ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【悪人】悪人とは誰のこと?

2008-11-26 22:45:31 | Weblog
悪人
吉田 修一
朝日新聞社

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【悪人】悪人とは、誰のこと?

「悪人」
著・吉田修一

「悪人」とは、どういう人のことを指すのだろうか?
小説「悪人」は、この問いを読者に投げかけている。

「悪人とは?」という問いは、「人間とは?」という問いにつながっている。

結論を急げば、「人間は善人、悪人に二分されるようなものではなく、
多面性を持っている」ということだろう。

基本的には、推理小説だ。
しかし、「犯人が逮捕され、一件落着」で終わるものではない。

保険会社に勤務する若い女性会社員が、寂しい山中で絞殺された。
被害者は、インターネットの出会い系サイトを利用し、いわゆる援助交際を
していた。

1人娘として育てられた被害者と、その家族。

出会い系サイトを通じて、被害者と出会っていた男たち。

保険会社の同僚の女性たち。

被害者が交際したいと考えていた大学生。その友人たち。

殺人犯の家族や友人。

互いの繋がりが見えないまま、それぞれの登場人物が、それぞれの生活を営み、
それぞれの思いを抱えて生きている姿が描かれる。

小説は、しだいに、これらの登場人物を線で結びつけていく。

事件の核心、犯人は誰かを、明らかにしていくのだが、人と人の繋がりを示す
過程で、それぞれの登場人物がもっている優しさ、強さ、冷たさ、残酷さなど
が見えてくる。

1人の人間が持つ多様な側面を浮かびあがらせる。

殺人事件は解決して終わるが、読み終えて感じるのは、複雑な気持ちだ。

現実に戻って考えると、テレビのワイドショー番組が頭に浮かぶ。

殺人事件が取り上げられることがあるが、犯人像が単純化され、画一的なことに
驚くことがあるからだ。

「視聴者に分かりやすく」を重視しているのだろうが、
「容疑者や犯人=悪人」という単純なイメージのレッテルを貼っているように
見える。

現実に起きた事件を取り扱っているにも関わらず、この小説を読むと、
改めて、「犯人=悪人」と単純化して伝える姿勢の幼稚さを感じる。

加害者は、時に、被害者であり、被害者は、時に、加害者なのだろう。

残酷な事件が起きてしまったときこそ、テレビやネットで伝えられる
情報から浮かぶイメージで片付けずに、もう少し、深く、事件の背景
や犯人について考えたい。


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【生きてるだけで、愛】主人公は繊細過激系

2008-11-08 23:07:03 | Weblog

生きてるだけで、愛
本谷 有希子
新潮社

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【生きているだけで、愛】
著・本谷有希子

「主人公は繊細過激系」

あるものを描こうとする時、それと反対のものを描くことで、よりハッキリと深く描くことができる。

例えば「愛」。これと対極にある「暴力」を描くことで、「愛」がより鮮明になる。
北野武監督が、このようなことを話していた。

北野監督は、説明に使っていたのは「振り子」だ。

振り子の紐の先についている玉を、中心軸から右側へ引っ張って手を離すと、
右へ引っ張った分と同じ程度まで中心から左側へ振れる。

振り子の原理と同じで、暴力を激しく描くと、深い愛も描けるというような
ことだった。

本谷有希子の「生きてるだけで、愛」は、主人公の「あたし」のキャラクター
の魅力(毒)で成り立っている小説だろう。

20代で、鬱、バイトは長続きしない。

そして、母親の存在が重くのしかかっている。

「あたし」の言動は過激だ。過激さが増せば増すほど、「あたし」は痛々しく、
繊細さが浮き彫りになる。

「あたし」の視点から描かれているため、北野監督の言う「振り子」の例えを
借りれば、「あたし」の中で、振り子が激しく振れている状態だ。

ただし、「あたし」の振り子は、恋人・津奈木や、その元彼女の安堂、
バイト先の人々との関係に影響を受けて振れたというよりも、あたしの
自己完結型で終わっているようにもみえる。

周囲の登場人物や、「あたし」への関わりがもう少し深堀りできたら、
話に厚みが出たかもしれない。

と思う一方で、なんとなく薄い人間関係が、今の20代にとってはリアル
かもしれないと思った。
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「読書」を読む~理論と手法の視点

2008-11-04 22:18:14 | Weblog
読書進化論~人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか~ (小学館101新書) (小学館101新書 1)
勝間 和代
小学館

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ビジネスマンのための「読書力」養成講座
小宮 一慶
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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【「読書」を読む~理論と手法の視点から】

最近出版された新書の中で、「読書」をテーマに書かれた2冊が目に付いたので
手にとった。

「読書進化論」(勝間和代・著、小学館101新書)
「ビジネスマンのための読書力養成講座」(小宮一慶・著、ディスカヴァー携書)の2冊だ。

簡単に言ってしまうと、この2冊の違いは、「読書進化論」は「理論」、
「読書力要請講座」は「手法」に力点を置いていることだ。

「読書進化論」は、「読書によって、人が進化(成長、向上)することができる」
という「理論」が根底にある。

これまで、「文字を読むのが好きではない」とか「情報を取るなら、ネットのが
早くて、多いし」と思っている人は、読書を見直すことになると思う。

読書が好きという人も、「ああ、そうそう。読書ってこういう価値があったよね」
と頷くことができる。

なんとなくは感じていた読書の価値を、著者が明確に言葉で示してくれるからだ。

「読書」というと「読む」ことに注目しがちだが、著者の勝間氏は、
「読む」ことから「書く」ことにつなげて、読書の価値をさらに高めることも
提案する。

余談のような雰囲気もあるが、本を「売る」ということにも目を向けている。
ただし、こちらは、本を「売る」ことによって人が進化するというより、
本を「売る」仕組みは、まだまだ工夫の余地があるとみている。
出版業界関係者への叱咤激励のようだ。

一方、「読書力養成講座」は、上手に読書をするための「手法」の本だ。
読者層も「ビジネスマン」に焦点を絞っている。

著者の小宮氏が勧めるのは、ただ「漫然と読む」のではなく、「戦略をもって
読む」ことだ。

「速読」「通読」「熟読」「重読」と読み方のレベルを整理して、どういう
姿勢で、どう読むかを具体的に紹介する。
「小宮流の読書法」の提案だ。

小宮氏が提案する手法は、正直なところ、私にはピンと来ない部分がある。
私はビジネスマンではないので、読者ターゲットからは外れるからだろう。

著者の小宮氏と同世代の人や、仕事上、「経営」「経済」の書籍を読むことが
必要な人にとっては、役に立つ手法かもしれない。

2冊の読書を踏まえて、「読書」の価値を高めるためのポイントを整理してみた。


①読書の目的は何か?

②その目的を達成するために、どんな本を選択すべきか?

③選択した本を、どのように読んでいくか?

④読書から得た情報や知識を、どう活用するか?

「読書進化論」は①から④までをカバーし、ポイントを簡潔にまとめている。

「読書力養成講座」は、②③に焦点を絞って、深堀りした本だ。
ビジネスマンのなかでも、読書の目的や活用方法を明確に持っている人向き
といえる。

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