。
新生児罹病率
チェルノブイリ事故後の新生児(生後7日目まで)の罹病率の増加は、その形成障害の増加とともに目立っている(図7略)。1983年以降の先天性形成障害(口唇裂、内部器官の閉塞など)の発生率を図8に示す。事故後の先天性形成障害発生率の変動は単純とはいいがたいが、1988年以降の発生率の平均値は事故前の数倍になっている。
精神神経的障害
医師たちが突然直面するようになり、絶えず悩まされている最も重要な問題に、精神神経的障害がある。うつの症状やさまざまな恐怖症をかかえた患者がますます増えている。頻繁にみられるのは、不安、恐れ、情緒不安定などを訴える、神経症に似た症状、無気力、ヒポコンドリー(心気症、訳註:ちょっとした症状を自分勝手に判断して気にする病的症状)である。
放射能と精神的なストレスが一緒になって諸器官に影響し、心身のバランスが崩れ、内因的な中毒症や精神神経的な症状を引き起こしているのであろう。また、低線量被曝が脳の機能変化をもたらすということもありえる。それは間脳の機能障害をともなう自律神経失調症の著しい増加にはっきりとあらわれている。事故前には、自律神経疾患の例はまったく記録されていない。現在では、この疾患は人々が医者にかかる最も大きな理由の1つとなっている。
医師たちが精神神経障害の問題に直面するようになったのは、ほんの4年前からである。自殺や深刻な精神病が今後増加すると予想され、心身症あるいはそうした疾病に対処できるように今から考えておかなければならない。
老化の早まり
内部および外部被曝の影響によって、年齢を重ねて行くにつれてますます細胞の破壊が進んでいる。このことは、老化を早め、寿命の短縮につながっている。老化と関連する指標の検査結果から、若い世代で老化が進んでいる事実を確認することができる。これらの老化の目印は、体内のいろいろなシステムの機能に関する種々の検査によって明らかにされている。たとえば、心臓循環器系では、血圧、若者の速脈、若者の高血圧と虚血性心疾患の統計的に有意な増加である。また神経系では、身体的原因その他に起因するうつや恐怖症的な症状の増加である。これらの症状はすべて、臨床的検査によって容易にチェックすることができる。
老化とそれにともなう死期の早まりをもたらしているものは何だろう? 主な要因は、放射線レベルの上昇と永続的なストレスである。これらの要因による影響のメカニズムは、事実上同じものである。つまり、それらの要因は、生体のさまざまなシステムや器官に直接あるいは間接に影響を与え、代謝と血液循環の機能を低下させる。その結果、システムや器官にジストロフィー(異栄養症。訳註:組織の栄養欠乏から生じる進行性の変化)が生じ、老化と死期を早めるのである。チェルノブイリ事故前(1984年、1985年)の、ルギヌイ地区の平均寿命は75歳であったが、事故後(1990-1996年)は65歳になっている。
表8 第3期-第4期の胃ガンと肺ガン患者の診断後余命
(チェルノブイリ事故の前と後)
年 | 診断後余命 | |
胃ガン | 肺ガン | |
1984 | 62 | 38 |
1985 | 57 | 42 |
- | - | - |
1992 | 15.5 | 8.0 |
1983 | 1 | 5.6 |
1994 | 7.5 | 7.6 |
1995 | 7.2 | 5.2 |
1996 | 2.3 | 2.0 |
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。