今回は、「イラク戦争を検証するための20の論点」イラク戦争の検証をもとめるネットワーク編(合同出版)から、「検証05 イラク戦争は国連憲章に違反しているか」を抜萃しました。
2003~2011年のイラク戦争によって、イラクではおよそ50万人にのぼる人びとの命が奪われたといわれます。
そして、その戦争について、当時のフィ・アナン国連事務総長は、BBCのインタビューに答えて、「イラク侵攻は、国連安全保障理事会によって承認されておらず、国連憲章にもしたがっていない」(04年9月16日)、と述べているのです。
また、 9・11以後のアメリカの考え方であるという、「先制的自衛権」という言葉も見逃すことができません。現在問題になっている日本の「敵基地攻撃能力」も、その「先制的自衛権」の考え方からきているのだろうと思います。国連憲章に反する考え方であることを見逃してはならないと思います。
また、アメリカが台湾に大量の武器を売却したり、アジア諸国に軍事同盟の強化を働きかけたりしていることも、対中戦争の準備であり、”すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない”という国連憲章に反することだと思います。
平和な世界は、法を蔑ろにしてはつくれないと思います。
プーチン大統領は、2023年2月21日年次教書演説で、下記のように語っています(Sputnik 日本)
”・・・、ウクライナの装甲車にはナチスドイツの時のドイツ国防軍の記章が描かれている。
ネオナチは、自分たちが誰の後継者であるかということを隠そうとしていない。驚いたことに、西側諸国の権力者は誰もこのことに気づかない。なぜか? それは、彼らにとってはどうでもいいからだ。我々との戦い、ロシアとの戦いにおいて誰に賭けるかはどうでもいい。主な目的は我々と戦わせること、我々の国と戦わせることだから、どんな人間を利用してもいい。事実そうであることを我々は見てきたではないか。テロリスト、ネオナチ、はげ頭の悪魔でさえ(神よ、許したまえ)、自分たちの言いなりになり、ロシアに対する武器になるのであれば、何でも利用することができる。
「反露」プロジェクトは、本質的に、わが国に対する復讐主義的政策の一環であり、わが国の国境のすぐ近くに不安定と紛争の温床を作り出そうとするものだ。1930年代の当時も今も、東方へ攻撃を仕掛け、欧州において戦争を煽り、他人の手で競争相手を排除しようという、その企みは変わらない。
我々はウクライナ国民と戦争しているわけではない。このことは今まで何度も言ってきた。ウクライナの国民は、キエフ政権とその西側の支配者らの人質となった。西側は事実上、この国を政治的、軍事的、経済的に占領し、数十年にわたってウクライナの産業を破壊し、その天然資源を略奪した。その論理的帰結が社会の退廃、貧困と不平等の爆発的な増加だ。そして、そのような状況では当然ながら、戦闘行為のための材料集めなど容易く(タヤスク)できる。人々のことなど誰も考えず、人間を破滅のために準備し、最後は消耗品にしてしまった。痛ましく、語るのも恐ろしいことだが、これは事実である。
ウクライナ紛争を煽り、拡大させ、犠牲者を増やした責任は、すべて西側エリート、そしてもちろん、キエフの現政権にある。この政権にとってはウクライナ国民は本質的に他人だ。ウクライナの現政権は自国の国益のためではなく、第三国の利益のために奉仕している。
西側諸国はウクライナをロシアを攻撃するための破城槌(ハジョウツイ)として、射撃場として利用している。私は今、戦況を変え、軍事供給を増やそうとする西側諸国の計画についてあれこれ言うつもりはない。だが、次の状況は万人に理解できるはずだ。西側の長距離戦闘システムがウクライナに供与されればされるほど、我々はその脅威をロシアの国境から遠ざけざるをえなくなる。それは当然だ。
西側のエリートは自分たちの目標を隠そうともしていない。彼らははっきりと「ロシアに戦略的敗北」を与えるのが目標だと言っている。これはどういうことか。我々にとって、それは何を意味するのだろうか。これはつまり、我々とさっさと、永遠に決着をつけるということだ。つまり、彼らは局所的な紛争を世界的な対立の局面に転化させるつもりなのだ。我々はすべてをまさにこのように理解しており、相応の方法で対処していく。なぜならば、この場合、話はすでに我々の国の存続に関わるからだ。・・・”
私は、このような年次教書演説におけるプーチン大統領の主張を、どのように受け止め、どのように対処すべきか、という専門家の話や解説を聞いたことがありません。それをすると、ロシアを悪とし、プーチン大統領を悪魔のような独裁者とする西側諸国のプロパガンダが、揺らぐことになるからではないか、と想像します。
