ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【自分の中に毒を持て】「芸術は爆発だ」の意味

2009-02-21 00:20:56 | Weblog
自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか (青春文庫)
岡本 太郎
青春出版社

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芸術家・岡本太郎といえば、「芸術は、爆発だ!」という発言が有名だ。
この発言を使ったコマーシャルがあったのを、おぼろげに記憶している。

「爆発」には、花火のようにドーンと何かが弾けるイメージがある。
このため、「芸術は、爆発だ!」というのは、芸術家が頭の中や心の中に持っているものをドーンと吐き出して表現することだと思っていた。

しかし、岡本太郎・著の「自分の中に毒を持て」を読んで、「爆発」の意味を誤解していたことが分かった。

岡本太郎は、こんなふうに言っている。

『一般に「爆発」というと、ドカンと大きな音が響いて、物が飛び散り、周囲を破壊して、人々を血みどろにさせたり、イメージは不吉でおどろおどろしい。が、私の言う「爆発」はまったく違う。音もしない。物も飛び散らない』

『全身全霊が宇宙に向かってパーッとひらくこと。それが「爆発」だ。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当の在り方だ』

『芸術とは生きることそのものである。人間として最も強烈に生きる者、無条件に生命を突き出し爆発する、その生き方こそが芸術なのだということを強調したい』

爆発は、何かを表現する際の一瞬、一時にあるものではなく、芸術家の生き方に伴うものなのだろう。

芸術家と同じように「最も強烈」というレベルで生きるのは、大変なエネルギーが要ると思う。強烈に生きることを徹底できる人は、やはり、一部の人だろう。

多くの人は、楽なほうに逃げたり、簡単に諦めたり、なんとなく時間を過ごして満足していたりして、「強烈に」とはいえない人生を送っている。それでも、それぞれ一生懸命に生きているし、自分の生き方に悩むこともある。

岡本太郎なら、「悩む時間があるくらいなら、まず、強烈に生きればいい」と言うだろう。

最も強烈に生きることを選んだ岡本太郎の言葉は、彼の生き方、人生哲学の要素である。

「人生で悩んだときは、太郎を読もう」
そんなふうに思える本だった。

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【調べる技術・書く技術】ノンフィクションをどうつくるか

2009-02-14 00:01:55 | Weblog
調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)
野村 進
講談社

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「調べる技術・書く技術」
野村進・著(講談社現代新書)

人に話を聞いたり、それをもとに文章を書く仕事をしている。
「調べる」「書く」作業に臨む際の注意事項は、頭の片隅に置いているが、その1つひとつを深く考えたり、問い直す機会は多くない。

自分の仕事を少し客観的な視点で考えてみようと、野村進氏の「調べる技術・書く技術」を手に取った。

本書は、テーマを決める、資料収集、人物への会い方、話の聞き方、原稿の書き方などなど、取材・執筆に携わる人にとっては基本の中の基本といえる事柄をまとめている。

一般の人が、ブログなどで情報を発信する時代。
誰もがインターネットで情報を収集し、パソコンで文章にまとめて、気軽に公表できる。

しかし、多くの読者を惹きつける原稿は、取材・執筆する者が基本的な事柄を徹底した結果、生まれるものだろう。

本書の中で、特に面白いのは、野村氏が実際に取材・執筆した原稿を題材にした部分だ。

「AERA」の「現代の肖像」で取り上げた歌舞伎俳優・市川笑也さんの人物ノンフィクションと、月刊「現代」の「ニッポンの現場」で掲載された「五人の少女はなぜ飛び降りたか」という事件ノンフィクションを引用しながら、これらをまとめるにあたり、着眼した点や構想の変更、取材の進め方などを、やや大雑把ではあるが紹介している。

手の内をすべて明かしているわけではないが、野村氏の取材の雰囲気はつかめて興味深い。

私にとっては、自分の仕事と照らし合わせる素材となり、「プロの仕事とは、どういうものなのか」を考えさせられた。

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【暴走する資本主義】誰が、この暴走を止めるのか?

