真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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リットン報告書、「緒論」一部抜粋

2020年09月14日 | 国際・政治

 日本の政治家や軍人が、領土や権益の拡大・拡張に夢中になって満州で活発に動いていたころ、西洋列強はアジアやアフリカ諸地域の植民争奪戦の悲劇を踏まえ、「ハーグ条約」や「不戦条約」を成立させ、「国際連盟」を組織するに至っていました。
 その「国際連盟規約」第十一条(戦争の脅威)には、下記のようにあります。
”1  戦争又は戦争の脅威は、聯盟国の何れかに直接の影響あると否とを問わず、総て聯盟全体の利害関係事項たることを茲に声明す。仍って聯盟は、国際の平和を擁護するため適当且つ有効と認むる措置を執るべきものとす。この種の事変発生したるときは、事務総長は、何れかの聯盟国の請求に基づき直ぐに聯盟理事会の会議を招集すべし。
 2  国際関係に影響する一切の事態にして国際の平和又はその基礎たる各国間の良好なる了解を攪乱せむとする虞あるものに付き、聯盟総会又は聯盟理事会の注意を喚起するは、聯盟各国の友詛的権利なることを併せて茲に声明す。

 1931年9月18日、奉天(現在の瀋陽市)近郊の柳条湖付近で、南満州鉄道(満鉄)の線路が爆破された事件(爆破したのは奉天独立守備隊の河本末守中尉ら)を受けて、当時の支那政府代表が、この国際聯規約第十一条に基づいて、国際連盟に訴えました。 

 リットン報告書の下記「緒論」は、支那政府の訴えを受けた国際連盟理事会の話し合いのあらましや、調査団派遣に至る経緯について書かれています。
 リットン報告書の「緒論」を読んで驚いたのは、支那政府の訴えに応えて話し合われた、国際連盟理事会としての受け止め方や対応の仕方についての「決議」について、
理事会は紛争を考究する為更に十月十三日より二十四日迄会議を開催したるが日本代表の反対の結果該会議に於て提案せられたる決議に対し全会一致を得ること能わざりき。” 
 とあったことです。

 日本代表が、「決議」の内容の、どこがどう受け入れられなかったのかの詳細は書かれていませんが、当時の皇国日本は、欧米列強が求めた国際平和ではなく、領土や権益の拡大・拡張を優先する国であったということではないかと思いました。

 「リットン報告書」を読むと、柳条湖事件をきっかけとする日支間の紛争が本格的な戦争に発展することを回避するため、国際連盟が可能な限り公平な立場で、出来る限りのことをしようと努力したことがわかります。
 でも、日本の政治家や軍人とって、満州における日本の権益は、日清戦争や日露戦争で血を流して獲得したものであり、拡大・拡張が課題なのであって、手放すことなど考えられないことであったのだろうと思います。また、日本の経済や国防の将来にとっても、満洲は極めて重大で、まさに満州は日本の「生命線」であると考えていたため、中国(支那)はもちろん、国際連盟の関係者の意識とも、大きく隔たっていたのではないかと思います。突っ走っていた日本にとって、”国際の平和を擁護するため適当且つ有効と認むる措置を執る” 国際連盟は、調査団を派遣する前から疎ましい存在であったのだろうと思います。

 下記は、「リットン報告書 日支紛争に関する国際連盟調査委員会の報告」国際聯瑛協会編・外務省仮訳(角川学芸出版)から、「緒論」の一部を抜粋したものです。
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                リットン報告書

 緒論
 1931年九月二十一日在ジュネーブ支那政府代表は連盟事務総長に書翰を送り九月十八日より十九日に至る奉天に於て発生せる事件より起れる日支間の紛争に関し理事会の注意を喚起せんことを求め且規約第十一条に基き「国際の平和を危殆ならしむる事態の此の上の進展を阻止する為即時手段を執らんこと」を理事会に訴へたり。
 九月三十日理事会は左の決議を可決せり。 

