「アメリカ戦時情報局心理作戦班 日本人捕虜尋問報告 第49号」については、すでに『検証「従軍慰安婦」と「 日本人捕虜尋問報告 第49号」』や『「従軍慰安婦」問題 秦郁彦教授の論述に対する疑問』の中で、これを「従軍慰安婦」の証言として利用することにはとても問題があるということを、具体的にその形式や内容と関連づけて指摘した。
秦郁彦氏は、「慰安婦」を「性奴隷」などと表現するのは間違いで、「慰安婦」は、「合法的存在だった公娼制の慣行にならったものだった」と指摘し、「慰安婦」には「相手を拒否する自由」「廃業の自由」「外出の自由」があった証拠資料として、これをあげている。また、多くの人たちが同じようなかたちでこの資料を利用し、「慰安婦は公娼だった」「慰安婦は商行為を行っていたのである」「従軍慰安婦など存在しない」などと主張し、「教科書から慰安婦問題の記述を削除せよ」などという活動を展開してきた。しかし、この資料を、そうしたかたちで利用することはできない、と考える。
なぜなら、この資料には情報提供者不明という 大きな欠陥があるからである。尋問を受けたのは20人の朝鮮人「慰安婦」と日本人民間人2人であるが、この報告書のすべての項目が、朝鮮人「慰安婦」の証言か、日本の民間人(業者)の証言か、不明なのである。そして、その大部分が、その内容からして日本の民間人(業者)の証言ではないかと考えられるのである。したがって、これを「従軍慰安婦」の証言として、利用することは間違いであると考えるのである。
朝鮮人「慰安婦」の生活や労働条件等について、日本の民間人(業者)が、詳しく正確なことを話すとは考えにくい。軍の監督下にあり従属的であったとはいえ、朝鮮人「慰安婦」の立場からみれば、日本の民間人(業者)も加害者側といえる。性交渉を強要された朝鮮人「慰安婦」の証言の中には、軍人はもちろん、「経営者にぶたれるのではないかといつも身をちぢこませて」いなければならなかった(李容洙)というような証言(「従軍慰安婦」吉見義明<岩波新書>)があるのである。
さらに、人身売買により、女性を「慰安婦」として拘束し、「相手を拒否する自由」、「廃業の自由」、「外出の自由」などを認めないことは、国際法違反で罰せられる可能性がある。日本の民間人(業者)が、そうした事実を自ら認めるとは考えにくい。日本の民間人(業者)が、尋問官に対し、責任逃れの証言をした可能性が高いのである。したがって、報告の内容が「朝鮮人慰安婦」の証言に基づくものか、それとも日本の民間人(業者)の証言に基づくものかが分からないこの資料を、「朝鮮人慰安婦」の証言に基づくものと勝手に判断し、秦郁彦氏のように「第3者の立場で観察した唯一の公文書であるだけに、その資料的価値は高く…」など言って利用することは、許されないのではないかと思う。
「日本人捕虜尋問報告 第49号」の次に『従軍慰安婦資料集』吉見義明(大月書店)に収められている、「東南アジア翻訳センター 心理戦 尋問報告 第2号」では、「それぞれの項目に対して付された整理番号は情報提供者を示す」とある。センターの尋問官、アメリカ陸軍歩兵大佐アレンダー・スウィフトは、だれが話したかを明らかにしているのである。また「正確を期すために十全の努力が払われているが、この報告のなかの情報は、他の諸情報によって確証されるまでは控え目に評価されるべきである」とも記している。ところが、「第49号」の報告は、そうした配慮や慎重さがない。
また、この報告書には何の記述もないが、「日本人捕虜尋問報告 第49号」の内容に関わって、尋問が何語でなされたか、ということも重要な問題だと考えられる。
なぜなら、あのビルマで、韓国人慰安婦を捕虜とした米軍部隊の指揮をしていた中国系米人、Won.Loy Chan 大尉の“Burma: The Untold Story”には、朝鮮人慰安婦は、日本語がカタコトで、「尋問報告第49号」作成者の日本人二世(通訳・軍曹)「アレックス・ヨリチ」氏と直接話すことは、ほとんどできなかった可能性を示唆する、下記のような記述があるからである。
「慰安婦」に対しての尋問は、朝鮮語を話せた日本の民間人(業者)、ママさん(Mama-san)を介して行うしかなかったため、報告書全体が、罰せられることを恐れる日本の民間人(業者)の責任逃れの内容となっているのではないかということである。
また、「慰安婦」に直接尋問できなかった報告者は、日本の民間人(業者)が話すことを、自分なりにまとめるしかなかったために、情報提供者を明示できなかった、と考えられるのである。したがって、「第3者の立場で観察した唯一の公文書であるだけに、その資料的価値は高く…」などと言えるものではない、と考えるのである。
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Won-loy Chan "Burma: The Untold Story
(http://ianhu.g.hatena.ne.jp/Stiffmuscle/20080514/p1)
・・・
Each platoon-sized group was commanded by Mama-san, usually a middle-aged Japanese woman who spoke Korean. When the girls weren't engaged in their primary occupational specialty or were ill, they acted as the washerwomen and barracks maids in the troop rest areas.
