真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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イラク戦争、元国際原子力機関事務局長の証言

2023年03月15日 | 国際・政治

 「イラク戦争を検証するための20の論点」イラク戦争の検証をもとめるネットワーク編(合同出版)は、いろいろな角度からイラク戦争をとらえて書かれていますが、アメリカの犯罪的と言える数々の指摘に、間違いはないと思います。
 アメリカは、イラクが大量破壊兵器を持っていると主張し続けていましたが、02年から03年まで700回、500ケ所の査察をくり返していたという当時の国際原子力機関事務局長・ハンス・ブリクス氏は、その『証拠』が、まったくお粗末なものであったと言っているのです。
 だから私は、ハンス・ブリクス氏の下記の証言が、イラク戦争が、実は、アメリカの覇権と利益のためであり、大量破壊兵器の存在は、単なる口実であった可能性が大きいことを示しているように思います。

 私は、そうしたことを踏まえて、ウクライナ戦争や台湾有事の問題を考える必要があると思います。
 イランとサウジアラビアが、中国の仲介で外交関係を正常化したことを受けて行われた会見で、アメリカ国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官は「イランが本当に合意を守るかまだわからない。イランは通常、約束を守るような政権ではない」などと述べ、”中東でアメリカの存在感が低下しているのではないか”という指摘に対しては、「我々が中東で後退しているという考え方には断固として反対する」と語気を強めたといいます。そして、「我々は、中国が自分たちの利己的な利益のために、世界中で影響力と足場を得ようとするのを見続けてきた」と主張したといいます(朝日新聞、3月11日夕刊)。
 でも私は、利己的なのはアメリカであり、イランに対しても、中国に対しても、敵対的だと思います。また、イラクに対しても、ロシアに対しても敵対的であったと思います。話し合いで合意を得ようと努力せず、強力な軍事力や経済力を背景に、一方的に制裁を課し、最終的には武力行使に至っています。

 バイデン米大統領は3月9日、2024会計年度(23年10月~24年9月)の予算編成方針を示す予算教書を発表したとのことですが、それによると、アメリカの国防予算は、前年度比3・3%増の8864億ドル(約121兆円)だといいます。驚くべき金額ですが、その理由は「中国に打ち勝つ重要な投資と、侵略を受けるウクライナ支援の継続」だとのことです。でも私は、”侵略を受けるウクライナ支援の継続”は、実は、ロシアを孤立させ、弱体化させるという、アメリカの目的達成のための支援の継続だと思います。
 また、バイデン大統領は、同日の演説で、国内産業の強化に向けた研究開発能力に触れ、「米国が世界を再びリードするための資金を提供する」と述べ、中国に技術力で打ち勝つ姿勢を示したとのことです。
 アメリカは、中国やロシアが、アメリカを超える力をもつことを受け入れらないのだろうと思います。だから、台湾有事が心配なのです。
 
 台湾の蔡総統が、4月に中米訪問の途中に訪米し、マッカーシー米下院議長(共和党)と西部カリフォルニア州で会談するとの計画が報じられています。対中戦争準備の会談ではないかと心配です。
 朝日新聞は、この件に関し、
ウクライナ侵攻への関与の仕方を巡って台湾世論に広がっている米国への不信感をおさめるため、台米関係の強さをアピールする狙いがある。また、来年1月に控える総統選を見据え、後継者とみなす頼清徳(ライチント)副総統に対する内外の支持を固めたい考えもあるとみられる。
 と報じています。
 もしそれが事実なら、私はそれは内政干渉に当たるだろうと思います。でも、アメリカはいつも、アメリカの覇権と利益のために他国の内政に干渉してきたので、問題があるとは考えていないような気がします。

 中国は、蔡総統の訪米に関し、「『一つの中国』原則に違反し、『台湾独立』の分裂分子といかなる形であれ接触することに断固として反対する」と強く反発したといいます。
 習氏は、先日の党大会の党活動報告で、”最大の誠意と最大の努力を尽くし、平和的統一の未来を勝ち取る”と語ったということですが、”外部勢力の干渉と、ごく少数の“台独”分裂勢力に対しては、武力行使の放棄を約束しない”と語り、強い姿勢を明らかにしています。

 それは、蔡総統が、「我々はすでに独立国家であり、独立を宣言する必要はない」などとくり返す、いわゆる「反中」の”台湾独立分裂分子”であり、また、背後で、”我々は台湾が独立するのを奨励していないが、(独立するかどうかは)彼らが自ら決めることだ”などいうバイデン政権が動いているからだと思います。
 中国は、アメリカが ”我々は台湾が独立するのを奨励していない”と言いながら、実際は、大量の武器を売り込み、蔡総統を支援して、独立を後押しするような干渉を続けていることが受け入れられないのだろうと思います。

 台湾有事で見逃してはならないことは、台湾の多くの人たち(86.5%:行政院大陸委員会調査)が、どちらかといえば現状維持派で、中国と争ってまで、独立を求めてはいないということです。だから、アメリカの内政干渉ともいえる台湾に対するさまざまな関与は、アメリカの覇権と利益のためであると思います。台湾の人たちの思いを受け止めたものではないということです。

 もし、来年1月に控える総統選で、反中的な民進党が、親中的な国民党に敗れると、アメリカの台湾関与が難しくなり、台湾有事の可能性が少なくなる一方で、尖閣諸島をめぐる日中の対立に、アメリカが本格的に関与してくる可能性が高まるのではないかと心配です。