一、理事会ハ理事会議長カ日支両国ニ致セル緊急通告ニ対スル右両国ノ回答及該通告ニ従ヒ為サレタル措置ヲ了承ス。
二、日本カ満州ニ於テ何等領土的目的ヲ有セサル旨ノ日本政府ノ声明ノ重要ナルヲ認ム。
三、日本政府ハ其臣民ノ生命ノ安全及其財産ノ保護カ有効ニ確保セラルルニ従ヒ日本軍隊ヲ鉄道附属地内ニ引カシムル為既ニ開始セラレタル軍隊ノ撤退ヲ出来得ル限リ速ニ続行スヘク最短期間内ニ右ノ意向ヲ実現センコトヲ希望スル旨ノ日本代表ノ声明ヲ了承ス。
四、支那政府ハ日本軍隊撤退ノ続行並支那地方官憲及警察力恢復ノ成就ニ従ヒ鉄道附属地外ニ於ケル日本臣民ノ安全及財産ノ保護ノ責任ヲ負フヘキ旨ノ支那代表ノ声明ヲ了承ス。
五、両国政府カ両国間ノ平和及良好ナル了解ヲ攪乱スル虞アル一切ノ行為ヲ避ケンコトヲ欲スルヲ信シ、両国政府ハ各自ニ事件ヲ拡大シ又ハ事態ヲ悪化セサル為ノ必要ナル一切ノ措置ヲ執ルヘシトノ保障ヲ日支両国代表ヨリ与ヘラレタル事実ヲ了承ス。
六、両当事国ニ対シ其間ノ通常関係ノ恢復ヲ促進シ且之カ為前記約定ノ履行ヲ続行且速ニ終了スル為両国カ一切ノ手段ヲ尽スヘキコトヲ求ム。
七、両当事国ニ対シ事態ノ進展ニ関スル完全ナル情報ヲ屡々理事会ニ送ランコトヲ求ム。
八、緊急会合ヲ余儀ナクスルカ如キ未知ノ事件発生セサル限リ十月十四日(水曜日)同期日ニ於ケル事態審査ノ為更ニ壽府(ジュネーブ)ニ会合ス
九、理事会議長カ其同僚特ニ両当事国代表ノ意見ヲ求メタル後事態ノ進展ニ関シ当事国又ハ他ノ理事会員ヨリ得タル情報ニ依リ前記理事会召集ノ必要ナキニ至レリト決定スル場合ハ右招集ヲ取消スコトヲ議長二許可ス。」

 右決議採択前の討議中支那代表は「日本の軍隊及警官の迅速且完全なる撤退並に完全なる原状回復を確保する為に理事会の計画すべき最良の方法は中立の委員会を満州に派遣することなり」との支那政府の見解を表明せり。
 理事会は紛争を考究する為更に十月十三日より二十四日迄会議を開催したるが日本代表の反対の結果該会議に於て提案せられたる決議に対し全会一致を得ること能わざりき。
 理事会は再び十一月十六日パリに会合し約四週間の間熱心に事態を研究せり。十一月二十一日日本代表は九月三十日の決議が其の精神に於て且条章に於て遵守せらるべきことを日本政府は念じ居るものなることを述べたる後一の調査委員会を現地に送らんことを提案せり。右提案は次いで他の一切の理事会員の歓迎する所と為り、1931年十二月十日左の決議は全会一致を以て採択せられたり。

