![]() | エンブリオロジスト-受精卵を育む人たち-須藤 みか小学館このアイテムの詳細を見る |
「エンブリオロジストを知っていますか?」
ある会に集まった参加者に、こう問いかけた人がいた。
私は、医療には近い分野で仕事をしているが、恥ずかしながら、この職業を知らなかった。
なんとなく聞いたことはあったかもしれないが、具体的にどのような立場で、何をする人なのかを知らなかった。
問いかけた人は、「エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち」を紹介し、一読を勧めた。
翌日さっそく手に取り、読んで、驚いた。
エンブリオロジストとは、体外受精において卵子や精子を取り扱う仕事をする人たちだ。受精卵を母体内に戻す医療行為をおこなうのは医師だが、体外で卵子や精子を取り扱うのは医師とは限らない。
エンブリオロジストは、日本では現在1400人程度いるそうだ。
不妊治療を受けている患者さんと向き合うこともあり、また、卵子や精子を取り扱うことはとても大きな責任を負う。倫理観も問われる仕事だろう。
しかし、エンブリオロジストは国家資格ではない。もともと臨床検査技師の人もいるし、獣医学を学んできた人もいる。学会による認定はあるが、個人間の技術の差もかなりあるという。
こうした実態は、これまで、あまり明らかにされていなかったと思う。
エンブリオロジストについてその仕事に関わる人たちの思いを拾い、置かれている立場の曖昧さや、不妊治療の課題などを指摘した本書の意義は大きいだろう。
なによりも、この本の内容に厚みを持たせたのは、著者自身が不妊治療の経験者であったことだ。
「エンブリオロジストについて知りたい」という思いの強さが文章に出ている。
「知りたい」「伝えたい」という思いが、執筆の原動力になるということを感じさせられた。