このところ、毎日、イスラエルの爆撃によるガザの悲惨な様子が、いろいろなメディアで伝えられています。
大勢の子どもや女性を殺害するという戦争犯罪をくり返しているにもかかわらず、イスラエルに対する制裁やあらゆる組織からのユダヤ人の追放、関係者に対する逮捕状の話は皆無です。
ウクライナ戦争における国際社会のロシアに対する対応とのあまりの違いに驚きます。即時停戦を求める声も、イスラエルの背後にイスラエルを支援するアメリカがあるからか、大きくなりません。
それは、パレスチナ問題に対する欧米の関わりの矛盾、いわゆる”西欧の二重基準”の結果だろうと思います。
イスラエルの建国以降、アラブやイスラム諸国で「西欧の二重基準(double standard)」という言葉が使われるようになったということを、以前に取り上げましたが、イギリスの「二枚舌外交」が、パレスチナ問題をつくりだしたと言えるからでした。
ふり返れば、イギリスは1915年フサイン=マクマホン協定(Hussein-McMahon agreement)で、対トルコ戦の協力(アラブ反乱)を条件に、オスマン帝国の支配下にあったアラブ地域の独立を約束し、アラブ人のパレスチナでの居住を認めたのです。
にもかかわらず、イギリス政府は、1917年、イギリスのユダヤ系貴族院議員であるロスチャイルド男爵(ウォルター・ロスチャイルド)に対して送った書簡、いわゆる「バルフォア宣言」で、イスラエル建国支持を表明しているのです。
だから、イギリスの「二枚舌外交」が、パレスチナ問題をつくりだしたといわれるのです(サイクス・ピコ協定も含めて三枚舌外交ともいわれます)。
パレスチナ人やアラブ諸国にしてみれば、ヨーロッパのユダヤ人に対するホロコーストの罪の償いを、自分達がさせられているとんでもない尻拭いだというわけです。そして、それをイギリスの「二枚舌外交」から始まった”西欧の二重基準”だといって怒っているのですが、ウクライナ戦争におけるロシアに対する制裁や、あらゆる組織からのロシア人の追放などという対応と、今回のイスラエルのガザ爆撃による民間人殺害という戦争犯罪に対する対応も、明らかに”西欧の二重基準”といえるものだと思います。
そして、イスラエル建国以来、今回と同じようなイスラエルによるパレスチナイン人の殺害行為が、過去何度もくり返されてきたことを見逃してはならないと思います。
下記の「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)からの抜萃文にあるように、イスラエル軍が圧倒的に優位な立場で、多くのパレスチナ人を殺害し、パレスチナのハマスがそれに武力で抵抗をする構造は、”世界の構造的不正は何も是正されていないからである”ということを示しているのだと思います。
関連して、国際情勢の変化も気になります。
今年8月、BRICS首脳会議で、南アフリカ共和国のラマポーザ大統領が、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国がBRICSに新規加盟することを発表したばかりでしたが、南米の大国、アルゼンチンの大統領選挙の決選投票の結果、米ドルを自国通貨として導入する「ドル化」の政策を主張する親米・極右のハビエル・ミレイ下院議員が、中道左派与党連合のセルヒオ・マサ経済相(51)を破り、当選を確実にしたとの報道がありました。
アルゼンチンは、中国との関係を深め、2024年1月1日からBRICSに正式加盟することが決定していたのに、今回の大統領選挙の結果、それを取り消す動きになっています。
私は、選挙による政権交代とはいえ、世界中でアメリカ離れがすすみ、覇権と利益の維持が危うくなっているアメリカの関わりが気になります。
メキシコの左派ロペスオブラドール大統領をはじめ、ボリビアやベネズエラ、コロンビアなどの大統領が、”ミレイ氏の勝利を嘆いた”と報道されています。やはり、その影響が大きいことを示しているのではないかと思います。
ハビエル・ミレイ氏は、経済学者で、アルゼンチン国内や海外各地で講演を行い、50以上の学術論文を執筆しているということですが、その経歴や主張には、気になることがいろいろあります。
ミレイ氏は、アルゼンチンの政治構造は「役に立たない、寄生的な人々で構成されている」いったり、「アルベルト・フェルナンデス政権は国民に課せられた税金によって資金を賄う犯罪組織である。絶対にフェルナンデス政権から金を奪還しなければならない」となどと、選挙活動で極端なことを言って人気を 集めたようです。
また、8月に行われた大統領予備選挙では、銃規制撤廃や臓器売買の自由販売を許可すると示唆したともいいます。さらに、2020年に承認されたアルゼンチン国内での中絶を容認する自主中絶法案を却下させるつもりだとも述べたといいます。だから、「アルゼンチンのトランプ」という異名をもつといいますが、ハビエル・ミレイ氏が大統領に就任して、親米的な諸政策を実施すれば、さまざまな問題やトラブルが発生し、反政府運動が出てくるのではないか、と私は思います。
世界の流れに逆行しているからです。
そういう意味で、今、「イスラームに何がおきているのか」小杉泰編(平凡社)の、下記のような記述を読むことは、世界情勢の深層をとらえるために、意味深いと思います。
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Ⅴ 「アメリカ同時多発事件」への視座
岐路に立つイスラーム世界
<世界>はムスリム虐殺に沈黙するのか?
