![]() | 悪人吉田 修一朝日新聞社このアイテムの詳細を見る |
【悪人】悪人とは、誰のこと?
「悪人」
著・吉田修一
「悪人」とは、どういう人のことを指すのだろうか?
小説「悪人」は、この問いを読者に投げかけている。
「悪人とは?」という問いは、「人間とは?」という問いにつながっている。
結論を急げば、「人間は善人、悪人に二分されるようなものではなく、
多面性を持っている」ということだろう。
基本的には、推理小説だ。
しかし、「犯人が逮捕され、一件落着」で終わるものではない。
保険会社に勤務する若い女性会社員が、寂しい山中で絞殺された。
被害者は、インターネットの出会い系サイトを利用し、いわゆる援助交際を
していた。
1人娘として育てられた被害者と、その家族。
出会い系サイトを通じて、被害者と出会っていた男たち。
保険会社の同僚の女性たち。
被害者が交際したいと考えていた大学生。その友人たち。
殺人犯の家族や友人。
互いの繋がりが見えないまま、それぞれの登場人物が、それぞれの生活を営み、
それぞれの思いを抱えて生きている姿が描かれる。
小説は、しだいに、これらの登場人物を線で結びつけていく。
事件の核心、犯人は誰かを、明らかにしていくのだが、人と人の繋がりを示す
過程で、それぞれの登場人物がもっている優しさ、強さ、冷たさ、残酷さなど
が見えてくる。
1人の人間が持つ多様な側面を浮かびあがらせる。
殺人事件は解決して終わるが、読み終えて感じるのは、複雑な気持ちだ。
現実に戻って考えると、テレビのワイドショー番組が頭に浮かぶ。
殺人事件が取り上げられることがあるが、犯人像が単純化され、画一的なことに
驚くことがあるからだ。
「視聴者に分かりやすく」を重視しているのだろうが、
「容疑者や犯人=悪人」という単純なイメージのレッテルを貼っているように
見える。
現実に起きた事件を取り扱っているにも関わらず、この小説を読むと、
改めて、「犯人=悪人」と単純化して伝える姿勢の幼稚さを感じる。
加害者は、時に、被害者であり、被害者は、時に、加害者なのだろう。
残酷な事件が起きてしまったときこそ、テレビやネットで伝えられる
情報から浮かぶイメージで片付けずに、もう少し、深く、事件の背景
や犯人について考えたい。