ゆるっと読書

気ままな読書感想文

【障害者の経済学】働くことは自然なこと

2010-08-29 21:28:03 | Weblog
障害者の経済学
中島 隆信
東洋経済新報社

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私が関心を持って読んだのは、第7章の「障害者は働くべきか」という章。
就労は、賃金や人件費など金銭に関わる経済的なテーマだろう。

障害者就労については、さまざまな課題がある。
企業側の雇用努力や、職場で定着できるような支援体制などが必要とされている。

ただ、著者は根本的な課題として、障害者とその保護者に「働くこと」の意味を理解してもらうことをあげている。

著者は、次のように指摘する。
「養護学校という温室で育てられ、厳しい現実社会で働くということの意味をよく理解していない。なぜ、働くのか。働くのはどういうことか。健常者であればアルバイトや友人関係を通じて自然に働くことの意味について理解を深めていく。他方、隔離された養護学校で育った障害者にはこうした経験が絶対的に不足している」

保護者についても
「自分の子を不憫に思い、その一切の責任を抱え込もうとする。(中略)一般就労という厳しい現実社会に飛び込まなくても、年金と特別手当があれば、福祉的就労をしつつ親掛かりで何とか生活していけるのだ」という。

「働かないことが普通」という意識を持っている障害者、その家族には、どんなに就労のチャンスがあっても難しい。
「働く」「働かない」は最終的には個人の選択になるのかもしれない。
しかし、選択する前に、「諦め」の意識をもってしまい、働くことの喜びや働くことを通じて得られること(人間関係を学ぶこと、困難を乗り越えていく精神力など)を得られないとしたら、とても残念なことだと思う。

本書と直接の関わりはないが、
『少子化が進むことで労働人口は減るのだから、働ける人にはできるだけ働いてもらい、税金を納めてもらうことが、今後の日本を支えていくうえで大切』という指摘を聞いたことがある。
「障害者が働くことは自然なこと」という意識を広げていきたい。

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【死刑でいいです】人から必要とされること

2010-08-14 00:37:12 | Weblog
死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人
池谷孝司(編著)、真下周(著)、佐藤秀峰(イラスト)
共同通信社

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16歳で母親を殺した少年が、再び、殺人を犯してしまう。
3人を殺した山地悠紀夫は、25歳で死刑となった。

「死刑でいいです」は、山地が起こした殺人について、その背景にあったものを探ろうとした本である。

内容は、とても重い。

山地は、人と上手く関係をつくれない特性をもっていたようだ。
専門家には、「アスペルガー症候群」という人もいれば、「広汎性の発達障害」という人もいた。

著者は、「何かもう少し支援があれば、少なくとも2度目の殺人は防ぐことができたのではないか」という視点をもっている。取材を終えて、「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などの専門的な診断名にこだわるよりも、その人の特性に注目して、孤立させないことが大切だと考えている。

取材を受けた発達障害の当事者は、セルフヘルプグループに入る以前は、「生まれてこなければよかった」「自分なんか消えてなくなればいいのに」と思っていたと話す。人との関係がうまくつくれず、「生きづらさ」を抱えて生きていたからだ。
彼女は、発達障害の人は、人の役にたち、人から求められる体験をしていないので、そういう体験をすることが大切だという。「ありのままでいい」といってもらえると、救われると話す。

逮捕された後、山地も、「自分は生まれてくるべきではなかった」と言っている。
「ありのままでいい」と、存在を認めてもらえるような出会いがあれば、彼が殺人へ走ることを防げただろうか。

正直なところ、よく分からない。
殺人を防ぐための何かが足りなかったという印象だけが残る。

ただ、どんな人でも、生きていくうえで、人から必要とされることが大事。
この点は、共感できる。

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【日本でいちばん大切にしたい会社】人を大切にする会社

2010-08-04 23:43:23 | Weblog
日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司
あさ出版

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【日本でいちばん大切にしたい会社】人を大切にする会社

この本は、中小企業の経営において「大切にしてほしい」ポイントを示し、そのポイントを実践している5つの会社を紹介している。

 金銭的な利益を優先させるあまり、商品の産地を偽装したり、下請けの企業に過酷な要求をしたりする企業の在り方は、結果として、企業の継続や成長につながらないことに気がついてほしい。著者には、そういう思いがあるようだ。

 本書では、会社には「5人」に対する責任と使命があり、それを達成するための行動を「本当の経営」だと位置づけている。
そして、「5人」の第一番目に「社員とその家族」をあげている。
つまり、企業の経営者には、社員とその家族の幸せを、まず第一に目指してほしいという。
企業経営は、人・物・金だとか、人材・技術・情報というが、こうした見方がそもそも誤りで、一にも二にも「人財」だと強調している。


 「君なんて、いつ、辞めてもらってもいいんだよ」
 「君の代わりは、いくらでもいるんだよ」
かつての職場で、そして現在勤務している職場でも、こんなセリフを言われた経験がある。上司はこういう言葉を投げつければ、私が意見など出さなくなり、おとなしくなると考えたようだった。本気で「辞めてほしい」と思ったのかどうか、そのときの真意は分からない。

 たしかに、自分と同じ程度に、あるいはそれ以上に、仕事ができる人間は世の中にたくさんいる。多くの人が、そんなことは、言われなくても知っている。
だから、私が感じたのは、「こんなこと言っちゃって、この人、バカだな」ということだけだった。そのセリフは一人の社員のやる気を下げるだけで、そのほかに何も生みださない。一人のやる気の低下は、他の社員にも伝染し、マイナスの効果を生むことになるかもしれないからだ。同じ給料を払うなら、社員(部下)がやる気を高めて仕事に臨んだほうが、パフォーマンスだって上がるのに…。そんなことを考えていた。

社内にいる人を「財」として、それを活かすこと。企業経営はそれに尽きるという点。業績や利益ばかりを追求すると、誰かを犠牲にし、それは結局、企業の継続につながらないという点は、とても共感できる内容だった。
本書で紹介されていた企業のなかでは、社員の7割が障害者だというチョークの会社「日本理化学工業」に、著者の強い思い入れを感じた。

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【利休にたずねよ】利休の周りにいた人たち

2010-08-01 00:13:43 | Weblog
利休にたずねよ
山本 兼一
PHP研究所

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直木賞受賞作品、山本兼一著の「利休にたずねよ」は、茶の湯を追求した千利休の恋を描いている。

利休の周りにいる人物、秀吉や家康、利休の妻・宗恩などの視点から、利休の人物像を浮き彫りにしていく構成になっているが、正直なところ、もうひとつ工夫がほしい作品だった。

利休の茶の湯が、他の茶人とは異なる、特別なものとなった理由が、利休が恋した女を自らの手で殺したことにあったという点は、面白そうと思わせるのだが、それが比較的早い段階で読者に紹介されてしまうのは、もったいない気がする。

「起承転結」でいえば、「転」の予測がつく状態で延々と「承」が引っ張られる感じがした。

利休を取り巻く人物のなかで、私が興味をもったのは、山上宗ニ。

本当のことを不用意に口にしてしまう性格で、自身でもそのことを反省している。しかし、許しをもらおうとして出かけた場で、再び、秀吉に本当のことを言ってしまい、怒りをかって、首をはねられてしまう。

頑固で、不器用。なかなかうまく世の中を渡っていけない人。
信念があって、譲れないところは、譲らない人。

こういう人を、私は、好きだな。私自身、山上宗ニに、少し似たところがあるかもしれない。

 

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