(1)豊川稲荷 (港区元赤坂1)★★★
赤坂見付で降りて、坂道を登りかけたところで、鉄の下駄を履いて来た事に気が付いた。坂の上の「とら屋」の喫茶室で一息入れなければと思いつつ、ゆっくり歩いていくと、坂も終わりかけた辺りで、横断歩道の信号が緑になった。そこで、「とら屋」はまた今度ということにして、ともかく渡ってしまう事にした。道路の向うが今日の目的地の豊川稲荷だったからである。
豊川稲荷は豊川市の豊川稲荷の別院で、大岡越前ゆかりの稲荷がその前身だという。江戸時代には繁盛した稲荷のようだが、現在では特別な日でもなければ、参詣者が多いとは思えない。それにしても、ここの狐の風貌は獰猛である。この寺の本尊であるダキニ天が乗っているのは、狐ではなくてジャッカルだと云うのは本当なのだろう。ともかく賽銭をあげて、境内をうろついた。この寺は東伏見稲荷と違って異様な雰囲気だなと思いつつ、そのうち、ここでは自分だけが浮いた存在になっている事に思い当たった。早々に退散すべきなのだろう。
寺の石段を降りようとして、もう少しで躓きそうになった。三毛の猫が石段の所に寝そべっていたのである。邪魔な猫めとぶつぶつ云いながら、坂を下っていくうち、何時の間にか鉄の下駄がいつものウオーキングシューズになっているのに気が付いた。足取りも軽く坂を真ん中あたり迄降りたところで、何気なく後を振返ると、先程の猫が後を付けてくるのが見えた。いや、猫がどこへ行こうと、猫の勝手だし、後を付ける理由も見つからない。それでも気になって、交差点のあたりで、もう一度振返ると、猫がすぐそこに居て、こちらを見詰めている。お前....、ひょっとして....。