ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【街場のメディア論】キャリア形成とメディアの暴走

2010-09-27 23:49:27 | Weblog
街場のメディア論 (光文社新書)
内田 樹
光文社

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内田樹・著の「街場のメディア論」のなかで、私が面白かった指摘は、次の2つ。

【1】天職は、自分が決定するものではなく、他人に求められるものである。
(第一講「キャリアは誰のためのもの」より)

これは、「私に適した仕事」を求めてすぐに仕事を変える人に対する苦言だと受け止めました。
内田氏によると、「自分にしたい仕事かどうか」「自分に適した仕事であるかどうか」はどうでもいい。人は、「他人に求められること」によって、能力を発揮することができる。
「これをしてほしい」と仕事の要請がある。その要請に応えようと人は能力を開発する。
最初から能力が備わっているわけではなく、必要とされたとき、人は自分の持っている能力を発揮しようとするとのこと。

求められている仕事をまずやってみることが大切という点。上手くいかないときには、上手くいかない理由や改善の方法を考えるが、これが、実は、個人が能力を開発していく過程であるという考え方は、仕事や職場環境について、つい、ぐだぐだと愚痴を言いがちな私に対する戒めのように感じて、「なるほどね」と思いました。

社内での人材活用、職場の活性化など、「人を動かす」立場の人にも参考になる視点です。

【2】言葉から個人が欠如している
(第4講「正義の暴走」より)

こちらは、特にテレビ番組を見ていてよく思うことです。
ニュース番組のキャスターの「こんなこと、許されていいんでしょうか」的な発言と、その背景にある「私は何も知らなかった。今、知って、大変驚いている」という姿勢には、視聴者の一人として「しらじらしさ」と無責任さを感じていたからです。

メディアが伝える立場に立たず、自分たちが被害者であるかのような顔をしていることに呆れていました。

内田氏の指摘は、メディアの暴走は、そこで語られることについて、最終的な責任を引き受ける生身の個人がいないということ。これは、結局、言葉を発する人がその言葉を「自分の言葉」として発していないということです。誰も責任を取らない言葉の垂れ流しは、やはり、聞くに値しないというしかないでしょう。

誰かが読む文章を書くとき、私自身が、意識をしていたいとも思いました。


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【文章がうまくなるコピーライターの読書術】そうか、参考は太宰作品だったのか。

2010-09-15 23:23:03 | Weblog
文章がうまくなるコピーライターの読書術(日経ビジネス人文庫 ブルー す 4-2)
鈴木 康之
日本経済新聞出版社

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文章は、文字、そして、言葉の組み合わせだ。

だから、文章の上手・下手は、伝えたいことを伝えるために、言葉をどう組み合わせて使うかという能力に長けているかどうかにかかっていると思っていた。

「文章がうまくなるコピーライターの読書術」は、著名なコピー作品(企業や製品の宣伝広告)や、文学作品の具体的な事例を示しながら、そのコピーの面白さや注目すべき特徴を紹介している。

掲載されているコピー作品は、読者(消費者)を惹きつける力がある。解説を読み進めると、なぜ惹きつけるのかが、「なるほどね」という感じで分かってくる。
著名なライターは、みな努力家というのもうなづけた。

私が面白かったのは、第3章「書き出しは読みだしである」のなかで、とりあげられている、太宰治の「ヴィヨンの妻」だった。

著者によると、「太宰治作品から文章教育を受けたコピーライターは多いと思う」とのこと。
しかし、私はこれまでに、太宰治作品を読んで、「コピーライターが参考にできる」などと思ったことはこれまでない。
夏目漱石の小説「坊っちゃん」などのほうが、登場人物に「赤シャツ」とあだ名をつけたりして、コピーにも活かせそうな気がしていた。

しかし、「ヴィヨンの妻」から引用された文章を読んで、読み手を惹きこむ工夫がされていることが分かり、コピーライターが参考にする理由が理解できた。

結論を急げば、文章は、文字や言葉の組み合わせだけで上手下手が決まるものではないということ。

文章は、「読む」という行為のなかで意味をなすものだが、「読む」という行為は文字面をただ追いかけているのではなく、時間性をもつ。文章の作り方しだいで、読むなかにスピード感が生まれることがあり、それが文章で描かれた世界の切迫感をつくりだすこともある。ゆっくり読むように作られた文章は、読み手にゆったりとした空気を感じさせるかもしれない。

たしか、「ヴィヨンの妻」は、松たか子が出演した映画にもなった気が。実は、まだ、読んだことがない。こんど手にとってみよう。


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