・・・
I had with me a number of photographs of Japanese officers who were supposed to be commanders of units of the 18th and 56th divisions that I showed to the girls, which Grant asked them to identify in his fluent Japanese. The girls (Koreans all) spoke some Japanese, but it was of the bedroom and kitchen variety and extremely limited. When you added that to their confusion, fear, and general lack of education, the answers they gave weren't worth much. They mumbled in mish-mash of Korean and Japanese in answer to the questions, but one of them did finally identify a photo of Colonel Maruyama as commander of the 114th Regiment. (I got the impression that the young woman who made the identification had known the good Colonel Maruyama very well indeed!)
Aside from that we got nothing of value. We had reached an impasse with the girls looking at us and us looking at them. After some hesitation, one of the girls spoke to the Mama-san and the next thing we knew all the girls were chattering hysterically. The old Mama-san listened and then told the girls to be quiet. She looked at all four of us and then approached me. (She also obviously recognized rank when she saw it.) She looked around again, and this time included Grant in her look. (She also obviously recognized who spoke the best Japanese in the group.) Then, looking at me she spoke to Grant. She asked if the girls could be permitted to know their fate. I instructed Grant to tell her that confinement was only temporary. That just as soon as possibly they would be sent to India (I doubted if any of them knew where India was) and eventually back to Korea. Grant spoke in his best Japanese. The Mama-san translated to Korean.
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を示します。
秦郁彦氏は、「慰安婦」を「性奴隷」などと表現するのは間違いで、「慰安婦」は、「合法的存在だった公娼制の慣行にならったものだった」と指摘し、「慰安婦」には「相手を拒否する自由」「廃業の自由」「外出の自由」があった証拠資料として、これをあげている。また、多くの人たちが同じようなかたちでこの資料を利用し、「慰安婦は公娼だった」「慰安婦は商行為を行っていたのである」「従軍慰安婦など存在しない」などと主張し、「教科書から慰安婦問題の記述を削除せよ」などという活動を展開してきた。しかし、この資料を、そうしたかたちで利用することはできない、と考える。
なぜなら、この資料には情報提供者不明という 大きな欠陥があるからである。尋問を受けたのは20人の朝鮮人「慰安婦」と日本人民間人2人であるが、この報告書のすべての項目が、朝鮮人「慰安婦」の証言か、日本の民間人(業者)の証言か、不明なのである。そして、その大部分が、その内容からして日本の民間人(業者)の証言ではないかと考えられるのである。したがって、これを「従軍慰安婦」の証言として、利用することは間違いであると考えるのである。
朝鮮人「慰安婦」の生活や労働条件等について、日本の民間人(業者)が、詳しく正確なことを話すとは考えにくい。軍の監督下にあり従属的であったとはいえ、朝鮮人「慰安婦」の立場からみれば、日本の民間人(業者)も加害者側といえる。性交渉を強要された朝鮮人「慰安婦」の証言の中には、軍人はもちろん、「経営者にぶたれるのではないかといつも身をちぢこませて」いなければならなかった(李容洙)というような証言(「従軍慰安婦」吉見義明<岩波新書>)があるのである。
さらに、人身売買により、女性を「慰安婦」として拘束し、「相手を拒否する自由」、「廃業の自由」、「外出の自由」などを認めないことは、国際法違反で罰せられる可能性がある。日本の民間人(業者)が、そうした事実を自ら認めるとは考えにくい。日本の民間人(業者)が、尋問官に対し、責任逃れの証言をした可能性が高いのである。したがって、報告の内容が「朝鮮人慰安婦」の証言に基づくものか、それとも日本の民間人(業者)の証言に基づくものかが分からないこの資料を、「朝鮮人慰安婦」の証言に基づくものと勝手に判断し、秦郁彦氏のように「第3者の立場で観察した唯一の公文書であるだけに、その資料的価値は高く…」など言って利用することは、許されないのではないかと思う。
「日本人捕虜尋問報告 第49号」の次に『従軍慰安婦資料集』吉見義明(大月書店)に収められている、「東南アジア翻訳センター 心理戦 尋問報告 第2号」では、「それぞれの項目に対して付された整理番号は情報提供者を示す」とある。センターの尋問官、アメリカ陸軍歩兵大佐アレンダー・スウィフトは、だれが話したかを明らかにしているのである。また「正確を期すために十全の努力が払われているが、この報告のなかの情報は、他の諸情報によって確証されるまでは控え目に評価されるべきである」とも記している。ところが、「第49号」の報告は、そうした配慮や慎重さがない。