繰り返される歴史
なぜこのようなパレスチナの大義を振りかざす歴史は繰り返されるのか? 湾岸戦争以来、世界の構造的不正は何も是正されていないからである。パレスチナ問題がその象徴である。そもそも自爆テロをパレスチナ解放の正当な手段として行使してきたのはパレスチナ人であった。そのパレスチナ人が最初に同時テロの犯人として槍玉に挙げられたのも、これまでの歴史から見れば偶然ではない。中東イスラーム世界に無知な日本の首相が公式に否定したところで、今回の事件の遠因にパレスチナ問題があったというのは、多くの識者の指摘するところである。
悲劇の始まりは、2000年9月28日に勃発したアル・アクサー・インティファーダであり、そしてこのパレスチナ人蜂起の直接的原因を作り出したアリエル・シャロン首相の誕生であった。シャロンはイスラームの聖地の主権を主張して、事件の約一年前の9月28日にアル・アクサーモスクを訪問するという政治的な挑発を行ない、彼の思惑通りにパレスチナ人蜂起を起こして、和平交渉のわずかな望みの可能性の芽を摘み取ってしまった。シャロンというドブ板政治家は、1982年6月のレバノン戦争でイスラエル軍が西ベイルートを包囲したとき、当時のイスラエル国防大臣として、キリスト教徒民兵がパレスチナ難民キャンプに入るのを黙認し、サブラー・シャティラー難民キャンプの虐殺事件を引き起こした責任を負っている。そればかりではなく、その後もリクード党員としてパレスチナとの和平を阻止し続け、首相になってからもアラファートPLO議長を「テロリスト」と呼び続けるような人物であった。
シャロンは首相雄に就任してから、パレスチナは事実上の戦争状態に突入した。シャロンはパレスチナ自治区に戦車を送り込み、彼がテロリストと断罪したパレスチナ人要人を容赦なく暗殺した。
シーア派イスラーム主義組織ヒズブッラーの影響がレバノンからガザにも浸透していることや、かつての左翼「テロ組織」PFLPの指導者のテロへの関与を理由に、パレスチナ人指導者の乗った自動車や隠れていると名指しした建物に対して、イスラエル軍はヘリコプターから平然とミサイル打ち込んだ。それこそイスラエルという主権国家は、非国家主体であるパレスチナ自治政府やその住民に対して武力を一方的に行使する権利があるといわんばかりに、安全保障という名目としてはあまりに過剰な攻撃をパレスチナ人に対して行ってきた。だからこそ、イスラエルのやってることは「国家テロ」だと糾弾されるのである。
もちろん、多発テロ事件をイスラエル/パレスチナの要因にのみ還元するのはいささか拙速すぎる。しかし、ビン・ラーディンらの脳裏からパレスチナの悲劇が離れないことだけは確かである。アメリカを新十字軍、そしてイスラエルをその同盟者として位置づけていることにもその一端は表われている。それは正当化のためだけの屁理屈ではない。事実、ヨーロッパ・キリスト教世界は。十字軍に続いて、東方問題を通じてイスラーム世界の宗派紛争を扇動し、20世紀に入ってからは欧米社会が抱えこんだ厄介なユダヤ人問題の解決のためにイスラエル建国を支援し、パレスチナ人が欧米社会の犠牲者のさらに犠牲になってしまったという説明は、中東イスラーム世界ではごく当たり前の認識として広く受容されている。
さらに、イスラエルは世俗的なシオニスト国家として出発したが、イスラーム主義者の目からはイスラエルはユダヤ教国家として見られている点も無視できない。イスラーム主義者は、イスラエルのナショナルアイデンティティは宗教的概念に基礎を置いていると考え、イスラエルがその信仰のゆえに成功したのであれば、ムスリムも正しいイスラームに導かれて勝利するはずだという考え方をもっている。そこにユダヤ教徒とイスラームの急進的な宗教的政治思想をもつイデオローグの相似性を見ることができる。この相似性には「オリエンタリズムの罠」が隠されている。オクシデント(西洋)が作り出した「オリエント」の姿をオリエントの人々が自らのものとしてその「オリエント」を受容し、オリエンタリストによって理想化された「イスラーム」をオリエントの人々が体現しようとする、という屈折したメカニズムである。
こうして今やエルサレムは、ユダヤ教とイスラームのそれぞれの宗教的なイデオロギーの中心的な位置を持つに至っている。イスラーム主義者にとって、「ワクフ」(所有権移転の禁じられた土地)としてのパレスチナに位置する聖地エルサレムは、中核的イデオロギーを構成し、1967年にイスラエルがエルサレム占領して以来、エルサレムは常にイスラーム主義者の「解放」のためのレトリックの中心となった。エルサレム解放のためには防衛ジハードが適用され、たとえジハードが自爆テロであっても、対イスラエル闘争において死亡したならば、その人間は殉教者として天国に行くことができる。エルサレムはイスラーム世界のムスリムによるジハードの象徴であり、異教徒に犯された聖地として動員されるのである。
イスラエルのパレスチナ攻撃は、常軌を逸していると思います。
どういう考えで、毎日毎日、民間人を殺害し続けることができるのか?
なぜ、戦争犯罪を止めることができないのか?
この二つを、私は追及し続ける必要があると思っています。