2009-02-07 00:29:04 | Weblog
暴走する資本主義
ロバート ライシュ
東洋経済新報社

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数年前に流行した「勝ち組」「負け組」という言葉が、メディアからすっかり姿を消した。

これは、2008年夏以降の景気の低迷が「負け組」にもたらした状況が、あまりに深刻だからだろう。

仕事も住居を失い、生命の存続さえ脅かされている人たちを「負け組」と呼ぶのは、あまりに不謹慎というわけだ。

ロバート・B・ライシュ著「暴走する資本主義」は、「勝ち組」「負け組」の格差が大きくなった理由について、わかりやすく説明している。

ライシュの説明から考えると、
格差の拡大を望んでいない「負け組」の人も、自ら、格差の拡大に手を貸してしまった可能性があるといえる。なんとも皮肉だ。

簡単にいうと、次のような構造になっている。

消費者は、より安い商品を買おうとする。
企業は、他の企業との競争に勝つために、より安い値段で売れなくてはならない。
安く売るために、企業は、労働者の賃金を安く済ませなくてはならない。

企業は、労働力が安い国があれば、その国に工場を建てて現地の人を雇用することを選ぶかもしれない。これは、これまで工場があった国の労働者にとって失業をもたらす。

消費者は、労働者でもある。
職を失ったり、あるいは安い賃金になれば、さらに生活を切り詰めて、安い商品を買おうとするだろう。

企業は利益を高めるために、安い労働力を選択するが、その企業の選択を促したのは、商品を購入している消費者というわけだ。そして、消費者は労働者でもあるため、安い商品を買う行動は、失業や収入の減少として跳ね返ってくるという悪循環が生まれる。

一方で、企業は、出資してくれる投資家を向いて経営している。

投資家は、より多く還元してくれる企業への出資を選択する。

他の企業よりも還元できなければ、投資家に逃げられてしまうため、企業は利益追求にむかって邁進する。

資本主義は、利益重視、利益追求を基本とする考え方だが、企業の経営者は、競争に勝つために「もっと利益を!もっと!、もっと!」と止まれない。

それを促しているのは、投資家であり、消費者、労働者であるというわけだ。


人が、健康に、生活を存続していくには金銭の獲得だけでなく、食の安全の確保、自然環境の保護なども重要だ。

しかし、利益最優先の超資本主義(暴走した資本主義)の考え方では、これらの課題は解決の余地がない。

今、日本では、「景気の回復」が目下の課題とされている。

しかし、景気の回復だけでは解決できない問題もあるということを、改めて心に留めておかなくてはならないと思う。

「安定した生活ができるお金が手に入ればいい」「もっと豊かになるために、もっと収入が増えればいい」という金銭重視型の価値観だけに拠ると、資本主義の暴走を加速させてしまうからだ。

どこかで止めなくてはならないが、政治家や経営者だけでなく、これは、消費者、労働者が考える問題なのかもしれない。

価値観を問い直すことが必要だろう。

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映画【誰も守ってくれない】このセリフが、メッセージ

2009-02-03 21:45:21 | Weblog
映画「誰も守ってくれない」
監督・君塚良一

幼い姉妹を殺害した容疑者の妹(志田未来)に、彼女の保護を命じられた刑事(佐藤浩市)が語りかける。

「君が家族を守るんだ。守るってことは・・・・」

この映画は、主人公の刑事に、このセリフを言わせるために作られたといっていい。

このセリフが語られるシーンで、最高の盛り上がり、クライマックスを迎えるように巧みに構成されている。

未成年による幼児殺害
マスコミによるバッシング
インターネット上での中傷や情報流出など

現代的な社会現象を盛り込んでいるが、映画のメッセージはシンプルだ。

「守る」ということは「愛する」と重なる。

切ろうと思っても切ることができない家族のつながり、そのつながりの間にある愛情に目を向けさせる。

客席にいる人はそれぞれ、自分の家族を想うにちがいない。
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【吉原手引草】謎を解くのは、読者に。

2009-02-01 21:47:24 | Weblog
吉原手引草
松井 今朝子
幻冬舎

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「吉原手引草(よしわらてびきぐさ)」
松井今朝子・著

小説「吉原手引き草」は、読者を、謎解き役にはめる仕掛けになっている。

吉原で、花魁・葛城が突然、姿を消した。
最初は、これしか分からない。

聞き手が登場し、葛城を知っている関係者1人ひとりを訪問し、葛城の印象や葛城にまつわる出来事を話すように仕向けていく。
しかし、聞き手の素性も、面構えの良い男ということだけで、謎である。

 花魁・葛城に何が起こり、なぜ、どのように姿を消したのか?
 その失踪について、関係者から話を聞こうとしている聞き手は、何者なのか?
読者は、この2つの謎を解きたくなる。

読み進めるうちに、読者は、まるで自分自身が関係者から聞き取りをし、事件の真相を追求しているような気分になる。
聞き手の心情を出さないことで、読者を錯覚させ、物語の中に引っ張りこんでいく。

葛城について語るのは、葛城がいた舞鶴屋で仕事をしていた者、葛城のもとへ通っていた客など、総勢16人。
彼らの話から、吉原の商いのしきたりや、男女の悲喜こもごもなどがこぼれて、風情を漂わせる。

失踪のからくりはそれほど意外なものではないが、清々しい解決を予感させて終わるのは好感を持てる。

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