また、この報告書には何の記述もないが、「日本人捕虜尋問報告 第49号」の内容に関わって、尋問が何語でなされたか、ということも重要な問題だと考えられる。
なぜなら、あのビルマで、韓国人慰安婦を捕虜とした米軍部隊の指揮をしていた中国系米人、Won.Loy Chan 大尉の“Burma: The Untold Story”には、朝鮮人慰安婦は、日本語がカタコトで、「尋問報告第49号」作成者の日本人二世(通訳・軍曹)「アレックス・ヨリチ」氏と直接話すことは、ほとんどできなかった可能性を示唆する、下記のような記述があるからである。
「慰安婦」に対しての尋問は、朝鮮語を話せた日本の民間人(業者)、ママさん(Mama-san)を介して行うしかなかったため、報告書全体が、罰せられることを恐れる日本の民間人(業者)の責任逃れの内容となっているのではないかということである。
また、「慰安婦」に直接尋問できなかった報告者は、日本の民間人(業者)が話すことを、自分なりにまとめるしかなかったために、情報提供者を明示できなかった、と考えられるのである。したがって、「第3者の立場で観察した唯一の公文書であるだけに、その資料的価値は高く…」などと言えるものではない、と考えるのである。
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Won-loy Chan "Burma: The Untold Story
(http://ianhu.g.hatena.ne.jp/Stiffmuscle/20080514/p1)
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Each platoon-sized group was commanded by Mama-san, usually a middle-aged Japanese woman who spoke Korean. When the girls weren't engaged in their primary occupational specialty or were ill, they acted as the washerwomen and barracks maids in the troop rest areas.
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I had with me a number of photographs of Japanese officers who were supposed to be commanders of units of the 18th and 56th divisions that I showed to the girls, which Grant asked them to identify in his fluent Japanese. The girls (Koreans all) spoke some Japanese, but it was of the bedroom and kitchen variety and extremely limited. When you added that to their confusion, fear, and general lack of education, the answers they gave weren't worth much. They mumbled in mish-mash of Korean and Japanese in answer to the questions, but one of them did finally identify a photo of Colonel Maruyama as commander of the 114th Regiment. (I got the impression that the young woman who made the identification had known the good Colonel Maruyama very well indeed!)
Aside from that we got nothing of value. We had reached an impasse with the girls looking at us and us looking at them. After some hesitation, one of the girls spoke to the Mama-san and the next thing we knew all the girls were chattering hysterically. The old Mama-san listened and then told the girls to be quiet. She looked at all four of us and then approached me. (She also obviously recognized rank when she saw it.) She looked around again, and this time included Grant in her look. (She also obviously recognized who spoke the best Japanese in the group.) Then, looking at me she spoke to Grant. She asked if the girls could be permitted to know their fate. I instructed Grant to tell her that confinement was only temporary. That just as soon as possibly they would be sent to India (I doubted if any of them knew where India was) and eventually back to Korea. Grant spoke in his best Japanese. The Mama-san translated to Korean.
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落全体の省略を示します。