「理事会は
一、両当事国カ厳粛ニ遵守スル旨宣言シ居レル1931年九月三十日理事会全会一致可決ノ決議ヲ再ヒ確認ス依テ理事会ハ右決議ノ定ムル条件ニヨリ日本軍ノ鉄道附属地内撤収カ成ルヘク速ニ実行セラレンカ為日支両国政府ニ対シ右決議実施ヲ確保スルニ必要ナル一切ノ手段ヲ講センコトヲ要請ス。
二、十月二十四日ノ理事会以来事態ノ更ニ重大化シタルニ鑑ミ理事会ハ両当事国カ此上事態ノ悪化スルヲ避クルニ必要ナル一切ノ措置ヲ執リ又此ノ上戦闘又ハ生命ノ喪失ヲ惹起スルコトアルヘキ一切ノ主動的行為ヲ差控フヘキヲ約スルコトヲ了承ス。
三、両当事国ニ対シ情勢ノ進展ニ付引続キ理事会ニ通報センコトヲ求ム。
四、其他ノ理事国ニ対シ其関係地域ニ在ル代表者ヨリ得タル情報ヲ理事会ニ提供センコトヲ求ム。
五、上記措置ノ実行トハ関係ナク
 本件ノ特殊ナル事情ニ顧ミ日支両国政府ニ依ル両国間紛争問題ノ終局的且根本的解決ニ寄与センコトヲ希望シ
 国際関係ニ影響ヲ及ホシ日支両国間ノ平和又ハ平和ノ基礎タル良好ナル了解ヲ攪乱セントスル虞アル一切ノ事情ニ関シ実地ニ就キ調査ヲ遂ケ理事会ニ報告センカ為五名ヨリ成ル委員会ヲ任命スルニ決ス。
 日支両国政府ハ委員会ヲ助クル為メ各一名ノ参与委員ヲ指名スルノ権利ヲ有シ両国政府ハ委員会カ其必要トスヘキ一切ノ情報ヲ実地ニ就キ入手センカ為ノ各般ノ便宜ヲ委員ニ供与ス。
 両当事国カ何等カノ交渉ヲ開始スル場合ニハ右交渉ハ本委員会所定ノ任務ノ範囲内ニ属セサルヘク又何レカノ当事国ノ軍事的施措ニ苟モ干渉スルコトハ本委員会ノ権限ニ属セサルモノト了解ス。
 本委員会ノ任命及審議ハ日本軍鉄道附属地外撤収ニ関シ九月三十日ノ決議ニ於テ日本政府ノ与ヘタル約束ニ何等影響ヲ及ホスモノニ非ス。
六、現在ヨリ1932年一月二十五日ニ開カルヘキ次回通常理事会期迄ノ間ニ於テ本件ハ依然理事会ニ繋属スルモノニシテ議長ニ於テ本件経過ヲ注意シ若シ必要アラハ新ニ会合ヲ召集センコトヲ求ム。」

 右決議を採用するに当たり議長ブリアン氏は左の宣言を為せり。

 

 ・・・


 日本代表は決議を受諾するに当り決議第二項に関する留保を為し「本項は満州各地に於て猖獗を極むる匪賊及不逞分子の活動に対し日本臣民の生命及財産の保護に直接備ふるに必要なるべき行動を日本軍が執ることを妨ぐるの趣旨に非ずとの了解の下に」日本政府の名に於て本項を受諾せるものなる旨を述べたり。
 支那代表は又決議を受諾せるも原則に関する其の或意見及留保が左の如く議事録に挿入せられんことを求めたり。

