ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」】「外」からではなく「内」から変える

2020-02-20 01:07:33 | Weblog
「まちづくり」「地域活性化」「共生社会の実現」…。
そういうテーマを掲げて取り組まれている物事に、違和感を感じることがある。
それって、本当に「まちづくり」につながるのかな?
一過性の盛り上がりで、本当に「活性化」するのかな?
障害のある選手のパフォーマンスを観ること、パラスポーツを応援することと、
社会を変えることは、どうつながるんだろう?

パン屋さんの本を読んで、違和感の謎が解けた気がします。




著者の渡邉格さんは、天然の菌でつくった酒種をつかって発酵をさせたパンをつくって売る「パン屋タルマーリー」の店主。
高校卒業後、紆余曲折して、25歳で大学に入学。
31歳からパンの修業をはじめて独立した人だ。
本書では、渡邉さんの人生の歩みを紹介しながら、
パンをつくることになった理由、
原材料、水、菌、働き方、暮らし方に関するこだわりなどが紹介されている。
効率的で利潤を追求するパンづくりではなく、
利潤を追求しないパンづくり(腐る経済)を大切にしている理由が解説されている。

渡邉さんは、次のように書いている。
田舎に暮らして5年あまり、「まちづくり」「地域活性化」の名のもとで、「腐る経済」とは正反対のことが行われている現実を何ども目にしてきた。
地域の「外」から引っ張ってきた補助金で、都会から有名人を呼んで、打ち上げ花火のようなまちおこしのイベントをやってみたり、地域の「外」から原材料を調達して、地域の特産物をつくったりする。
これでは地域には何も残らない。潤うのは、イベントを仕掛けた都会の人たちであり、販促やマーケティングが得意な都会の資本だ。
使われた補助金も、都会からやってきた連中のところへ流れていく。結局、「外」から肥料をつぎこんで、促成栽培で地域を無理やり大きくしようとしても、地域が豊かになることはない。むしろ肥料を投入すればするほど、地域はやせ細っていく。


ここで思ったのは、パラリンピックの関連イベントも「同じ」ということ。
「外」からのお金で開催されているし、
まさに「打ち上げ花火」みたいに思えるものもある気がするし、
大きな額のお金が動き、大規模な出来事が起こった結果として、何が残るのだろう、
たぶん、ほとんど残らないだろうなと思うからだ。

「パラリンピックを盛り上げよう」という時、
一体、何を「盛り上げる」のか。
パラリンピック開催で、「共生社会の実現を目指す」というけれど、
「盛り上げる」ことと、「共生社会」が、なんだか遠い。
「外」からでなく、「内」からのアプローチを考えないといけないし、
「内」からの小さなアプローチを実行して続けていくことしかない気がしている。

タルマーリーの渡邉さんは、発酵を通じてできる食(パンやビール)で「ほんもの」を目指すことで、
「外」からではなく、地域の「内」から「まちおこし」「地域活性化」にアプローチをしている。

ああ、ほんもののパン、食べにいきたい。
ほんものを目指す人たちに出会いたい。


田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)

#パン#読書#起業
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【古くてあたらしい仕事】自分の仕事を頑張ろうと思えた一冊

2020-02-06 00:05:58 | Weblog



「良い人に、出会った」と思った。

実際に会ったことはないが、本の中で出会った人に、励まされた気持ちになった。


ひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんの著書「古くてあたらしい仕事」は、

島田さんが、これまで取り組んできた仕事について書いたエッセイ。

出版社を立ち上げたきっかけや、最初に出版した本、著者や装丁者、出版社や書店の人のことに触れながら、

「何を大切にして、仕事をしているか」について書いている。

読み終わった後に、書籍のタイトルを見直して、

今も、昔も、仕事において大切なことは変わらないのかもしれない。

古いと思っていることが、実はあたらしいことでもある気がしてきた。


本書では、「本を読む」ことについて、次のように書かれている。

『本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。

自分のよく知る人のことを考え、忘れていた人のことを思い出すというだ。

世の中にはわからないことや不条理なことが多々あるけれど、

そういうときは、ただただ、長い時間をかけて考えるしかない。思い出すしかない。

本はその時間を与えてくれる。ぼくたちに不足している語彙や文脈を補い、

それらを暗い闇を照らすランプとして、日々の慌ただしい暮らしのなかで忘れていたことを、たくさん思い出させてくれる。(本書P112)』


本を通して、自分を見つめなおすことができたり、自分のことを少し客観視できた経験がある。

読書が、囚われていた観念や感情から自分を解放するきっかけになったこともある。

読書を通じて、著者と出会い、言葉や思いを交わしたような気持ちになることもある。

「古くてあたらしい仕事」は、自分自身の仕事や、時間の使い方、人との関わりについて、改めて見直す機会をくれた一冊だった。

古くてあたらしい仕事

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