ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【チャレンジする心】チャレンジするのは?

2009-05-16 23:48:30 | Weblog
チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から
箕輪 優子
家の光協会

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【チャレンジする心】チャレンジするのは?

「知的障害者のある社員が活躍する現場から」というサブタイトルを見て、障害者が仕事にチャレンジする物語だと考えてしまう人が多いかもしれない。
しかし、この本には、まったく逆のことが書かれている。
「チャレンジする心」が必要なのは、障害者を雇用する企業側なのだと。

障害者が働けるように「特別な職場」をつくるというチャレンジではない。
「特別な職場が必要」という考え方を捨て、「障害者を一社員として扱う」という、当たり前だが、実現が難しいことへのチャレンジといえる。

企業にとって必要なのは、社員が能力を発揮し、利益に貢献してもらうことだ。
著者の箕輪優子さんは、横河電機のグループ会社として、障害者が働く「横河ファクトリー」を立ち上げた。

利益をあげるには仕事の効率化も必要になるが、横河ファクトリーでは、社員である限り、障害者にもこれを求める。障害を持たない社員が、組織の中で求められる当たり前のことは、障害者にも求めるという姿勢で臨んでいる。

箕輪さんは、障害者が働いている職場で起こる問題の多くは「障害者問題」ではなく、コミュニケーションや、人間関係や、仕事に対する意欲の問題であると指摘する。

どんな職場でも問題は起こる。社員に活気がある職場は、問題が起こっても解決できる。社員が障害者であっても、これは、同じということだ。

障害者であっても、それぞれ能力を持っている。その能力を、会社の利益に貢献するように発揮してもらう環境をつくる。

言われてみれば「当たり前」なのだが、これがなかなか実現できていないのが現状だろう。

障害者が働く職場でトラブルが起これば、その原因を障害に結びつけて考えてしまいがちだ。障害者の社員の能力について「こんなことはできないだろう」と雇う側が勝手に限界を決めて、新しいことに挑戦させていないこともありそうだ。

障害者を「雇えない」と思っている企業は、その考え方を変える。それがチャレンジの第一歩になる。

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【白川静 漢字の世界観】漢字って面白い

2009-05-08 23:52:18 | Weblog
白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)
松岡 正剛
平凡社

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【白川静 漢字の世界観】漢字って面白い

漢字がこんなに面白いものだとは思わなかった。

漢字の勉強といえば、「正しく書けるか」「正しく読めるか」ということしか経験したことがない。漢字の成り立ちについても、象形文字から発生したのだろうというイメージはあったが、それ以上、深く考えたことがなかった。
漢字について新しい見方を教えられ、目からウロコが落ちた。

本書は、白川静の「漢字」に関する研究のポイントを分かりやすく解説している。
「漢字は世界を運ぶ箱舟である」
これが、白川氏の漢字に対する考え方である。

例えば、
「人」は、人間が立っている姿。
「比」は、「人」が2人並んでいる姿。
「北」は「人」が背中を合わせている姿。
「背」は「北」を背負ったかたちの漢字だが、これは、古代中国では、王や皇帝は南を向いて座るため、王が背を向ける方位が「北」になっている。さらに「敗北」は王が北に背を向けて逃走することから発生しているという。

白川氏は、古代社会の祈りや、欲望、期待を解明することと、漢字の文字の形や音を解明することを一体として位置づけている。
漢字の1文字を追究していくと、その文字が持っている世界観が見えてくる。
身近に使っていた文字の背景に、実はこれまで気がつかなかった世界が隠れていたことを知ると、文字に対する気持ちは大きく変わる。

漢字の読み書きの知識を学ぶことが悪いとはいわないが、面白いと思えると、学ぶのは楽しい。

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【おひとりさまの老後】おひとりさまでも上手に生きる

2009-05-07 23:49:24 | Weblog
おひとりさまの老後
上野 千鶴子
法研

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【おひとりさまの老後】ひとりでも上手に生きる

しばらく前に「70万部突破」という新聞広告を見たので、今ではもっと部数を伸ばしているかもしれない。「売れた」と言ってよい本だろう。

ヒットした原因は、いくつかあると思うが、なんといっても、上手いのはタイトルだ。
「おひとりさま」といえば、30代以上の非婚女性を指しているのが一般的。この言葉をタイトルに採用したことで、老後を強く意識する中高年層だけでなく、より広い年齢層の人が手にとったのではないだろうか。

老後をテーマにした本はこれまでもたくさん出版されているが、老後を身近に感じられる中高年層や、介護に直面している人を読者対象に据えたものが多い。

老後の「お金」に注目して、年金の制度や資産形成のノウハウなどを解説した本や、家族の介護の手法や利用できるサービスを紹介した「介護」の本は、その分野に興味がない人が読むことはないだろう。「お金」「介護」などテーマを絞り込めば、それによって、読者の幅は狭くなってしまう。

「おひとりさまの老後」では、「住まい」「人との付き合い方」「介護」「お金」、そして、「終わり方」を取り上げている。これらの項目は、これまで出版された「老後」の関連書籍と大きく異なるわけではない

ただ、本書では、1つひとつの項目について細かい知識を授けるわけではなく、「おひとりさま」の特長を踏まえ、「こう考えていけばいいんじゃない?」という感じのざっくりした提案になっている。ハウツー本ではなく、「生き方」「考え方」を伝授している。

日本は「高齢社会」で、平均寿命は女性のほうが長い。
離婚率が上昇し、結婚しても、再びシングルになる場合も増えている。
息子や娘がいても、核家族化で、同居するケースも少なくなっている。
したがって、女性は、「老後」と呼ばれる時間を、ひとりで過ごす可能性が高くなっている。

多くの人は、すでに、これらのことに気づいている。
国の社会保障制度も頼りになりそうにない雰囲気で、若い世代でも漠然とした不安も感じている人が多いはずだ。しかし、一方で、老後まで時間がある人は、「じゃあ、どうする?」を学ぶためにハウツー本を買って知識を吸収しておこうというところまで真剣に考えてはいないにちがいない。「貯金をしておこう」とか「疾病保険に入っておこう」といったことで済ませていると思う。

「おひとりさまの老後」は、老後の生活に関して、ざっくり提案する内容にしたからこそ、老後にはまだ時間的に余裕がある人たちも気軽に読める「生き方の参考書」になった。

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