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【ポトスライムの舟】不器用に生きている女性の心情
「あの人は、きっとこうなんだろう」「あの人なら、こんなことで悩まないのだろう」などと、周囲にいる他人について勝手に想像を巡らすことは、誰にでもあることだろう。
津村記久子さんの「ポトスライムの舟」には、表題作と「十二月の窓辺」の2作品が収められている。2つの作品には繋がりはないが、主人公の思考はよく似ている。いずれも不器用に生きている20代後半の女性だ。
やりがいのある仕事をしているわけではない。これといった趣味はない。恋愛もしていない。家族や友人はいるが、どこか心を許せていない・・・。年齢的には大人だが、世の中を上手く渡って生きていけるという自信はなく、漠然とした不安を抱えている。
そんな主人公の、日々の生活のなかでの心の動きがとても細やかに描かれている。
いずれの作品の主人公も、作者自身なのだろうと思う。
「ポトスライムの舟」の主人公ナガセは、通販の化粧品製造工場で働く女性。
ある時、唐突にボートで世界一周に必要な費用163万円を貯めようと思い立つ。
強い思いがあったわけではなく、なんとなくそれにこだわり、目標として掲げたのだ。
一方で、ナガセの日常はさりげなく過ぎていく。
同世代の友人たち、一緒に暮らす母親、同僚のパートさんたちとの関わりの中で、ナガセは、いろいろなことを考えている。誰が、何を、どのように考えているかを想像し、その時々で感じ取っている。
貯金が目標金額に達する頃、ナガセの心に変化が起こる。
それは、単なる目標への達成感とは異なるものだ。
自己肯定ともいえるだろう。
女性の読者なら、「こういうことを考える瞬間ってあるよなぁ」と感じるにちがいない。