ゆるっと読書

気ままな読書感想文

解決の道筋は1つじゃない【「ふつう」の私たちが、誰かの人権を奪うとき】

2025-01-24 01:18:59 | Weblog

最寄りの図書館に設置されている新刊コーナーの棚で、1冊の本に目が止まった。
 
『「ふつう」の私たちが、誰かの人権を奪うとき 声なき声に耳を傾ける30の物語』(チェ・ウンスク・著、金みんじょん・訳)。

タイトルが、なんだか重い。
 
人権を奪うこと、人権を侵害することは、差別や偏見により不当な扱いをすることだ。
そんな大変なことを、「ふつう」の人がやらかしてしまう。
おそらく故意ではなく、悪気はなく、無意識に、誰かを深く傷つけている。そんな場面や事例を挙げている本だろうか。
 
この本を手に取ったら、自分自身の過去の言動に、「あの時の私の一言は、あの人を傷つけていたのかもしれない」などと思い当たることが出てくるのかもしれない。
自分の落ち度に気が付いて後悔したり、反省することになるなら、この本を読むのはちょっと辛い。

そんなことをあれこれ考えた末、
気になったのだから、とりあえず目を通してみようと借りることにした。
 
著者は、韓国の国家人権委員会の調査官。
人権侵害の加害者、被害者、その家族などに会って話を聞く中で、感じたことや気が付いたことをまとめたのが、この本だ。

人権委員会の調査官は、 加害者を絶対的な悪人とみなすわけではない。
被害者に全面的に同情するわけでもない。加害者、被害者どちらに対しても偏りなく、フラットな姿勢で接することを心がけている印象を受けた。

特に興味深かったのは、加害者も、被害者も「嘘」をつくことがあり、調査官である著者が仕事を進めていく中で、騙されていたことに気がつくことがあるという点だ。

職業や過去の経歴を偽っていたり、人権侵害だと訴えている行為そのものが実際に起こったことだと考えにくいものだったり、さまざまな「嘘」がある。調べればすぐにばれてしまう「嘘」もあれば、「嘘」だと自覚されていないものもある。
 
著者は、「嘘」=悪事ととらえるのではなく、「嘘」をつかなければいけなかった理由や背景に思いをはせている。
「嘘」の内容は、「そうあってほしい」という夢や願望の現れだったのかもしれない。やり場のない怒りや悲しみが心の中から噴出した結果、「嘘」になってしまったのかもしれない。
事実であることを整理して相手に示し、相手から出てきた言葉にまた耳を傾けている。
  
加害者も人であり、被害者も人だ。
どちらも、人としての尊厳がある。
その前提を踏まえて、人の弱さを見つめる著者の視線は温かく、優しい。
 
人権問題を解決することについて、著者は次のように書いている
 
「たとえるなら、数学問題を解くのではなく、小説や詩を読むことにずっと近いと言えるだろう」
 
多様なとらえ方や解釈があることを前提に、問題解決の答えを探していくということだろうか。
 
人と人の関係から発生した問題に直面した時には、私も、このことを思い出したい。
 

 

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【ようこそ、ヒュナム洞書店へ】本屋さんを舞台に人生について考える。自己啓発書のような小説。

2025-01-13 13:44:20 | Weblog

 

 

小説「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(ファン・ボルム著、牧野美加・訳、集英社)は、ソウル市内の本屋さんに出入りする人々の物語。

 

「自分の家族に、どう向き合っていけばよいのか?」

「大企業への就職を目指すのか、アルバイトのままでいいのか?」

「好きなこと、やりたいことが見つからない」

 

夢や目標、仕事やお金、家族との人間関係、この書店に集う人々はそれぞれ悩みを抱えている。

 

誰もが人生の中で大なり小なりぶつかりそうな悩みなので、読者は、登場人物の誰かに自分を重ねるかもしれない。

 

私はこの本を読みながら、ヒュナム洞書店の店内に自分も居て、登場人物たちの会話に耳を傾けているような気持ちになった。

 

 

「夢を持つことを、どう考えるか」は、本書の中で、たびたび登場する問いの一つだ。

 

ヒュナム洞書店の女性店主ヨンジュは、本屋さんを開くことが夢だった。

アルバイトのミンジュンに「夢を叶えたわけですね」と言われて、次のように答えている。

 

「満足はしてるのよ。でも、なんか夢がすべてじゃないような気がして。夢が大事じゃないってことでも、夢より大事なことがあるってわけでもないんだけれど、でも夢を叶えたからって無条件に幸せになれるほど人生は単純じゃない、って感じ?そんな感じがするの」

 

ミンジュンは大学卒業後、企業への就職活動がうまくいかず、ヒュナム洞書店でアルバイトをしている。

当面はアルバイトを続けるが、それから先、どうするのか。

自分の将来を心配している親との付き合い方も、悩んでいる最中だ。

 

ヨンジュ自身、離婚をめぐって母親との関係が悪くなった経験がある。

 

「親との関係は…こう思ったら、私は楽だった。

誰かを失望させないために生きる人生より、自分の生きたい人生を生きるほうが正しいんじゃないか、って。残念よね。愛する人に失望されるのは。でもだからって一生、親の望むとおりに生きるわけにはいかないんじゃない。(中略)」

 

「自分がこうやって生きているのはどうしようもないこと。

だから受け入れること。自分を責めないこと。悲しまないこと。堂々とすること。わたしはもう何年も、自分にそう言い聞かせながら自己正当化しているところなの」

店主のヨンジュの悩みに、登場人物が寄り添ったり、提案してくれる場面もある。

ヒュナム洞書店に集う人それぞれが自分の悩みに向き合い、前向きな一歩を踏み出す。

小説の形式だが、地域における書店のあり方、本を読むことや文書を書くことの意義、働き方、時間の使い方(ワーク&ライフバランス)などがテーマになっており、自己啓発書のようにも読める一冊。

 

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