![]() | あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅城戸久枝情報センター出版局このアイテムの詳細を見る |
【あの戦争から遠く離れて】日本と中国の家族を見つめる旅
団塊ジュニアといわれる世代、日本人として日本で育った私にとって、戦争といえば、「第二次世界大戦」「広島・長崎の原爆」のこと。
しかし、社会科の教科書に掲載されていた白黒の写真や、アニメ映画「ほたるの墓」から得たイメージしかない。
その時代を生きた祖父母から話を聞いても、どこか遠い昔話を聞いているような気がしていた。
戦争について書かれた本はたくさんあるが、手に取る前に、悲惨さ、暗さ、重さを感じ取ってしまって、積極的に「読もう」という意欲が沸くものではなかった。
大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「あの戦争から遠く離れて」についても、最初は、そうした「戦争もの」という先入観をもっていた。
しかし、読み始めると、ページをめくる手が止まらなくなった。
この本の軸にあるのは「家族」だからだ。
この本は、著者の城戸久枝さんが、中国残留孤児である父親・城戸幹さんの半生をたどったルポである。
父親の過去についてだけではなく、久枝さん自身が2年間の中国留学生活で体験したこと、幹さんを育てた養母やその親族との交流から感じたことも綴っている。
久枝さんが1976年生まれだと知り、また、本書に目を通す中で、私自身と同じ世代だという意識が強くなった。そのため、幹さんを私自身の父親と重ねて想像することも多かった。
幹さんの中国と日本の家族に対する思いや、久枝さんの父に対する思いを感じて、胸が熱くなった。
本書では、戦争や戦後の中国で残留孤児が体験した苦労についても触れているが、戦争の悲惨さよりも、人と人のつながりの価値や、人の「縁」が人生に大きな影響を与えるものであるということを感じる。
幹さんの娘である久枝さんだからこそ、中国に対して一定の距離感を保ちつつ、しかし、一方で、「他人事ではない」という親近感も持ちながら、あの戦争から現在につながる1人の孤児の半生を記述できたのではないだろうか。
この本を書くことは、父親の半生を掘り起こして記録することであるとともに、久枝さんにとっては自身のルーツをたどる取り組みだったのだろう。
「あの戦争」は、遠い過去のものになりつつある。しかし、それは決してなくなるものではなく、あの戦争があった時代を生き抜いた人がいたからこそ、今の自分があるのだということを再認識させられる。