いわゆるマイダン革命で重要な役割を担ったといわれる、キーウ(キエフ)のクリチコ市長は、先日、”ロシアの若い兵士が次々と死んでいっているのは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の野望のために過ぎない”と、BBCに話したことが報道されました。
彼は、元ボクシングWBC・WBO世界ヘビー級チャンピオンで、今も多くのファンをもっているそうですが、私は、ロシアをヨーロッパ諸国から切り離し、孤立させ、弱体化するために、アメリカによって、彼がうまく利用されているように思います。
ウクライナ戦争が、”プーチンの野望”によるものだというクリチコ市長のような主張を無批判に受け入れ、ウクライナにおける戦争の経緯や背景を考えたり、また、アメリカを中心とする西側諸国の過去の戦争の事実をふり返ったりすることなく、ウクライナ戦争をとらえることは、平和を遠ざけることにつながると思います。
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第1章 イラク戦争を検証するための20の論点
検証05 イラク戦争は国連憲章に違反しているか
フィ・アナン国連事務総長(当時)は、BBCのインタビューに答えて、「イラク侵攻は、国連安全保障理事会によって承認されておらず、国連憲章にもしたがっていない」と述べました(04年9月16日)。
国連憲章第2条は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立にたいするものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも謹まなければならない」として、武力行使を原則禁止しています。
しかし、武力行使が認められる例外が2つだけあります。
① 武力攻撃が発生したばあいに安保理が必要な措置をとるまでのあいだ、国家にみとめられる個別的または集団的な自衛権の行使(国連憲章第51条)
② 平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対する集団的措置として安保理が決定する行動(国連憲章第42条)の2つです。
9・11以後アメリカが主張したのは、先制的自衛権です。攻撃されてからではなく、やられる前にやってしまえ、という考え方ですが、国連憲章の51条の自衛権の行使にあたるのかといえば、イラクが大量破壊兵器をもたず、9・11のテロとも関係なかったわけですから、単なる先制攻撃というべきでしょう。
すると国連憲章42条の、イラク攻撃が安保理で決議されたかがポイントになります。
イラク攻撃に関する安保理の決議案には、678号、687号、1441号があります。以下に内容をまとめてみました。
国連安保理決議678号:90年採択。クウェートを侵攻したイラクに対して、アメリカを中心とする多国籍軍に「あらゆる措置」をとる権限をあたえたもの。
国連安保理決議687号:91年採択。イラクに対して、国際機関による監視のもと、大量破壊兵器や運搬用ミサイルなどの破壊あるいは撤去することを求めたもの。
国連安保理決議1441号:02年11月採択。イラクは安保理決議687号に違反していると断定。イラク対して、大量破壊兵器や弾道ミサイルの検証可能な破壊あるいは撤去しないと「深刻な結果」をもたらすと通告。
「深刻な結果」はかならずしも武力行使をさすわけではなく、新たな決議案を採択する必要がありましたが、イラクは全面的に1441号を受け入れ、02年11月末には国連による査察が再開されました。中国、ロシア、フランスの常任理事国3ヶ国が、アメリカがイラク攻撃容認の新たな決議案を出しても拒否権を発動することを明らかにしたために、ブッシュ大統領は、新たな決議案なしに、「678および687は、アメリカと同盟国が、イラクの大量破壊兵器を廃棄するために武力行使することを承認している」として、有志連合での攻撃を決めてしまいました。
03年3月18日、開戦直前の演説で、ブッシュ大統領は、「安保理の常任理事国のいくつかは、イラクの武装解除を強制するいかなる決議案にも拒否権を発動する、と公式に表明してきた。それらの国々は、われわれと危機についての認識を共有してはいるが、それに対峙する決意を有していない。しかし、多くの国は平和に対する脅威に立ち向かう強い決意をもっている。国際社会の正当な要求を達成するための、広範な連合が形成されつつある。国連安保理はその責務を果たしていない。だからこそアメリカが立ち上がるのだ」と述べ、安保理を非難しました、