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「天使の代理人」
山田宗樹・著
先進国の中で、HIV感染者が増加しつづけている国が日本である。
10代での妊娠は珍しいものではなくなり、初体験の低年齢化も指摘されている。
子孫を残すという目的を持つ性行為(SEX)は、その本来の目的をどこかに置き忘れたまま、快楽の情報ばかりが目立つ。
妊娠しても、産むつもりがなければ、中絶すればいい。
産むことができなければ、中絶という選択肢がある。
暗黙のうちに、そんな了解が存在しているのではないだろうか。
中絶は、SEXや妊娠よりも、さらに語ることが避けられる。
それを隠れ蓑にして、「気軽な選択肢」として普及しているのかもしれない。
「胎児は人間ですか?」
映画化、ドラマ化された「嫌われ松子の一生」の著者・山田宗樹は、小説「天使の代理人」で、中絶という重いテーマを取り上げている。
望まない妊娠で早期に中絶するケースは除き、妊娠後期の、法律上は中絶を認められていない時期の胎児を「死産」として片付けている中絶は、「人殺し」ではないのか?
妊娠後期の中絶に手を貸してきたことの贖罪をしようとする助産婦・冬子。
やっとできた子どもを医療ミスで中絶させられた有季江と、親に捨てられて施設で育った雪絵。
エリートとして勤務してきた銀行を辞め、精子バンクを使って子どもを産む弥生。
妊娠・出産に関わる複数の女性たちの物語が同時進行する中で、中絶をめぐるさまざまな価値観、議論が示される。
生命倫理や社会学の本を読むより、一般的な言葉で中絶を語る女性たちのやりとりは、読者が女性であればなおさら、身近に起こりうる問題として胸に迫ってくるだろう。
私だったら、どう考える?
物語のどこかで自分の選択を考えずにはいられない。
なかでも、助産婦・冬子の問いかけは、重く響く。
「もし、あなたがお腹にいる赤ちゃんだったら、その理由で死んでほしいと言われて納得できますか?」