 ウクライナ戦争が始まって以降、台湾では「今日のウクライナは、明日の台湾」という言葉が広がったといいます。
 また、米インド太平洋軍司令官やCIA長官が、中国の台湾侵攻を予言したり、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、2026年に中国が台湾に侵攻するという設定で軍事シミュレーションを行っていることが報道されていますが、台湾では今、多くのメディアが、そうしたことを取り上げ、「台湾は世界で最も危険な場所」とまで表現するようになっているといいます。そして、ウクライナ戦争の成り行きから「アメリカは台湾を見捨てるのではないか」という不安が広がっているということです。

 だからでしょうが、2023年2月の台湾民意基金会による世論調査によると、政党支持率は、民進党26.9%に対し国民党27.1%と、野党国民党が上回ったということです。政権交代の可能性が高まっているということだと思います。
 それは、尖閣有事が近づいていることを示しているのではないかと思います。日本も賢い選択をしなければ危ないと思います。 
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               第2章 証言・イラク戦争は間違いだった
             
ハンス・ブリクス:1928年スウェーデン・ウプサラ生れ。元国際原子力機関事務局長((UNMOVIC)委員長在任時のイラクでの査察活動が国際的な注目を集めた。著書に「イラク大量破壊兵器査察の真実」(DHC出版)

 イラクへの攻撃は国連憲章に違反している
 国会で話すことができて幸いです。日本には何度も来ていますが、国会で話すのは初めてです。
さて、まず申し上げたいのは、イラクへの攻撃は国連憲章に違反している、ということです。
 当時戦争を遂行する側には、「合法」とせざるを得なかった人もいるでしょうが、それは少数派です。私を含め90%の国際法の専門家は「違法」と判断するでしょう。実際、イギリスの政策担当者のなかには、戦争に抗議、辞任した人もいます。現在、私は核兵器の拡散防止に取り組んでいます。イランでの核開発が問題となっていますが、仮に国連安保理でイラン攻撃が提案されたとしても、誰も賛成しないでしょう。それはイラクでの経験があるからです。イラク戦争は、国連憲章で認められる自衛のための戦争でも、安保理決議による戦争でもありませんでした。

 開戦前のイラクはほんとうに脅威だったのか?
 開戦前の02年から03年当時、イラクは国際社会にとって差し迫った脅威では、まったくありませんでした。また、脅威が増大しているということもありませんでした。(イギリス検証委員会での証言で)ブレア首相は「イラクが大量破壊兵器を開発する危険を放っておけなかった」語りましたがと、(90年のフセイン政権による隣国クウェートへの侵攻いらいの)10年余りの経済制裁のなかでイラクが破壊されつくしたことは、国際社会も知っているはずです。
 私は、81年から97年までIAEA(国際原子力機関)の事務局長を務めましたが、イラクには核兵器もなく、それを作る能力ももっていませんでした。イラク戦争の開戦当時、米国などの国々が訴えていた「イラクが大量破壊兵器の査察に協力しなかった」との主張にも異論があります。イラクは査察を喜んで受け入れた訳ではないですが、まったく妨害しませんでした。私たちは、02年から03年まで700回、500ケ所を査察してきました。そして大量破壊兵器はありませんでした。米国がイラクで大量破壊兵器を持っていると主張し続けましたが、その『証拠』は、まったくお粗末なものでした。
私たちはアメリカとイギリスに『あなた方は大量破壊兵器があると確信しているようだが、それはどこにあるのか。もし教えてくれれば、そこに査察に行きましょう』と言いました。彼らは100ケ所くらいを教えてくれ、私たちは30ケ所を査察しましたが、通常兵器や書類は発見したものの、大量破壊兵器はありませんでした。この時点で自分たちのもっている情報源がいかに精度の低い、信頼できないものであることに、アメリカ・イギリス両国は気づくべきだったでしょう。結局、100ケ所全部を査察する前に戦争が始まってしまいました。
 アメリカが主張する『証拠』には明らかに捏造された嘘も、いくつかありました。「イラクが核兵器の開発をしている証拠」として提出した、アフリカのニジェールからイラクがウランを輸入したという書類も偽造でした。この書類が偽造されたものであると、IAEAが気づくまで、1日もかかりませんでした。この偽造とわかっている書類を、当時のブッシュ大統領は米国内の演説で、あたかも証拠であるかのように取り上げたのです。

 イラク戦争は回避できる戦争だった
 私は、イラク戦争は回避できた戦争だったと思います。
 フセイン政権と国際テロ組織アルカイダとの関係についての情報も間違いでした。『民主主義』をもたらすと言っていましたが、7年にわたる無政府状態をつくり出しただけでした。アメリカにとってはイスラエルを助けるという口実もあったのでしょうが、実際には、より強大なイランとイスラエルは対峙せざるを得なくなりました。つまり、国際法上、イラク戦争は違法かどうかの法的な解釈とは別に、戦争の結果だけを見ても、この戦争を正当化できません。戦争の結果としてどれほど多くの人の死や破壊をもたらし、人びとは深い悲しみにくれたかは言うまでもありません。
 私はイギリスやオランダで検証が進んでいることをたいへん歓迎しています。それは過去のことだけでなく、私たちが国際社会のなかでいつ武力行使を認めるかどうかにかかわることだからです。もし日本での検証で私の証言が必要とされるなら、断る理由はありません。
                      (2010年4月の参議院議員会館での講演より)

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