「一、支那ハ規約ノ一切ノ規定、其ノ加入セル一切ノ現存条約並ニ国際法及国際慣例ノ承認セラレタル原則ニ基キ支那ノ有シ又ハ有シ得ヘキ一切ノ権利、救済方法及法律的地位ヲ完全ニ留保スルヲ要シ且之ヲ留保ス。
二、支那ハ理事会ノ決議及理事会議長ノ声明ニ依リ明白ナラシメラレタル施措ヲ以テ必要ニシテ且相関関係ヲ有スル左ノ四個ノ本質的ニシテ相関関係を有スル要素ヲ包含スル実際的措置ト認ム。
(イ)敵対行為ノ即時停止
(ロ)日本ノ満州占領ノ能フ限リ短期間内ニ於ケル清算
(ハ)今後生シ得ヘキ一切ノ事件ニ関スル中立国人ノ観察及報告
(ニ)理事会ノ任命シタル委員会ニ依ル全満州ノ事態ニ関スル現地ノ包括的調査
右施措ハ条章及精神ニ於テ右ノ基本的要素ニ基クモノナルカ故ニ其ノ完全性ハ右要素ノ一タリトモ予定ノ如ク具体化セラレ且実際ニ現実化セラレサル場合ニハ明白ニ破壊セラルヘシ。
三、支那ハ決議中ニ規定セラルル委員会ハ其ノ現地ニ到着セルトキ日本軍隊ノ撤退カ完成セラレサルトキハ右ノ撤退ニ関シ調査シ且勧告ヲ載セタル報告ヲ為スコトヲ其ノ第一任務ト為スヘキモノト了解シ且希望ス。
四、支那ハ右協定ハ満州ニ於ケル最近ノ事件ヨリ発生セル支那及支那人ニ対スル損害賠償ノ問題モ直接ニモ暗黙的ニモ害スルコトナキモノト想定シ此ノ点ニ関シ特別ナル留保ヲ為ス。
五、茲に提出セラレタル決議ヲ受諾スルニ当リ支那ハ理事会カ此ノ上戦闘ヲ惹起スルコトアルヘキ一切ノ主動的行為及事態ヲ悪化セシムル虞レアル他ノ一切ノ行動ヲ避クル様日支両国ニ命シ以テ此ノ上戦闘及流血ノ惨ヲ阻止セラルルコトニ付理事会ノ努力ヲ謝ス。決議カ終息セシムルコトヲ真ニ目的トシタル事態ヨリ生シタル無法律ノ状態カ存在スルコトノ口実ヲ以テ右ノ命令ヲ破ルヘカラサルコトハ之ヲ明白ニ指摘セサルヘカラス。現ニ満州ニ在ル無法律ノ状態ノ多クハ日本軍ノ侵入ニ依リ生シタル通常生活ノ中絶ニ因ル所多キコトヲ看過スヘカラス。通常ノ平和的生活ヲ快復スル唯一ノ方法ハ日本軍ノ撤退ヲ迅速ナラシメ且支那官憲ヲシテ平和及秩序維持ノ責任ヲ負ハシムルコトニ在リ。支那ハ如何ナル外国ノ軍隊ニ依リテモ其ノ地域ノ侵入及占領ヲ許容スルコトヲ得ス。支那官憲ノ警察職務ヲ冒スコトヲ右軍隊ニ許スコトハ一層為シ得サル所ナリ。
六、支那ハ他ノ列国ノ代表者ヲ通シテ為ス中立的意見及報告ノ現在ノ方法ヲ継続シ且改善スルノ意向ヲ満足ヲ以テ了承ス。而シテ支那ハ斯カル代表者ヲ派遣スルコト望マシト思考ラレルル地方ヲ時々必要ニ応シ指示スヘシ。
七、日本軍ノ鉄道附属地内ヘ撤収ヲ規定スル本決議ヲ受諾スルニ当リ支那ハ右鉄道附属地内ニ於ケル軍隊維持ニ関シ其ノ常ニ執リ来レル態度ヲ何等放棄スルモノニ非サルコト了解セラレサルヘカラス。
八、支那ハ其ノ領土的又ハ行政的保全ヲ害スル如キ政治的ノ紛議(例ヘハ所謂独立運動ヲ助クルカ如キ又ハ之カ為ニ不逞分子ヲ利用スルカ如キ)ヲ挑発セントスル日本側ノ一切ノ試ヲ以テ事態ノ此ノ上ノ悪化ヲ避クヘシトノ約束ノ明白ナル違反ト看做スヘシ。」

 委員会委員は次で理事会議長に依り選定セラレ両当事国の賛成を得たる上1932年一月十四日の理事会に於て左の如く最終的に承認せられたり。
  エィチ・イー・アルドロヴァンディ伯爵(伊国人)
アンリ・クローデル中将(佛国人)
リットン伯爵(英国人)
フラック・ロッス・マッコイ少将(米国人)
ハー・エー・ハインリッヒ・シュネー博士(独逸人)
 欧州諸国の委員は代表者と一月二十一日ジュネーヴに於て二回の会合を催したるが右会合に於てリットン卿は満場一致を以て委員長に選挙せらるると共に委員会の事業の仮計画は是認せられたり。
 日支両国政府は十二月十日の決議に基き委員会を補助する為夫夫一人の参与員を指名する権限を有したるに付右参与員としてトルコ駐剳特命全権大使・吉田伊三郎及前総理大臣、前外交部長・顧維釣を任命する。
 国際連盟事務総長は連盟事務局部長ロバート・ハース氏に委員会の事務総長を委嘱せり。
 ・・・以下略


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