ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【闇の底】悪人は誰か?

2006-12-18 23:18:37 | Weblog
闇の底
薬丸 岳
講談社

このアイテムの詳細を見る



「闇の底」
薬丸岳・著

「犯人、分かっちゃった」
前半を読んで、誰もがそんな印象を抱くだろう。

テレビの火曜サスペンス劇場のように、犯人の影がチラリチラリと見える。そして、登場人物の人間関係をたどって「犯人はあの人」と当たりを付けて考えてしまうのだ。

しかし最後の最後まで来て、騙されたことに気づく。
最後まで読んではじめて「闇の底」というタイトルの意味が分かるからだ。
人間の心の闇を覗くような恐ろしさが、読後にじわりと来る小説だ。

サスペンスは、あまり語ってしまうと、これから読む人にとっては面白さを半減してしまうのだが、題材は、幼い少女に対する性犯罪。

現実に、少女が陵辱され、殺され、死体が寂しい山中に放置されるような事件は、最近も報道された。

犯罪者が精神的な病を抱えている場合もあるが、抵抗できない少女に対する犯罪はなんともやりきれない。悪いのは犯人なのだが、家族は、少女を失った悲しみとともに、「守ることができなかった」と自責の念を抱くのは想像に難くない。

性犯罪の被害をなくすには、どうしたらいいか。
このテーマをベースに、性犯罪者、被害者の家族、警察官たちの思いが絡んでいく。

結論を急げば、すべての犯罪を失くすことはできない。
この小説は、一応の決着を示しながらも、そのことを滲ませている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【トンマッコルへようこそ】戦争はファンタジーではない

2006-12-03 21:16:39 | Weblog
韓国映画
「トンマッコルへようこそ」

トンマッコルとは、純粋という意味だそうである。
この映画はファンタジーだが、とても重い。あまりに重い内容で救いがないため、ファンタジーにしたのではないかとさえ思う。ファンタジーの向こうに、人と人が殺しあう戦争の重さが透けて見えるのである。おそらく、それも、この映画のねらいなのだろう。

舞台は韓国。
北の軍隊と南の軍隊が戦っている。南の軍は、アメリカの軍に支援されている。

生き残った北の軍(中隊長と中年兵、少年兵)の3人が、山の中で迷い、トンマッコルの村にたどり着く。
南の軍を脱走してきた兵と、彼が自殺しようとしたのを見つけてとめた兵の2人も、トンマッコル村へやってくる。

トンマッコルの村民は、みな、純粋。笑顔。
銃を知らず、その怖さを知らない。戦争の意味もよく分からない。

北の軍の兵士も、南の軍の兵士も、トンマッコルで顔を合わせた当初はにらみ合っていたが、人々の笑顔に、にらみ合いの意味を見失う。
やがて畑仕事を手伝い、互いに力を合わせはじめる。

「何のために、戦ってきたのか?何のために殺してきたのか?」

その疑問が大きくなってきた時、再び、兵士たちに試練が訪れる。
戦いに意味を見つけ、新たな敵に立ち向かうことになる。
そして、その先にあるのは、ハッピーエンドではない。

映画は、厳しい結末をファンタジーにすることで消化した。

しかし、見終わった後に残るのは、「戦争は、ファンタジーにできない現実である」という重いメッセージである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする